第41話 終章③ 『いつも通りの平和な日常?』

 黄金週間ゴールデンウィークが明け、冥夜が通う学校が登校再開された日。

 

 正確には机に突っ伏していただけなのだがそれにはちゃんとした理由があった。

 それは、

 「犬塚くん。僕は思うんだ――――何故いつも君は僕の邪魔をするんだい? 今日ここに来たのは神代さんに用があっただけなんだが?」

 と、例によってわざわざ上級生の教室から時見が冥夜の教室へとやって来ては険悪なムードの中教室が沸いていた。

 久しぶりの学校で冥夜は偶然を装い彩羽と共に登校する事になった。

 この休み期間に友人と買い物したり色々遊んだという話したり、何故かここ数日眠気があまり来ないことに疑問を持ったりと他愛ない話をしながら登校していたのだが事態が急変したのは教室へと足を運んだ時に起きてしまった。

 教室の前で久しぶりに見た時見の姿が見えたのだ。

 もちろん笑顔で近付く時見に対して冥夜は彩羽との間に割り込むなど妨害をしてしまったが為に女子からわーきゃー男子は同情の目で見られると言う、朝から何ともヘビーな状況になってしまったのだ。

 「はははは、知りませーん」

 冥夜は無気力に笑うしかなかった。

 先日の悪魔が襲来した際の記憶はどうやら混濁した者や地獄の番犬ケルベロスによって情報操作マインドコントロールを行われた事によって記憶が曖昧になった者などがいるようで先日の事を覚えている者はいなかった。

 今はいつも通りの日常が繰り広げられている。

 それは喜ばしい事であり、神代彩羽が安心して学校生活を送れる事を目的とした冥夜達にとっては大変喜ばしい事なのだ。

 「(でもうぜぇぇぇぇぇぇッッッ!!)」

 久しぶりの登校も色々と面倒な事が多いと冥夜は思っていた。

 そして、

 「時見先輩って一途なんだ……」

 「神代さん羨ましいなぁ」

 「恋の三角関係? キャーッ!」

 「どっちを選ぶんだろう?」

 「冥夜は無理じゃね? 甲斐性ねーし」

 「ってか聞いたか? 今日転校生来るんだって」

 「聞いた聞いた。なんでもめちゃくちゃ可愛い子なんだって!?」

 「お近付になりたい!!」

 などと教室内はかなりざわついていた。

 「うっせぇうっせぇ! ってか誰だ!? 甲斐性ないとか好き放題言ってる奴は!!」

 冥夜は叫び彩羽は顔を赤面させている。

 いつも通りの日常。

 こんな日々を、大切な彩羽おさななじみを護れるなら冥夜は傷だらけになろうがボロボロになろうが耐えられる。

 そう思っていた。

 そして、

 「はいはいお前ら席に着けぇ。時見ぃお前は教室違うだろ? もうチャイム鳴ったぞぉ?」

 ヤバい、と慌てて時見が教室に戻る際に「またね神代さん」とだけ言い残すとそのまま時見が去っていき生活指導教員ゴリセンが教室へと入って来た。

 「喜べお前らぁ。今日は転校生が来てるぞぉ――――入って来なさぁい」

 そう言ってゴリセンは黒板に名前を書く。

 教室に入って来た人物を見て教室が――――特に男子ヤロー共が騒めく。

 そして同時に冥夜は驚愕した。

 ポロン、と冥夜のスマホにメッセージの通知が来る音が聞こえたが冥夜はそれどころではなかった。

 教室に入って来たのは女性だった。

 それも金髪碧眼の外国人。

 不思議な雰囲気を醸し出しているその少女の佇まいは凛としていて神秘的に見えた。

 「えっとぉ、今日からこの学校に転校――――というか留学だなぁ。じゃ自己紹介よろしくぅ」

 短く「はい」と答えた少女は真っ直ぐに前を見つめ透き通るような声で、



 「日本の皆さん、初めまして。パルティカン共和国からやって来ましたシャトラ・ティエットと申します。何分不慣れな事が多々あるので皆さんにご迷惑をお掛けしますが――――よろしくお願いいたします」



 深々とシャトラがそこに立っていた。

 男子、女子と共に歓声が沸き上がる。

 冥夜は口を金魚のようにパクパクとさせていると耳元から『フィーア』から無線が入った。

 『今しがた冥夜のスマホにメッセージを入れたんだが、一応報告しておくぞ。今日からシャトラ・ティエットはウチの客人として〝ケルベロス〟に入団した。まぁ細かい説明は面倒なので省くが、一応。じゃあ私は手続きやその他の対応で疲れたんで寝る』

 と、それだけ伝えると無情にも『フィーア』からの無線は終わった。

 「あんにゃろう…………先に言えよ」

 冥夜は呟く。

 しかし、狂乱はまだ終わらない。

 「じゃあ…………ティエットはあの空いてる席に行ってくれるかぁ? 犬塚ぁ、よろしく頼むぞぉ」

 よりにもよって冥夜の隣の席。

 ゆっくりと近付いてくるシャトラと目を極力合わせないようにしていると、

 「よろしくお願いしますね、

 二度目の狂喜乱舞。

 教室がざわついた。

 女子のキャーキャーもだが、なにより男子からの(特に殺気がこもった)視線がキツイのだ。

 よく見ると彩羽も珍しく困惑している。

 「……………あぁ」

 応えてしまってからしまったと口を閉じる。

 三度目、もう発狂レベルでざわついた。

 頭を抑えるも生活指導ゴリセンがいる手前だったので完全に強く否定は出来なかったが、他のクラスメート達は止まらない。

 授業そっちのけで質問タイムが始まる。

 特に、

 冥夜とはどういう関係でどこで知り合ったのかという質問に対し、シャトラはしばらく考えてあっけらかんと答えた。

 「どうもこうも――――そうですね、私の全てをさらけ出した相手、ですかね?」

 あ、終わった。

 そう思った冥夜だった。

 一瞬で教室は静まり返り、火山が噴火したが如く教室が発狂、特に男子は血の涙を流していた。

 冥夜は頭を抱える。

 「はははは、もう好きにして」

 日常は少しづつ変わってゆく。

 二人を取り巻く環境もこれから変わっていくかもしれない。

 だが、

 今はそんないつも通りの毎日を噛みしめるかのように、

 ゆっくりと時は流れていった。







 ――――『聖魔動乱編   END』

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リアルフィクション~Real//Fiction~ 俺の幼馴染みには本人も知らない〝秘密〟がある。 がじろー @you0812

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