第2話
***
「これはこれからみんなが行く研究所にね、先に侵入した人たちの記録なの。大変なことになってるから、みんな静かに聞いて。いい? それじゃあ始めるよ——」
【——呪われた実験室—— ヒトゾンビ化抗ウィルス薬を手に入れろ!】
『た……助けてぇ……ここから逃げ出せなぃ……。は……はやく……なんとかしなくては、このままだと……こ……のまま……だと……ブチッ——ツーツーツー……』
「隊長、これが、あの実験施設に侵入した隊員からの最後の通信です——」
「これが、最後の通信なのか——」
「はい、隊員は全部で四名。その四名全員の生命確認装置からの信号も……、この通信を最後に途切れました——」
「生命確認装置の信号が……。と言うことは、あの四人は——」
「もう、生存している可能性は低いと言うことです——」
「なんてことだ! それではあの実験施設からヒトゾンビ化ウィルスの抗ウィルス薬は持ち出せなかったと言うことになるじゃないかっ! くそっ! このままでは全人類が、いずれヒトゾンビ化ウィルスに感染し——生きた屍に! だがしかし、なんとしても、ヒトゾンビ化ウィルス薬を手に入れねばならん! 致し方ない。ここにいる者全員で、あの恐ろしい実験施設に向かう!」
「ですが隊長! あの実験施設では恐ろしい動物実験や人体実験で生まれた怪物が——」
「仕方がないだろっ! 俺たちが、俺たちがなんとしても止めなくてはいけないんだ!」
「でもっ——」
「なんだ、言ってみろ!」
「はっ! 実は最後の通信の前に送られてきた網膜カメラの映像を見る限り、実験施設の最初の入り口で人感センサーが作動しブザーがなると、それに反応したかのように暗闇から得体の知れない何かが現れ、それに襲われているように見えました!」
「と、言うことは——」
「そのセンサーに反応した時点で、アウトかと」
「センサーに反応しないように進まねばならぬと言うことか?」
「おそらく……」
「と言うことは、人数が多くてはまずいと言うこと。ひとりずつ向かわねばいけないと言うことだ。よし、それではひとりずつ進み、あの実験施設の中のどこかにあるヒトゾンビ化ウィルス薬を探し出し、持ち帰ってくるのだ! 大丈夫、君たちならできる! もちろん、最初に俺が向かおう! それが隊長たる者の使命だからな!」
隊長は、そう言って恐ろしい実験施設の中へと入って行ったけれど、三時間以上たった今も、未だ帰ってこない——。最後に送られてきた網膜カメラの映像は、真っ赤に染まる実験室の底から伸びる白い手の映像だった。隊長の生命確認装置はまだ生きていることを知らせているけれど、だんだん心拍数が減っていくように見える。
「こうなれば、ひとりひとり実験施設の中に入るしかない。そして、隊長を助け出し、抗ウィルス薬を持ち帰るしかない。私は、いくわ——」
***
ほら、すごいでしょ? このお話も夢子ちゃんのお母さんが作ったんだって! ね、なかなか本格的でしょ? それで、ほら今ここ、映ってるこの『ヒトゾンビカウィルス薬』って薬をね、お化け屋敷の中から取ってくるのが今回のミッションなんだって。それにね、屋根裏部屋は狭いから、ひとりでいかなきゃいけなくってね、それがすんごく怖かったの。でも、みんな怖いから二人一組になったんだけどね。へへへ。
これ、写真撮ってきたんだけどね、このポスターも呪いの館みたいで怖いよねぇ。で、その下になんか書いてあるでしょ? でね、このポスターに書かれているお話の文字がさ、ちゃんと全部振り仮名がしてあるんだけど、ほら! こことか、少しずつ色が違うでしょ? ここは黄色だけど、ここはオレンジで、ね? お母さんにも見える? 小さくて見えない? もう、じゃあ大きくするね。ほら、これなら見れるでしょ? もう、ちゃんと見てくれなきゃ嫌だ。いいもん、じゃあさ、わたしが読み上げるね。えっと——
『20XX年。
生物兵器を作り出そうとしている製薬会社の研究所から『ヒトゾンビ化ウィルス(ゾンビになっちゃうぞウィスル)』が何者かによって持ち出された。
このままウィルスが世界中に広がれば、世界は滅亡へと向かってしまう。
動物・人体実験をしていた研究施設へと侵入し、『抗ウィルス薬』を手に入れ、この世界を救うのだ。ただし、研究所内にはすでにゾンビ化した人間や動物、さらには実験で命を落とした罪なき生き物の変な怨霊が……。
赤い頭巾をかぶった少女が隠した薬を手に入れ、君は無事に脱出できるか。健闘を祈る——』
だって! それの、文字が所々色が違っていてね、その同じ色をつなげて読むとね、『研究室の机の右』とか、『隠し部屋の中』とか、言葉になってるの! ねぇ? すごいでしょ? それをみんなで発見してね、だからお化け屋敷の中の隠し部屋を探すんだけど。わたし、すっごく怖くって。でも、お母さんに見せてあげたいからスマホで動画撮影しながら行ってきたんだよ。ねぇ、お母さん〜、もういいでしょなんて言わないで、最後まで見てみて! まだ夕ご飯には時間もあるし、ね、ゆっくり見せたいから手を洗ってソファで見てよぉ。撮ってきた動画見せたいの。ね、いいでしょ?
ヤッタァ! お母さんありがとう! じゃあ、見せるよ。え? わたしは誰とペアになったのかって? うん……。本当は夢子ちゃんと一緒に行きたかったんだけど、夢子ちゃんはタケルくんとペアになっちゃって。うん、そうだよ。グッチパーで決まったの。だからわたしは、トモヨちゃんと一緒に行ってきたんだ。お母さんはトモヨちゃんのお母さんとは仲良いもんね。あぁ〜あ、夢子ちゃんのお母さんと友達ならいいのになぁ〜。
え? なんでそんな変な顔するの? 怒っちゃったの? やだなぁ、ちょっとそう言っただけだよ。でも、お母さん、そんな顔しなくてもいいじゃん。ちょっとそう思っただけなんだって! だから、ほら、ほら、この先見てみてよね?
あ……。ダメだ。真っ暗で何にも映ってなかった……。あのねお母さん、そういえばね、お化け屋敷に入るまではちゃんと動画も写真も撮れてたのにね、変だったの……。夢子ちゃんの家の屋根裏部屋はね、薄暗い階段を登った先にあって。それで、その階段を夢子ちゃんのお母さんと、トモヨちゃんと三人で登っていってね。うん、みんなは最初の部屋で待ってるから。それに、夢子ちゃんのお母さんの話だと、本当はひとりでいかなきゃサイレンがなってゾンビに気づかれちゃうから、でもひとりは怖いから二人組になったんだけど。
うん、それでね、お化け屋敷がある屋根裏部屋のドアの前に来て小さな懐中電灯をもらって、それをつけて進んでいくんだけど、動画を撮ろうとしたらね、なんでかわかんないけどスマホの懐中電灯のマークが画面から消えていて、つかなかったの。だから、しょうがないからスマホのライトはつけないで、その小さな懐中電灯の明かりだけで進んだんだ。そっか……。だから真っ暗闇しか映ってないんだ。これじゃあ、お化けの声とわたしたちの声しか聞こえないよね。あぁ〜あ、残念! 五時のチャイムに間に合うように急いで帰ってきたから映ってるかどうか見てなかったぁ〜。
じゃあさ、お母さん。わたしがどんなだったのかを話すから、聞いてて。本当に、本当に怖かったんだよ。
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