12話 捕獲クエスト開幕!(1/2)
街の郊外に位置する原生林、その中のハンターが本陣を構える集落跡の広場。
そこへ集合時刻の1分前になってようやく姿を現したアリーシャに、リベリカは大声で注意した。
「アリーシャさん遅いですよ!」
「えぇ、別に遅刻してないじゃーん」
アリーシャは口を尖らせてぶーぶー言いながら近づいてくると、茶目っ気たっぷりに人差し指を立てる。
「もーそんなに怒ると可愛い顔が台無しだ、ぞ?」
「茶化さないでください。新人は10分前行動が基本です」
「相変わらずリベリカはくっそまじめだなぁ」
アリーシャは肩を竦めてリベリカの身体を上から下へと観察するように目線を動かした。
今日のリベリカはあくまでクエストの予備メンバーとは言え、ハンターとしての防具一式をちゃんと身に着けている。
無言で身体をジロジロ見てくるアリーシャの視線に恥ずかしさを覚えて、リベリカはもごもごと口を開く。
「な、なんですか……」
「いやぁ、リベリカはそういうデザインが好きなのかーって思って」
「好きって言うか、私の予算で揃えられるのがこれだったんですよ」
リベリカの装備は革をメインにした初級ハンター御用達の防具だ。
ベースカラーは淡い紺色で、切り傷から守るために腕も脚も露出はなく、胸や肩など急所部分にのみ金属のプレートが組み込まれている
アリーシャがニコパっと笑顔を咲かせて口を開いた。
「じゃあこのクエスト終わったら一緒に装備見に行こ!」
「いえ、しばらくはこの防具使うつもりなので遠慮しておきます」
今の装備一式はギルドに加入したての頃、それなりに長く使う前提で思い切って購入したもの。
今の懐事情を考えても、そう安々と防具を買い替えられる状況じゃない。
「えー、リベリカならもっと可愛い防具似合うのにー」
「私は防具に可愛さとか求めてないですから」
「じゃあ私服でいいからリベリカで着せ替えごっこしたい!」
「なんですかそれ本心漏れてるじゃないですか……」
心身ともにぐいぐいパーソナルスペースを埋めようとしてくるアリーシャに若干戸惑いつつ、リベリカが逆に問いかける。
「アリーシャさんこそ、その恰好なんですか」
今日のアリーシャも全身は相変わらずの白一色。
さすがに普段着用のワンピースではないものの、それとほとんど大差ない身軽な恰好をしている。
主な防具は上から順にベスト、グローブ、ショートパンツと腰に回したフォールド、そしてブーツくらい。
腕や太ももが大胆に露出していて、それこそモンスターと対峙する
「なにって、いつもの装備だけど?」
「いつもその恰好なんですか⁉」
「そーだよーカワイイでしょ」
リベリカは信じられないという目でアリーシャを見るが、そういえば初めてあった時もアリーシャは純白のワンピース姿でモンスターと対峙していたことを思い出した。
あの時は視覚が正常でなかったから幻覚でも見ていたのかもしれない――とは思っていたが、この姿を見てあれが見間違いでなかったのだと確信する。
やっぱりこの女の子、どこか……というより何もかもおかしい。
本当にこの格好で大丈夫なのかとか、白だと汚れが目立つんじゃないのかだとか聞きたいことは山ほどあったがその質問は諦めた。
今はそれよりも先にやるべきことがあるからだ。
「アリーシャさん、続きはあとにして早くギルドマスターのところへ行きましょう」
「ギルマスのとこ? なんで」
「挨拶しに行くために決まってるじゃないですか」
「め、めんどくせぇ……」
「いいから、ほらいきますよー」
行きたくなーいと駄々をこねるアリーシャを引っ張って、リベリカはギルドマスターのもとへ歩いていく。
ギルドマスターのいる場所は遠くからでもすぐに場所が分かった。
わざわざ持ってきた革張の椅子が用意され、その周りを召使の女性が数人取り囲んでいるからだ。
しばらく引きずられていたアリーシャもさすがに観念したらしく、手を引かれて歩きながら呑気な口調で言う。
「これまたどえらい椅子に座ってんのねぇ、あの人」
「ギルドマスターの前ではそういうこと言わないでくださいよ」
「へーい」
しっかりと釘を刺してからギルドマスターの近くまで歩みより、リベリカは深々と頭を下げた。
ついでに横で突っ立っているアリーシャの頭も無理矢理おさえて下げさせる。
「ギルドマスター、おはようございます。今日はよろしくお願いします!」
「おなしゃす」
顔を上げると、ギルドマスターは椅子に座ったまま首を巡らせて口を開いた。
「ああ。新人のふたりは今日の狩りでよく勉強していきなさい」
「はい!」
リベリカの威勢のいい返事に機嫌を良くしたのか、ギルドマスターは「よろしい」と口にすると広場で狩り場の準備をしているハンターを指さして続けた。
「見なさい。彼がいま設置しているあの罠こそ今回のキーアイテムだ」
「陸上設置型の拘束具……ですよね」
「そのとおり! かれこれもう30年前になるかね、私が考案した特注品でね、今やこのギルドでしか取り扱えない貴重なものなのだよ」
「30年前ねぇ」
しれーっとした目で明後日の方向を見ているアリーシャがぼそりと呟いた。
それに反応したギルドマスターがムッとした顔を向ける。
「きみ、名前は何といったか」
「アリーシャです」
「アリーシャくん、なにか言いたいことがあるなら言ってみなさい」
「じゃあ言います。今って他にもいろんな罠あると思うんですけどなんで使わないんですか?」
珍しくアリーシャが丁寧な口調で質問すると、ギルドマスターは「ハッ」と鼻で笑って蔑むような目を向けた。
「なんですか」
「これだから若いやつは。何もわかっとらん」
ギルドマスターは面倒くさそうに嘆息し、ひじ掛けに腕を突き立て、頬杖をつき、憐れむような目を向けて続ける。
「若者はすぐ新しいものに飛びつこうとする。まったく考えが浅い。浅すぎる。大事なのは伝統と実績。使い慣れたものを使うのがもっとも安全で確実だと、どうしてわからんのかねえ」
ギルドマスターはアリーシャの身体を上から下へとなめまわすように見つめ、再び鼻を鳴らすと、空いているもう一方の手でアリーシャの肩を雑に叩いた。
「まあ君は女である上に経験が少ないから知恵が足りないんだろうね。今日はこの私の技を生で見られる幸運に感謝してしっかり勉強しなさい」
「あのぉ、お言葉ですけど――」
アリーシャが眉根を寄せて食い下がろうと口を開いた直後。
「ギルドマスターッッ!!」
ひとりのハンターが大声を上げながら慌てた様子で走ってきた。
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