第28話 四章④ 『黒幕』
「『
『禁后』内では雪崩のように押し寄せる報告の嵐の対応でオペレーター達は慌てふためいていた。
そんな中の報告で冥夜が沈んだ、と報告を受け『フィーア』は親指の爪を噛んだ。
「(冥夜が? いや、それも気になるがここまでしてやられると一層清々しいな)」
冥夜の視界を通じてある程度は何が起きたかは理解していたがここまでこの組織内部を混乱させるとは中々に厄介なものだと『フィーア』は感心している。
しかし、
「いいかお前達、今は残った部隊全勢力を上げて
的確に指示を出し、『フィーア』は椅子に深く座った。
どうにも厄介な事この上ない状況に追い込まれたようだった。
「さて、どうしたものか」
頭をひねっていると異変が起きた。
「副指令フィーア!!
色々と不運が重なる。
忌々しく『フィーア』が舌打ちをするとモニターに砂嵐が走る。
『…………え、かね?』
スピーカーから途切れ途切れではあるが厳かな声が聞こえる。
「―――――何者だ?」
『フィーア』が声を掛けるも相手は誰かが安易に想像がついた。
『聞こえるかね? 番犬の名を語りし異端者諸君』
モニターに映ったのは顔に傷だらけの初老の男、クルトガ・ティエットがそこにいた。
「何かしらのアクションはあると思ったが、随分と早いものだな」
椅子に腰を下ろしたまま銀髪の幼女が横柄な態度で語る。
一瞬怪しい素振りを見せたもののその幼女が只者ではない事を理解した。
『ほう、どうやらただの幼子では無いようだ。私は〝聖堂教会〟異端審問官『祓魔隊』の隊長を務めるクルトガ・ティエットと言う者だ。お嬢さんの名前を聞いても?』
「…………〝
『フィーア』は吐き捨てるように自分の肩書きを名乗った。
もう一つの名は捨てた、と言うのは本当だがこの男に名前を告げるのは危険だと本能が警鐘を鳴らしたのもあった。
『なるほど、これは失礼した。ではキミに知らせがあるのだが聞く気はあるかね?』
その問いに首を横に振った。
「残念ながら私はそこまで暇ではない。独りよがりの自慰行為は勝手にやっておけ」
その返しにクルトガは少し苦笑いをした。
『残念だ。キミならば私の崇高な目的を知ればこの無意味な
「ほざけ小僧が。貴様は私の『作品』を傷付けているんだ。今さら話など無い」
それに、と話を続ける。
「貴様、聖職者でありながら悪魔と契約をしただろう?」
『フィーア』の指摘に無言を貫く。
無言を「イエス」と捉えて『フィーア』は続けた。
「気付かんと思ったか? 様々な技術が発展しているとは言え『
そこまで『フィーア』は推理した。
あくまでもこれは憶測だが、画面に向こう側にいる男は無言になっているところを見るとどうやら当たりだったようだ。
「お嬢さん―――――キミは一体何者かね?」
「なぁに、ただの探求者だよ。人工生命体は私も気になっているがあそこまで強い個体は初めて御目にかかるよ」
そこでふと、クルトガは目の前にいる年齢不詳の少女に心当たりがあった。
「そうか――――貴様は『探求の魔女』だったか………どうりで色々と詳しいと思ったが」
『
「ほう、私を覚えていたか? クルトガ・ティエット。随分と様変わりしたのだな…………二十年ぶりかな? まさかあの熱心だった信者が神に反旗を翻し悪魔と契約とは」
『ぬかせ魔女よ。人は変わるのだよ―――――あんな事があれば余計に、な』
その言葉は重く『禁后』内にいる者達にも重圧が乗し掛かる。
だがその中でも『フィーア』だけは平然としている。
「なるほど…………で? 貴様は聖職者でありながらどのような悪魔と契約をしたのかな? とてもではないが貴様のような小僧が契約出来る悪魔など知れてはいると思うが」
その言葉に皮肉を返すようにモニター越しの男は嗤った。
「魔女には理解出来るとは思えんが…………そうだな、敢えて言うなら叡智の悪魔とは伝えておこう」
その言葉の端々に何かしらのフィルターのようなものがかかっているような気がした。
そこで『フィーア』はある仮説を立てた。
「例えばだが、この国には『言霊』という言葉がある」
何を思ったか急に語ったのは言葉には魂が宿ると言うものだった。
「貴様は『
「――――」
神父は何も答えない。
先ほどのように軽くいなしたのではなく本当の無言。
そんな彼を無視し『フィーア』の話は続く。
「さて、私は今こんな悪魔を思い出したよ。七二体の魔神の一体で、地獄の三六の軍団を率いる序列七一番の大公爵。無数の老若男女の顔を持ち、右手には書物を持った姿で現れるとされる。あらゆる学術に関する知識を教えてくれる他、人間の心を読み取り意のままに心を操る力を持ち、他人の秘密を明らかにしてくれる。また望む場所に幻覚を送り込む力を持つ―――――――――さて? もう一度質問だ。今のキミは一体何者なのかな? クルトガ? それとも?」
そこまで言われてクルトガは俯いた。
そして、
『―――――くく、くはは』
『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッッ!!』
けたたましい不快な嗤い声が室内に響く。
『はーァッ! いやいや、久しぶりに嗤ったよ。流石は探求の魔女だ』
その声は先ほどまでの厳かな声色では無くどこまでも軽く人を不安にさせるものがあった。
「やはりとり憑かれていたか―――――貴様は悪魔か?」
その問いにクルトガだった者が嗤う。
「あぁ」「そうだ」「俺は」「私は」「我は」「僕は」「儂は」「多であり一」「一であり多」「その名は」
老若男女の声。
とてもではないが一人から発せられた声では無く一つの肉体に何人もの人格が入っているかのような感覚。
一呼吸置きクルトガ・ティエットだった者が顔を上げる。
その顔には悪魔にとり憑かれた者に現れる黒い紋様が浮かんでいた。
その者は腕を広げ高らかに名乗り上げた。
「叡智の悪魔―――――『ダンタリオン』」
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