第19話 三章③ 『反転劇』

 冥夜と時見は校舎内を逃げ回っていた。

 

 その様子は映画でよく見るゾンビに追いかけ回される構図だった。

 「あぁもう!! 鬱陶しい!!」

 冥夜は叫んだ。

 時見が近くにいると言うだけで動きはかなり制限される。

 加えて一般人相手に銃や大太刀を使う訳にもいかない。

 正直に言えば八方塞がりだ。

 「何だ!? 一体何がどうなってるんだ!? おい犬塚君! 神代さんは何処へ行ったんだ!?」

 「んなモン俺が知りてーっての!!」

 男子学生二人がパニックに陥っている。

 そのまま二人は近くの空き教室に隠れる事にした。

 息を殺し生徒達が徘徊する中、冥夜は『フィーア』に連絡を取ろうとするも圏外の表示が無情にも浮かび上がっている。

 「(結界ってヤツかよッ!? どこまで用意周到なんだっつーの!! やっぱこれってヤツらの仕業なのか?)」

 だが冥夜には少し違和感のようなものを抱いていた。

 今までシャトラという女性はこんな回りくどい事はしなかった。

 なぜなら実力行使をした方が手っ取り早いからだ。

 なのに今回は彩葉を拉致した挙げ句使

 正直に言って手間をかけすぎている。

 「(やっぱこっちから仕掛けるか? でも………)」

 ちらりと時見を見る。

 先ほどからずっと彩葉を心配してか「神代さん、大丈夫かな?」と呟いている。

 それもこちらには見向きもせずに、だ。

 彩葉を心配しているのは時見だけではないのだが、それでも冥夜自信も動けないのは痛い。

 どうするかを悩んでいると、

 「…………………………」

 時見は自分の方を向いていない。

 つまり、

 「(今しかねぇ、か)」

 冥夜が自由に動くにはこれしかない。

 意を決して冥夜は時見に向かってダイブをする。

 まさか自分が同性相手にルパンダイブをする羽目になるとは思っても見なかった冥夜だった。

 背後から襲いかかったのですんなりと当て身一発で気を失ってくれた時見を掃除用ロッカーに押し込むと同時にようやく『フィーア』から呆れたような声の無線が飛んできた。

 『相変わらず無茶をする』

 「うっせ。それより状況は?」

 少し間を置いてから、

 『最悪だね。久しぶりにB級ホラーを見てるみたいだ』

 つまり気分的にもよろしくないと言うことなのだろう。

 忌々しい口調で吐き捨てる。

 『あぁ、こちらとしても想定外だ。無人探査機ドローンが全て破壊されているし学校を見張っていた部隊は命に別状は無いが全滅に近い。更に状況は

 簡単に言えばかなり状況は最悪中の最悪という事だ。

 「そうかよ―――――やっぱり〝聖堂教会アイツら〟なのか?」

 だとすれば色々今までの事を思うと急に方針を変えたという事だろうか?

