第24話 幕間②
薄れゆく意識の中、シャトラ・ティエットは幼い頃の夢を見た。
いや、
正確には記憶を失ってからの夢と言うのが正しいのかもしれない。
目覚めてから一ヶ月ほどリハビリをした末、
父親代わり―――――いや、血を分けた父親でもある神父の修行は厳しく彼女の心身を疲弊させていた。
しかし、それでも彼女は自分の父親に認めてもらうために粉骨砕身の覚悟で力を付け色々な任務に当たるようになっていた。
異端者―――――そう呼ばれている者を神の名のもとに断罪した。
例えば、
息子が病魔に侵され、禁忌とされている〝魔術〟に手を出した父母を断罪した。
恋人が〝悪魔〟に憑かれた事を隠し通していた男を二人とも断罪した。
両親が邪宗教に入信していたのを黙っていた子供諸共神の名のもとに断罪した。
自分は間違っていない。
そう言い聞かせながらシャトラは断罪していく。
全ては神の名のもと、ひいては上司であり、父親に認めてもらう為彼女はその手を汚していく。
そして、
運命とも思える日、
シャトラ・ティエットに新たな任務が与えられた。
東洋に住む〝
そんな任務が与えられた。
いつもの任務、そう思い彼女は心を殺しながら与えられた任務をこなそうと周辺を探っていた。
そこで彼女は不思議な光景を見る事になった。
まずたった一人の
その組織はあろう事か〝
それだけでも大罪だと思っていたが、どうも様子がおかしかった。
不器用ながら彼女にバレないように慌しく動いていた少年。
損得関係無く奔走し、自分が損をしているだけでどうにもシャトラにはその少年が異物に思えた。
自分達のいる世界が裏側だとしたら、その少年は表と裏を行き来していたのだ。
何か問題があれば奔走し、解決すれば表に戻り普通の少年のように生活をしている。
それがシャトラには気持ち悪く、そして同時に羨望していた。
初めて対峙した時、少女を〝魔女〟と呼んだ時に彼は激昂した。
激しい怒りではなく、静かに怒っていた。
実際それから何度か戦闘に発展したが自分の敵ではない、そう思いながらもどうにも少年に裁きを下せなかった。
邪魔が入った、というのもあるがどうしても最後の一手が決めれなかった。
早急だったとは思う。
今までは邪魔な感情は一切シャットアウトしていたのだが、今回ばかりは何度も妙な感情が入ってくる。
それは羨望なのか?
それとも憤怒?
何故そんな感情が入ってくるのか分からなかった。
「(あぁ――――――――――そうだったん、ですね)」
羨ましいのだ。
何も知らない神代彩羽を影ながら護っている犬塚冥夜という幼馴染みという関係が。
だから苛立ちを覚えたし、羨ましくもあった。
父と娘。
幼馴染み。
血が繋がっているかそうでないかの違いで犬塚冥夜とシャトラ・ティエットの共通点は色々とあったのだ。
それに気付いた時、深く、更に深く意識が沈んでいく。
次に彼女が見たのは記憶にない光景。
それは記憶を失う前に見たであろう光景だった。
暗い一室、ベッドに横たわっていた自分を心配そうな表情で覗き込む人影があった。
「大丈夫かい?」
それは優しい声だった。
今では考えられないぐらい温かみのある声。
その光景は父親が娘を心配しているという至って普通の光景だった。
大丈夫、そう自分は答えた。
そっと父親の頬に触れ心配しないでと言わんばかりに安心させる行動だった。
しかし、
同時に父親の顔が驚愕に変わった。
だがそれも一瞬で普段の表情に戻り優しく自分の頭を優しく撫でた。
「もう心配ないよ。全て夢だったんだ―――――だからゆっくりとお休みアシェア」
アシェア―――――確かに父親は自分のことをそう呼んだ。
違う。
自分の名はシャトラ・ティエットだ。
しかし、
「大丈夫かい? アシェア」
「愛しい娘、アシェア」
アシェア、アシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェアアシェア――――――――――。
「君は私の宝だよ、アシェア・ティエット」
その言葉を最後に父親の声は遠くなり、
シャトラの意識も遠退いていった。
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