夢子ちゃんちのお化け屋敷

和響

第1話

 あのね、お母さん。今日夢子ちゃんちに遊びに行ってきたの。うん、こないだ話したでしょ? 同じクラスの夢子ちゃん。修学旅行も一緒の班なんだよ。お母さんは夢子ちゃんのお母さんと友達じゃないの? そっか、夢子ちゃんのお母さんのこと、全然知らないんだ。


 あのね、夢子ちゃんのお母さんはね、毎年ハロウィンになるとおうちの屋根裏部屋にお化け屋敷を作ってるんだって。それでねそれでね、今日ね、みんなんで夢子ちゃんの家に遊びに行ってきたの。え? うん! もちろんちゃんとお邪魔しますって言ったし、靴も揃えたよ。お母さん、わたしもう小六だよ? ちゃんとそう言うことはできるって。お兄ちゃんとは違うって。


 あ、そういえば夢子ちゃんのお兄ちゃんってね、今中学校二年生で、うちのお兄ちゃんと同い年なんだよ。ねぇ、お母さん、夢子ちゃんのお母さんのことそれでもやっぱり知らないの? そっかぁ。知らないっか。残念だなぁ。もしもお母さんが夢子ちゃんのお母さんと仲良しなら、わたし、もっと夢子ちゃんの家に行けるかもなんだけどな。え? なんでって? だって、夢子ちゃんのお母さんはいつも仲良しのお母さん友達と一緒にお化け屋敷を作ってるって言ってたから。お母さんも夢子ちゃんのお母さんと友達ならね、お母さんもお化け屋敷に一緒に行けるかなって思ったんだけど、仲良くないならお母さんはいけないよね。残念。


 うん、それでね、夢子ちゃんの家に今日行ってきてね。何人で? えっと、タケル君と、ソウタ君と、コウヘイ君と、あと、リオちゃんに、カンナちゃんに、トモヨちゃんに、えっと、わたしを入れて七人だね。大丈夫だよぉ、そんな大勢で行って大丈夫なんて心配しなくても! だって、夢子ちゃんの家はハロウィンの時はお化け屋敷になるくらいだからね、子供がたくさんくるのは慣れてるって言ってたよ。うん、お母さん大丈夫だってば! ちゃんと挨拶もしたから! それにね——


 夢子ちゃんのお母さん、趣味でお話を書いてるんだって。夢子ちゃんから聞いた話だと、怖いお話を書いてるって言ってた。え? 小説……家なのって? えっと、それって漢字がいっぱいの難しい本のこと? ふうん、そうかも。でも仕事じゃなくって趣味だって言ってたよ。呪いとか、祟りとか、コンテストとかに出すために、そう言う話を書いてるって夢子ちゃん言ってたもん。


 でさ、それでそれでね、今日行ってきたお化け屋敷もね、すんごく怖かったの!


 学校が終わって一回帰ってきてからね、お母さんまだ仕事でいなかったし、学校で待ち合わせをして、自転車に乗ってみんなで夢子ちゃんのお家に行くとね、玄関を入って一番最初にある部屋に行ったんだけど、なんとね、その部屋のドアにはさ、真っ赤な紙に黒い手の跡がべたべたついたポスターが貼ってあってね。難しい漢字がいっぱい書いてあるの! え? なんて書いてあったのって? うんと、読めない漢字もあったけど、多分、『人体実験』とか、『研究所』とか、『ウィルス』とか、それに、『無事に脱出せよ』みたいなことが書いてあったと思う。うん、それも、夢子ちゃんのお母さんの手作りなんだって!


 それでみんなでその部屋に入って待ってると、夢子ちゃんのお母さんがやってきてね。「それじゃあこれからお化け屋敷のご説明をいたします」なんて話し始めちゃって! そのお話がね、とっても面白いんだよ!


 ある薬を作ってる会社の研究室からゾンビになっちゃうウィルスが持ち出されちゃって、それで、そのままだと世界が滅亡するから研究所の中に入ってそのウィルスに効く薬をとってくるって話なの! そのお話を夢子ちゃんのお母さんがしてくれるんだけど、あっ! それね、スマホで撮ってきたから見てみて! 


 ほら、これだよ。これが夢子ちゃんのお母さん。お母さんよりも太っちょだけど、ちゃんとお化粧もしていて結構綺麗なお母さんだよね! お母さんこの人見たことないの? 本当に? へぇ、面白そうなお母さんだから、目立つかなって思うんだけど。そっか、やっぱり見たことないんだ。残念。それでね、あ、お母さん、大根切ってないで、私の話ちゃんと聞いて、これ見ててよ。ここ、このタケル君のどアップの後から始まるから! ほら、そうそう、こっから始まるの! ちょっとこの話、大根切るのやめて見てみてよぉ〜。包丁置いて。ね? ほら、もう始まっちゃう——ここから始まるんだよ。


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