第20話 三章④ 『悪魔』
シャトラ・ティエットが異変を感じたのは偶然だった。
その為に動いていたのだが、学校の方から妙な魔力の反応を感知した。
その魔力は自分達にとって一番馴染みのあるモノでもあった――――――――。
「この反応は…………まさか」
だが本当に自分が思っているモノだとすれば何故このタイミングで動き始めたのかが気にはなっていたが、それでも彼女としてはここで見過ごす理由はないと判断した。
「任務外ですが、元々はこちらが本業――――――ならば私が動く理由にはなるでしょう」
シャトラは素早く向かった。
魔力の気配を辿り校舎に足を踏み入れた時、
ぐにゃり、と空間が歪んだ。
この独特な魔力の気配は――――――――――。
「何をしに来た? 神の下僕」
どこからか声がした。
地の底から響くようなドス黒い声の主はシャトラの正面、壁の中から聞こえてくる。
「やはりアナタ方でしたか――――――〝悪魔〟」
別に驚く様子の無いシャトラに対し、その声の主は至る所から喋り始める。
「ククク、我らを殲滅しにでも来たのかな? だがもう遅い。魔女は我らの手中にあり」
「………………何ですって?」
初めて、シャトラに感情というモノが表に出た瞬間だった。
そして同時に考える。
何故、今自分は心を乱してしまったのだろうと。
「
何故そんな質問を『悪魔』などにしたのかは本人もよく分かっていなかったが、そう簡単に自分と同等の力を持ったあの少年がやられるとは思えない。
そう思っていると、
「護衛? そんな奴は知らんが、我らが罠を張り巡らせていた時に魔女はノコノコとこちらに勝手に近付いて来おったわ」
どうやら偶然一人になった所を捕らえた、ということなのだろう。
「なるほど、では――――――――――貴様達は運良く魔女を手に入れて悦に浸っていたという事で間違いはないという事だな」
強い口調に悪魔が一瞬怯んだがそれでも自分達が有利な事に変わりないのか嬉々としてシャトラを煽る。
「所詮は神の下僕の貴様らに何が出来るかな? 手始めに、我らが力を以て貴様から排除してやろう!」
黒い靄が辺りに漂い始めた。
すると誰もいない廊下からゾロゾロと教員生徒達が虚ろな目をしたまま千鳥足で出てきた。
「魔力で操られていますか…………仕方ありません」
シャトラは自分の持っていた荷物から一枚の純白の布を取り出し自分を包み込む。
そして、
いつぞやの純白の修道服に身を包んだ彼女は手にしていた同じく純白の鉄塊を傀儡となった生徒達に向ける。
「貴方達は巻き込まれただけです。何の罪もありませんが
シャトラは大きく振りかぶり鉄塊を振り回した。
かなり手加減をしているのか、それでもバイクに衝突されるほどの衝撃が彼らを襲う。
しかしそれでもゾンビのように立ち上がってはゆっくりと彼女に向かって来る。
「鬱陶しいですね。出来れば一撃で沈んでくれた方がありがたいのですがッ」
純白の棒の両先に付いた二つの鉄塊を器用に狭い廊下で振り回すその姿は戦場を駆ける乙女を彷彿とさせた。
「(ですがこのままではジリ貧というやつですね。元凶を叩ければ問題ないのですが)」
〝聖堂教会〟は目的の為なら手段は選ばない。
このまま何の関係もない一般人を
それも神の導きだと本気で信じているのだが、それでもシャトラはそれを実行出来ない。
何故なら―――――。
「取り合えず――――――――――逃げろォォォォォォォォォォ!!」
叫び声と同時に何かを破壊するような音が響く。
聞き覚えのあるその声の主もどうやら自分と同じ状態らしい。
「―――――彼が誰も傷付けないと言うならば、私も出来ますとも。えぇ、彼に出来て私が出来ないはずがありませんから」
謎の対抗心を剥き出しにしてシャトラは手にした武器を強く握り締める。
「
透き通った青い目が淡く輝き出す。
うっすらとだが教員生徒達から
「そこッ!!」
常人には見えない場所を純白の鉄塊が横切る。
魔力経路を断ち切られた人々はその場で崩れるように倒れた。
「単純な魔力ですね。よくそんな御粗末なモノで私を止められると思いましたね」
ブン、と鉄塊を振り下ろすと青い目を見開く。
切られた魔力経路を辿りその根元を追って行くと、
「――――――――居ましたね」
魔力の元となる場所は体育館から延びていた。
そこにはまだ数十名の傀儡と化した生徒達の他に一人だけ倒れている少女が目に入った。
「
ちらりと爆音が聞こえる方へ目を向ける。
向こうはこちらの存在に気付いていないようだがどうしたものかと考えていた。
ふと神父の言葉が脳裏を過る。
『もう一度言おう。あの少年を神の名のもとに裁け。キミは二度失敗をした…………次は無いと思いたまえ』
「そう、でしたね」
もう自分には後が無い。
ここで躊躇っていては今度こそ育ててくれた神父に捨てられてしまう、そう判断したシャトラは改めて鉄塊を握り締める。
「私が先に
シャトラはそう呟くと体育館へと足を向けた。
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