第29話 四章⑤ 『追憶②』
クルトガ・ティエットは罪悪感よりも喪った娘に対する想いが勝っていた。
自分が信じる神を裏切り、相反する存在である『
しかし、
「何故だ!? 何故上手くいかないッ!?」
理論は頭に入っている。
構成、術式、記憶の転写も全て完璧なはずだった。
しかし、クルトガの目の前にある延命装置に繋がれているのは肉体だけの人形だった。
その物言わぬ少女は虚ろな瞳を開いたまま虚空を見つめている。
「何故―――――――どうすればアシェアは戻ってくるのだ…………」
その場で崩れるように膝を落とすクルトガは頭を抱える。
娘と同じ輝くような金髪が色褪せ白髪になっている。
「理由は」「簡単だ。」「その肉体には」「〝魂〟が」「入って」「いない」
自分の頭の中でダンタリオンが語り掛ける。
老若男女の声が入り交じった声に最初は気持ち悪かったが今では慣れてきた自分がいる。
「どういう、事だ?」
「お前達」「聖職者でも」「ある理論」「だ。」「本来」「肉体には」「魂が」「宿る」「この二つは」「切っても」「切り離せない」「この世の」「常識」「つまり」「その肉体には魂がない」
悪魔に常識と言われ少し引っ掛かるものがあったがクルトガは話を聞き続けた。
その姿は自分が今まで断罪してきた異端者と何も変わらない。
「魂魄が肉体に定着しない限り娘は動かない、と言うことか?」
魂の概念は理解していても人の手でどうにかなるようなモノではない。
それを超越するのは最早それこそ『神の領域』に達する事になる。
ならどうすればいい?
そんな疑問が頭を巡る。
そんな彼の苦悶を見透かしたかのように『悪魔』は囁く。
「いい事を」「教えて」「やろう」
ダンタリオンはほくそ笑むように言った。
「東の」「小さな」「島国」「日本」「と言う」「そこに」「奇跡を」「起こす」「少女」「がいる」
「奇跡――――――――――だと?」
藁にもすがる想いで食い入るようにダンタリオンの話に耳を傾ける。
「そう」「その」「少女」「の持つ」「奇跡とは」
自分の耳を疑った。
確かにその話は〝聖堂教会〟内でも上層部で話題にはなっていた。
末端であるクルトガには回っては来なくとも自然と耳には入る。
もし、
もしそれが事実だとしたら―――――――
クルトガの口元がつり上がる。
「そうか」
ならば簡単だ。
クルトガの頭の中で次々と
そしてその視線はかつて娘だったモノに向けられる。
「ダンタリオン。私に考えがある―――――」
考えていた計画を打ち明ける。
聞いていたダンタリオンが思わず嗤ってしまうほどだった。
「くはっ」「ははは」「ハハハハハハハッ!!」「実に」「面白い」「いいだろう」「その計画に」「乗ってやる」「やはり」「人間は」「いい」「お前は」「聖職者より」「こちら側の」「者に近い」
壊れた人間は狂気に染まる。
それは、
人格者と呼ばれたクルトガ・ティエットとて同じだった。
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