第16話 二章⑥ 『シャトラ・ティエット』
シャトラ・ティエットは幼い頃の記憶が無かった。
はっきりと覚えているのは歓喜も不安も恐怖も憤怒も何も持たなかった自分に優しく手を差し伸べてくれた人がいたということだ。
〝聖堂教会〟『
恐怖で顔を引きつらせる者。
怒りで悪魔のような表情をする者。
自身の信じる神の元に行けると歓喜の涙を流す者。
過ちを認めずただ疑問を残したまま裁かれた者。
泣きつき許しを乞う者。
発狂する者。
痛みに苦しみ最後まで苦痛に歪んだ表情をする者。
みんな一様に自分の手で葬った者の顔が浮かんでは消えていく。
そして、
最後には二度相まみえた少年。
どうしても裁けなかった少年。
そして自分の守りたい者の為に危険に首を突っ込んでくる少年。
何故、こんなにも揺らいでしまうのか?
何故、裁くのに躊躇ってしまったのか?
何故、あの少年が眩しいと思ってしまうのか?
何故、なぜ、ナゼ、何故、なぜ、ナゼ、何故、なぜ、ナゼ、何故、なぜ、ナゼ、何故、なぜ、ナゼ、何故、なぜ、ナゼ、何故、なぜ、ナゼ、何故、なぜ、ナゼ、何故、なぜ、ナゼ、何故、なぜ、ナゼ何故、なぜ、ナゼ、何故、なぜ、ナゼ、、何故、なぜ、ナゼ、何故、なぜ、ナゼ、なななななぜぜぜぜぜ。
答えが見つからない。
そんな時、耳元で声がした。
今一番聞きたかった声だ。
『シスターシャトラ、報告を』
気が付けばもう定期報告の時間を過ぎていた。
「も、申し訳ございませせん、神父様」
らしくないミスだ。
どうもここ最近調子が悪い。
『構わない。で、報告はどうかね?』
感情のないやり取り。
育ての親で、そして異端審問官としての師匠としても機械のような関係。
「邪魔が入り、あの〝ケルベロス〟の少年を裁く事は叶いませんでした」
そう報告するとあからさまに落胆したような声が返ってきた。
『そうか――――――――で?』
「で、とは…………?」
どうやら動揺していたようで自分でも間抜けな返しをしてしまったと後悔するもすでに遅かった。
『シスターシャトラ、これ以上私を困らせないでくれるかね?』
地の底から響くような声。
初めて聞く声にシャトラの額には冷たい汗が流れる。
『もう一度言おう。あの少年を神の名のもとに裁け。キミは二度失敗をした…………次は無いと思いたまえ』
それだけ告げると声は途切れた。
一瞬で余裕だったはずの体力が根こそぎ奪われたと思った。
それほど例の神父はご立腹だったようだ。
「次は、無い?」
自分を育ててくれたはずの
手にしていた鉄塊を握り締める。
「次は――――――――無い」
いつまでも呪いの言葉が彼女に纏わりつく。
優しかったはずの神父の姿が霞んでいく。
そして、
「あ、れ?」
何故か神父の顔が歪んで見えた。
本当にこれは自分の記憶なのか?
疑問が浮かんでは消えていく。
そして彼女は立ち上がり街へと足を進めていく。
だがその足取りはとても重いものだった。
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