 『いや、恐らく別のなんだろうな。じゃなければ色々と説明がつかない』

 無線機の向こう側で忙しくキーボードを叩く音が響いている。

 彼女は彼女なりに色々調べてくれているようだ。

 「しゃーね、俺は俺で調べ――――――――――クソッ」

 扉の向こう側で複数の気配がする。

 どうやら喋りすぎたようだ。

 「いっそ全員ぶん殴るか? でも野郎はともかく全く関係ねぇ女殴るのはなぁ」

 そう考えていると、

 『あ、そうだ。言い忘れていたがキミの教室の机の中にがあるぞ』

 そう言って無線を強制終了した。

 「あの大太刀机の中に入んの!? ってか、そう言う事は早く言えよ!!」

 そのツッコミと同時に教室の扉が壊され、教師や複数の生徒が流れ込んでくる。

 「取り合えず――――――――――逃げろォォォォォォォォォォ!!」

 冥夜は拳を握り締め、

 その穴から冥夜は抜け出し自分の教室へと向かう。

 今いる教室から冥夜の教室は下の階だ。

 だが廊下にも操られている生徒達がまだいる。

 ならば、

 「ぶち抜くのが、一番早い!!」

 今度は教室の床に大きく振りかぶった拳を叩きつける。

 ピシッと渇いた音が鳴り響く。

 そのまま床は抜け下へ落ちていく。

 「何か昨日から落ちてばっかなんですけど!? しかも教室から!!」

 腰を強く打ってしばらく悶えていたが何とか持ち堪えた冥夜は自分の机に向かう。

 丁度冥夜のいた教室の真下が自分の教室だったのは幸運だった。

 いや、

 自分の教室に落ちてきたという事は―――――。

 「やっぱこうなるか」

 冥夜の方にクラスメート視線が集中する。

 もれなく全員が虚ろな目をしているが。

 『これは学校全体が敵だと考えた方がいいかもね』

 『フィーア』の声が聞こえる。

 自分の席まで数メートル。



 そのたった数メートルが冥夜には長く遠くに感じた。



 群がるクラスメートに冥夜はどう立ち向かうかを考えていた。

 知った顔が多い中、さすがに拳で語るにはちょっと罪悪感が半端ない。

 「さてどうする―――――って考えさせろよ!?」

 待った無しノーシンキングタイムで襲い掛かるクラスメートを避けながら冥夜はどのようにして切り抜けるかを考えていた。

 「(操られてるっても動きが素人のそれじゃねぇッ! こんな無茶をするとコイツらの身体がイカれちまう!!)」

 そして冥夜が出した結論は単純シンプルかつ合理的だった。



 「めんどくせぇから突貫ンンンンンン!!」



 結局は突撃する他道はなかった。

 タックルをするかのように身を屈め自分の席まで一直線に突き進む。

 一人、また一人と冥夜に乗し掛かるように重なっていく。

 二十名ほどが山のように積み重なると中からミシミシと骨が軋む音が聞こえる。

 単純に総重量は約一トン。

 一番下敷きになっている冥夜の内蔵は破裂するほどの重量が襲い掛かる。

 もちろん冥夜だけでなく、下にいる者はそれほどの重さを受けているので無事では済まない。

 が、

 「う、お―――――らぁぁぁァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!」

 ドン! という衝撃と共に積み重なっていた二十名の生徒達が吹き飛んでいく。

 中からは拳を天に突き上げる冥夜の姿が。

 「ったく、頼むからあんまりクラスメートだから傷つけさすなよな」

 大太刀を肩に乗せ不敵に立つ冥夜は凶悪な笑みを浮かべる。

 彼の周りにはウネウネと

 『新作の一つ、『操影弾シャドウバレット』。先日に使

 冥夜の周りには蠢く影が触手のようにくねくねしていた。

 確かに使い易さについては申し分ないかもしれない。

 だが、

 「捕獲に向いてるの、これ?」

 『わたしを舐めるなよ。一緒に入れていたもう一つの新作に同じ『操影弾』をセットしてみな』

 机を弄ると中から銃身が黒い一丁の拳銃が、しかも今まで使っていた拳銃よりも大型の六連式のリボルバーマグナムが机の中から出てきた。

 また派手なものを、と思いはしたがこちらに襲い掛かるクラスメート達を避けながら冥夜は言われるがまま黒い薬莢の『操影弾』をシリンダーに込める。

 『いいか、どこでもいいから

 言われるがまま、教室の床に大きな影が映っている部分へ銃口を合わせる。

 そして冥夜は躊躇なく引き金を引いた。

 激しい轟音が響くと銃弾は影に吸い寄せられるように着弾し、

 

 影から延びた触手は無造作に動く者全てに絡まり捕縛していく。

 「す、すげぇ」

 思わず声が漏れた。

 今まで色々とぶっ飛んだ『フィーア』の作品はあったがこれは素直に凄いと褒めれるものだった。

 『そうだろう。苦労はしたが形になって良かったよ。その特殊な弾丸シャドウバレットは影がある部分に撃てば捕縛用に、対象に撃てばようにした。ちなみに大太刀にセットも可能だ。使い方はほぼ同じだが』

 『フィーア』は自慢げに語る。

 余程嬉しいのか饒舌になっていく。

 『大太刀は伸縮可能で持ち運びが便利なように組み立て式に改造した。強度も変わりないから簡単には折れない。あとその特殊弾丸に至っては――――――――――』

 「はいストーップ!! 自慢は今度聞くから今は彩羽だ! どこにいる!?」

 ハッと我に返った『フィーア』は無線の向こう側でカタカタとキーボードを操作している。

 『一応学校内にはいるみたいだ。発信機の反応もある――――――――

 つまりはしらみつぶしに探していくしかないという事だ。

 とすれば早速どこから探すかを考えていると、

 ドォォォン! と激しい爆発音が離れた所から聞こえてきた。

 教室から窓の外を見てみると体育館から煙が出ていた。

 「あっちが怪しいと思うが、どうだ?」

 『同感だね。行ってみるかい?』

 無言で窓を開け放つと躊躇なく冥夜は窓枠に足を掛ける。

 そのまま二階の教室から飛び降りると爆音が聞こえた体育館へと向かった。

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