第14話 二章④ 『戦闘開始』

 冥夜とシャトラは戦闘を始めて五分が経過した。

 この三百秒というのは一瞬なのだろうが冥夜にとっては無限に感じるほど長かった。

 純白の鉄塊と鈍い鋼色の大刀。

 この二つが重なれば重なるほど火花は激しく散っていく。

 「(分かっちゃいたがコイツ―――――強い!)」

 シャトラが扱う鉄塊は棒状の両先に鉄球が一つづついている物で杖術のように器用に振り回してくる。

 その様は言葉通りの縦横無尽。

 対して冥夜の持つ大刀(仮命名『百面大太刀』)は特殊な薬莢カートリッジを装填しなければ本領発揮できない仕様になっている。

 使いどころを間違えば反動で隙を作ってしまうのでおいそれと使うことが出来ない。

 それどころか――――――――、

 「この程度ですか?」

 「こ、のッッッッッ!!」

 振り下ろされた鉄塊を弾く。

 一度距離を置き互いが睨み合う。

 「(サボってたツケか? いや、それにしてもだろっ)」

 肩で息をする冥夜とは対照的にシャトラは平然とした顔をしている。

 疲れ等の表情は一切無い。

 それが余計に焦りを生む。

 百面大太刀の重量は十キロと言っていたので、確かに振り回すだけなら冥夜にとって苦にはならない。

 しかそれは相手が同じ力押しパワータイプだったらの話だ。

 シャトラは見かけによらず力もあり、同時に器用に動けるタイプなので非常にやり辛いものがある。

 「(何かカラクリでもあんのか?)」

 シャトラの容姿は十代後半で決して筋肉がついているといった外見ではない。

 だが、何度か大太刀を合わせて分かったが

 「来ないのですか?」

 シャトラの静かな声が誰もいない繁華街に響く。

 その声色だけで背筋がうすら寒くなった。

 「来ないのなら――――――――」

 力を籠める。

 重圧プレッシャーが離れている冥夜にまで届く。

 「考えてる暇はねぇッッ!!」

 冥夜は腰に取り付けていた薬莢を取り出し『炸裂弾』を装填する。

 ほぼ同時に、

 「こちらから行きます」

 地面を抉るような踏み込みをするシャトラが真っ直ぐに冥夜に突撃をしてきた。

 凄まじいスピードで突っ込んでくる姿はノンストップの大型トラックを連想させていた。

 だが、冥夜も同じで弾丸を装填した後素早くスライドさせ鋼の刀身が朱く輝き小刻みに震える。

 「ぶった――――――――」

 冥夜は大きく振りかぶり、そして――――――――。

 「斬るッッッッッ!!!!」

 迎え撃つ様に振り下ろす。

 鉄塊と大太刀。

 二つの武器が重なり、



 凄まじい衝撃波が辺りを支配する。



 周囲の建物のガラスは割れアスファルトはめくり上げ、建造物の壁面はひび割れていく。

 土煙が舞う中、先にそこから飛び出てきたのは冥夜だった。

 大太刀を構え未だ土煙の中にいるであろうシャトラがいる場所を睨みつける。

 「さすが『フィーア』の造った武器だな。刃こぼれしてねぇ」

 かなりの衝撃、そして確かな手ごたえを感じた。

 これで駄目なら――――――――。

 「ほう、やはり貴方は今までの異端者とは違いますね」

 中から無傷でシャトラが出てきた。

 純白の修道服は所々汚れてはいるものの本人へのダメージはほぼ皆無だった。

 「ははっ………マジかよ」

 最早笑うしかなかった。

 ここまで無敵チートぶりを見せられると本当に嫌になってくる。

 だが、

 冥夜は折れる事は無かった。

 再び構え大太刀の柄を強く握りしめる。

 「やれるとこまでやってやらぁ」

 手が震える。

 それは恐怖からなのか、それとも武者震いなのかは自分でも分からない。

 しかし冥夜は引くわけにはいかなかった。

 何故なら――――――――。

 「一つ、伺ってもいいですか?」

 不意にシャトラが口を開いた。

 優位に立っている彼女なりのアピールなのか、先ほどまでの戦意は感じられなかった。

 「…………何だよ?」

 「貴方は、何故あの少女を守るのですか?」

 言っている意味が理解出来なかったが、それが彩羽に対する事を言っているのだと気付く。

 「私には理解出来ないのです。何故あの少女を命がけで守るのか?」

 その蒼い瞳は純粋に疑問を抱いているようだった。

 だからなのか、

 冥夜はふざける訳でもなく、ただ単純シンプルな回答をシャトラに告げた。

 「――――――――理屈じゃねぇよ。俺はアイツを守りたい。ただの不幸体質って理由なだけで理不尽な目に遭ってるアイツを見て見ぬふりなんて出来る訳ねぇだろうが!!」

 冥夜は自分が戦う理由を思い出す。

 何も悪くない、何もしていない神代彩羽という少女がただ傷ついているというのが嫌だったのだ。

 だが、シャトラの反応は予想外だった。

 「不幸体質――――――――ですか、?」

 何か含みのある言い方に今度は冥夜が呆気にとられる。

 「なん、だと?」

 疑問が過る。

 確かにただの不幸体質にしては些かおかしなことが多すぎる。

 何かしらのトラブルによく巻き込まれるのは昔から傍にいたのでよく知っている。

 だが今回の襲撃に関してはどうだろうか?

 それだけではない。

 〝聖堂教会〟という組織もだが、冥夜の所属する〝ケルベロス〟もそうだ。

 先日の影を操る超能力者も今になって考えればおかしい事が多すぎる。

 そもそも、

 

 「どうやら、貴方は彼女の事をあまり詳しくは無いようですね」

 再びシャトラは鉄塊を構える。

 もう語る事は無いと言いたげだった。

 「主に代わり裁きを――――――――」

 そう言いかけた時、シャトラは何かに気付いたのかバックステップでを躱した。

 彼女の立っていた位置にはどこからか飛んできた銃弾の跡が地面についている。

 「…………増援ですか。多少遊び過ぎたようですね」

 シャトラが見つめる先にはスナイパーライフルで狙っている人物の姿が見えた。

 狙撃手は引き金を引くも数発の銃弾を躱しシャトラは鉄塊を振り上げる。

 「今日は退かせていただきます。次は必ず神の裁きを」

 アスファルトに鉄塊を叩きつけ土煙を巻き上げる。

 「待てッ!!」

 慌てて冥夜が駆け寄るもその場にシャトラの姿は見当たらなかった。

 『次に会った時、それは貴方に裁きが下される時です。それまでは余生を少女と楽しんでくださいね』

 そんな声が響いた。

 無惨に破壊された繁華街と冥夜に残った疑問だけが静寂の中にただ取り残されるだけだった。

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