2話 狩人の女の子(1→2)

「明日には次の街に着くと言うのに……どうしてあの子はじっとしてられないんだ」


 アリーシャを見送ったパーカスは愚痴をこぼしつつも、残ってランチタイムを再開することにした。


 アリーシャはまだ10代の女の子だが、狩りの実績はその歳に見合わないほど十分に積んでいる。

 せっかちな性格こそ手を焼くし、まだまだ未熟で生意気なガキンチョだが、狩猟免許ハンターズライセンスを保持する一人前のハンターだ。


 プロとしての分別を持っているのだから、あくまで遠目に観察するだけならひとりで行かせても大丈夫……なはずだ。


 パーカスはすっかり冷めきった残りのコーヒーを飲み下す。

 ぬるい。そして雑味が目立つ。

 コーヒードリップの時に、注湯の温度とタイミングを考えず急いで抽出した証拠だ。


「やっぱりまだまだ半人前か」


 アリーシャの分だけサンドイッチを残してバスケットをしまい、重たい腰を上げる。

 念のため、あと万が一の時のためだと言い訳して。

 親バカパーカスが目指すはただひとつ――愛弟子・アリーシャをその目で見守れる場所。



 パーカスの元を離れてひとり駆けてきたアリーシャは、高い場所から見下ろすのに都合が良い岩山を見つけて頂上から周囲を見渡していた。


 この辺り一帯は野生の動植物が支配する原生林だと聞いている。

 けれどよく見ると、その一部は樹々が切り開かれており、野原に古い木造小屋が集まっている場所がある。見たところ、おそらく古い集落の跡地なのだろう。

 そして、そこにお目当てのモンスターである巨大な狼――賢狼獣クルークウルフの姿を見つけた。


「おー、こりゃでけぇ」


 思った通りかなりの大型で人の身長なんて優に超えている。

 目算だが全長は牛4頭分くらいあるだろう。

 立派に発達したあの前脚ならボロい木小屋なんて一撃で粉砕してしまいそうだ。


「対するハンターさんたちはどこかしらーっと?」


 さっきの大規模な爆発もこのクルークウルフを誘い出すための作戦だったはず。

 つまりこの近くに獲物を狙っているハンターたちがいるのは間違いないのだ。


 目を凝らして周囲を観察するが小屋の陰には人の姿は見つからない。

 となれば、周囲の森の影か茂みの中かと経験をもとに探っていく。

 すると、思った通り近くの茂みに数人のハンターたちを発見した。


 大型モンスターの角や牙をあしらった鎧を被り、大きな盾と槍を構えている大柄なハンターがひとり。おそらく彼がリーダーで、その後ろには煌びやかな鎧や革のコートに身を包んだ3名の男が待機している。


 そして、その最後尾にいかにも初心者向けの防具を身に着けた少女が伏せていた。

 

「うおぉっ、女の子のハンター⁉ めっちゃ珍しいじゃんッ!」


 思わず口にしてからそういえば自分も女だったと思い出して笑ってしまう。

 だが、実際のところ女性のハンターに遭遇するのは本当に珍しい。

 しかも、それが自分と同じくらいの若い女の子となるとなおさら……というかアリーシャにとっては初めて見るレベルの希少な存在だ。


 おそらく彼女たちはまさに今からクルークウルフへ攻撃を仕掛けるのだろう。

 そう思って観察していると。


「ん、ありゃ? どゆこと⁇」


 ハンターたちの様子がなにかおかしい。

 目と鼻の先にターゲットがいるにも関わらず、隊長を先頭にして男ハンターたちがクルークウルフに背を向けて森の中へと消えていったのだ。

 結果、その場に残ったのは女性ハンターひとりだけ。


「いやいや、あの子ひとりじゃ無理でしょうよ……」


 クルークウルフはハンターひとりでどうにかできるようなモンスターじゃない。

 彼女がひとりだけ残っているということは実は相当な凄腕ハンターなのだろうか?

 それともすべて作戦のうちで、森に消えていったハンターたちがクルークウルフの背後に回っているとか?


 アリーシャは携えている太刀に無意識に手を置いて、いやいやダメだと我に返る。


「勝手に手は出せないしなぁ、ちょっと様子見するしかないかー」


 よっこらせと高台に腰を下ろし、アリーシャはこの地域のハンターたちのお手並みを拝見することにした。

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