第32話 幕間③

 時間は少し戻り、再び『禁后』内。

 そこでは『フィーア』を含むオペレーター数名が右往左往していた。

 原因はクルトガ・ティエット改め叡智の悪魔『ダンタリオン』が凶行しようとしている〝とある儀式〟についてだった。


 ―――――『過去改変の儀』


 『フィーア』がそう勝手に命名したその儀式が行われるであろう場所の特定を急いでいた。

 「いいか。相手は〝聖堂教会〟の手練れだ。恐らくそのバックにいる悪魔もかなりのやり手だ。全員気を抜かず徹底的に場所を絞り出せ!!」

 そんな彼女の激励に返事を返すオペレーターの面々。

 こう見ていると本当にこの年齢不詳の少女ロリババアは副司令官なのだと改めて認識をした冥夜だった。

 「さて、お前が私を『ロリババア』扱いしたのは後ほど詰めるとして、よく無事だったな」

 「勝手に人の心を読むなっつーの―――――まぁ何とか『操影弾』の残りの弾丸で何とか窮地を抜け出したってのと、『アインス』と『ドライ』の二人が助けに来てくれたってのがデケェな」

 操られた教員生徒達を何とか無傷で保護できたのは冥夜にとって本当に安堵する事が出来た案件だった。

 しかし、

 「完璧に後手だな」

 「それに関しては耳が痛いよ。しかし不思議なものだ…………?」

 自分で応急処置を施しながら冥夜は俯いた。

 確かに不思議な事だ。

 クルトガ・ティエット―――――自分の本当の娘を生き返らせるために人工生命体ホムンクルスを手駒にしあまつさえ同胞である悪魔バエルをけしかけ、混乱の最中に自分達ケルベロスの護衛対象である神代彩羽をまんまと攫っていった主犯でもある。

 そんな用意周到な男が何も考えず『禁后ここ』に自分の計画をバラすような危険リスクを犯す必要があるのだろうか?

 『フィーア』やオペレーター達の様子を見てみる。

 先ほど流れていた映像を見返したり、背景に映り込んだどんな些細な部分でも見逃さないように動いている。

 それは情報を探るのに常套手段なのだろう。

 それは分かる。

 分かるのだが、冥夜にはどうにも引っかかる部分があった。

 「(あんな計画重視で動いてる奴がそんな簡単に場所を教えるようなことするか?)」

 おかしい行動はまだある。

 冥夜やシャトラを始末するのにわざわざ素人を操って仕留めに掛かったのもおかしい。

 実力は向こうが間違いなく上だった。

 冥夜もシャトラもコテンパンにやられている。

 にも拘わらず自分で手を汚さないのは一体どういうことなのか?

 「………………なぁ」

 「何だ? 今は忙しい―――――」

 冥夜の問いに『フィーア』は後にしろと言わんばかりだったのだが、そんな事は気にせずに冥夜は続けた。

 「

 「何?」

 「いや、だって挑発なんてしねぇでさっさとその〝儀式〟ってモンを済ませば危険リスクなんて背負う必要ないだろ? なのになんでそんなまどろっこしい事するんだ?」

 そもそも、

 やり方が回りくどいのだ。

 わざわざ冥夜にシャトラを二度もぶつけてきたり、

 教員生徒を操り襲わせたり、

 バエルと対峙させたりと、

 初日のシャトラとの戦闘もだが、今日に限って言えば恐らくシャトラが来なければこれら全てを一人で対処しなければならなかった。

 そもそも、

 「あの蜘蛛野郎が学校の体育館にいたってことは何か関係あるんじゃねーか?」

 そこでようやく『フィーア』の考えに重要な部分が欠落していたことに気付いた。

 「そうか!? 私としたことが何故気付かなかったッ!!」

 『フィーア』の手元にあったキーボードをカタカタと操作し始める。

 「いいか、悪魔というのは

 冥夜の目を見る事無く操作しながら話を続ける。

 「悪魔は自身が住む魔界、そして人間界とその魔界、この二つの境界線の狭間にある場所『辺獄リンボ』と呼ばれる場所で自分の姿を現す事が出来る。あのバエルと言う奴の身体が蜘蛛だったのは魔界やその『辺獄』ではその姿でいる事は出来るが本来は人間界では。だが、奴らが干渉してきたという事は少なくともあの体育館は『辺獄』に入っていたという事だ。分かるかい?」

 冥夜は話を振られるが全然理解が追い付いていない。

 「なあ、だからどう言う―――――」



 「分からないやつだな。つまり 



 操作し終わったモニターには冥夜達の通う学校が映し出されていたが、その映像は乱れており見る事が出来なかった。

 「なるほど…………分かったよ冥夜。クルトガ・ティエットと神代彩羽の二人がいる場所、それはキミ達の通う学校―――――

 灯台下暗し。

 してやられた訳だ。

 冥夜は静かに拳を握ると『シュバルトブリッツ』を手に取った。

 「『フィーア』、刀は?」

 「無茶を言うな。『ヴェヒターシュタール』はかなりの破損ですぐには出せない。というかその『シュバルトブリッツ』ももう限界だ。キミは死にに行くのかい?」

 そんな彼女の言葉に冥夜は短く笑った。

 「アホか。俺は死にに行くんじゃねーよ」

 そのまま冥夜は踵を返し扉へ向かう。

 「俺の目的はただ一つ。彩羽を救う―――――ただそれだけだよ」

 そして冥夜は外へと向かった。

 彼が足を運ぶ先は一つ。

 ボロボロの身体に走る痛みを無視して冥夜はその歩みを早めた。

 その際に彼は一瞬だけ、オペレーター室のソファに横たわる同じようにボロボロになった少女を見た。

 つい先ほどまで殺し合いに近い戦いを繰り広げていた少女に心の中で軽く謝罪をする。

 「(悪いな、今からお前の親父さんをぶん殴る。でも約束するよ―――――絶対にお前の前まで引きずって頭を下げさせてやる)」

 そう誓い、冥夜は今度こそ彩羽が待つ学校へと向かった。

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