第12話 回りくどい
川俣と飲んだあと、僕はタクシーに乗って帰宅した。ぼんやりとした記憶の中で、運転手と話したことが少し鮮明に残っていたのを今でも覚えている。
同級生と飲んでいて、その同級生が可愛くてしょうがない。
また恥ずかしい記憶をつくってしまったと後悔をしているが、確かにそう話していたのを覚えていて、美歌の前で思い出す度に頭が痛くなる。その表情を見られる度に、どうしたの具合でも悪いのと心配されるから、僕は大丈夫と、ついつい嫌なことを思い出してしまうんだと、余計なことまで口にしてしまう。
だけど、美歌は気を使える良い人で、何か力になれることがあるなら言ってね、と深くまで聞こうとしなかった。でも、同居し始めで泥酔して帰ってきたことに関しては、美歌からキツく説教をされてしまった。
それにしても、奏太が酒を飲まず運転していたというのなら、どうして事故が起きてしまったのだろうか。僕と奏太は確かに酒を飲んでいたはずなのに、だとしたらあの時奏太はノンアルコールを頼んでいたことになる。
運転できない僕の代わりに運転をするのだから当たり前のことかと理解は出来たのだが、だとしても事故の原因は。考えれば考えるほどよく分からなくなってくる。
美歌の声が失われた原因も究明出来ていないというのに、また新たな謎が現れてしまった。
ここまでの内容を君への手紙として残そうと思ったけど、上手く伝わらない気がして、とりあえず思い出したことをそのまま書き記してみた。
まとまりの悪い文章で申し訳ないとは思っているけど、現時点でこれらをまとめるとしたらこう表わすべきなのかな。
僕は、回りくどく面倒な人間で君への謝罪文を書くために大幅な遠回りをしている。どこかで悔しい気持ちもあるんだろうな。だって、僕の性格を知っているから分かるだろうけど、僕は負けず嫌いなんだ。
まるで第三者目線の小説のような書き方なんだけど、その方が伝わりやすいかなと思って。簡潔に書けばいいんだろうけど、それほど文才がない僕としてはこの書き方の方が君に伝わる気がするんだ。ごめんなさい。
僕がここまで書き終えるのに、一年以上も費やしてしまっている。日々忙しなく過ごしていく中で、君への罪悪感に苛まれる毎日でだんだんと食べ物が喉を通らなくなっていて、以前よりも食べる量が減った気がする。いや、それは歳のせいかもしれないな。
唐揚げが五個も入った定食にさらに追加でエビフライやさつま天も食べたり、回転寿司にいけば二十皿は余裕で食べていたのに、今となってはざるそばやサラダに冷奴、さっぱりしたものを好むようになった。
君がこの前作ってくれたきんぴらごぼうなんて絶品で、ついつい明日の分と残して置いたものも食べてしまったね。前と比べて、君はだいぶ料理上手になったから僕は安心して台所を任せることができるよ。
上手になったと言えば、手話ができるようになっていたことには本当に驚いたよ。あんなに一緒に勉強しようと言ってもやる気を起こさなかった君が、僕よりも手話について詳しくなるなんて、とても嬉しかったよ。おかげで会話がスムーズになってコミュニケーションが取りやすくなった。
けど、良いことには悪いこともついてくる。初めて大喧嘩したのは、君が手話を初めて披露してくれた時だったか。
ああ、また話が逸れてしまったね。余分な話ばかりでごめん。だけど、僕にとって重要なことだから書かせて欲しい。
君が手話を習った家族旅行の時、僕はまた大きな罪を犯してしまったよね。実はあれだけじゃないんだ。ここからは、その時あった出来事をしっかり書いていこうと思う。読みたくなかったらこの部分は破り捨ててもいいし、燃やし尽くしてもいいから、僕の気が済むままに書かせてくれ。
まずは、僕がどのような経緯で川俣と浮気してしまったかだね。
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