第13話 二章③ 『幕間①』

 犬塚冥夜とシスターシャトラが激突する二時間前。

 冥夜はとある場所にいた。

 周囲に民家は無く、ただポツンとそこに一件の家が建っているだけの場所。

 入り口も窓もないその家は、近所から『禁后』と呼ばれているお化け屋敷で誰も近寄らなかった。

 そんなお化け屋敷に冥夜は禁后いえの裏側に足を進めると壁に手形のようなものが浮かび上がっている。

 そこに手を当てしばらくすると電子音のようなものが聞こえ、一部の壁が上にスライドしていった。

 恐れること無く冥夜が中に入ると外観からは想像もつかない光景が広がっていた。

 大きなモニターに数十台のパソコンが設置されそこには数名だが連絡を取りながら指示を出したりしていた。

 「――――――ツッコミどころ満載だけどマジでこの光景は慣れねぇな」

 何処かのネットに出てくる外観や出入口や窓もない家の都市伝説に因んで『禁后パンドラ』と呼ばれているそこは、冥夜が所属する組織〝ケルベロス〟の本拠地だった。

 「やぁ冥夜。早い帰還だね」

 声をかけてきたのは琥珀色の長い髪を無造作に束ねている見た目が十歳ぐらいの女の子が大きめのシャツを着ているだけの姿で冥夜を迎えていた。

 「………『』、ちゃんとした服を着なさい」

 この少女が今まで冥夜と無線で連絡を取り合っていた『フィーア』と呼ばれる少女だった。

 「何故だ? このラフな格好こそ発明の数々を生み出しているのだろう? それとも、ボウヤはお姉さんの姿に欲情しているのか?」

 言ってろと冥夜は吐き捨てる。

 二人が出会って十年ほど経つが彼女の姿はそのままで年齢不詳だった。

 最早それこそが一番の謎なのだが、それを話し出すと終わりが見えないので冥夜は話を変えることにした。

 「で? 用意は出来たのか?」

 「なんだ、ノリが悪いな―――――出来てるよ。私の研究開発所ラボへ来るんだな」

 モニター室を出て少し通路を歩いた先に彼女の部屋ラボがある。

 道中、

 「全く、〝聖堂教会れんちゅう〟のせいでこちらはいい迷惑だよ。オペレーターも随時稼働しっぱなしだ」

 と珍しく疲れたような声を『フィーア』が出していた。

 「そんなに厄介だったのか?」

 「あぁ。なにせ相手は? こちらも総動員で対処しているが、それでもあの修道女シスターが出てくれば形勢は逆転していただろうな。もちろんこっちが全滅で、という意味でだ」

 どうやらこの〝聖堂教会〟という連中は自分たちとは住む世界が根本的に違うようだ。

 「はっ、胸糞悪い話だ―――――」

 冥夜には何一つ理解が出来ない。

 いるかどうかも分からない神様とやらにそんな命を懸けてまで仕える必要があるのか?

 どうやら本気で気を引き締めなければ、やられてしまうのはこちらなのだと再確認させられた。

 「さて冥夜、キミが所望していたモノだよ」

 『フィーア』に言われるがままに近づいていく。

 台座に置かれていたのは一振りの刀。

 ただし、のを刀と言っていいのかは疑問が残る。

 「またこりゃ……」

 冥夜は言葉を失った。

 そして『フィーア』は得意げに語り始める。

 「ふふん、わたしの最高傑作の一つだ。刀身は六尺(約百八十センチ)で斬撃基準よりも重さに重点を置いたから斬るよりも叩き潰すといった感じに近いな。重さも十キロほどだが、まぁ使。あとこのの特徴は―――――」

 「ストップ! ストーップ!!」

 まずいと判断した冥夜は変なテンションになりつつある『フィーア』を止めに入った。

 このままでは本気で夜が明けるまで説明してしまう。

 「わかった、とりあえず分かったから簡単に説明してくれ」

 「そ、そうか………残念だが仕方がない。また今度にしよう」

 説明は絶対にするんだ、と冥夜は慄いたが今はそれどころではない。

 いつ、どこで襲ってくるか分からないこの状況下では一分一秒が惜しいほどだ。

 「じゃあ簡単に言うぞ。もう一度言うが、この

 鈍い輝きを放つ刀身は驚くほど単純シンプルかつ合理的に作られている。これは確かに『斬る』よりも『潰す』に近いのかもしれなかった。

 だが、同時にどうしても冥夜には気になる点があった。

 「なぁ、これって何だ?」

 指でさした部分は大刀の柄の部分―――――正確には刀身と柄の接合部がなにやらゴテゴテしていたのだ。

 「今から説明するよ。そこはを使う部分さ」

 『フィーア』が手にしていたのは口紅ほどの大きさの筒状の物だった。

 見る者からすれば散弾銃ショットガンに用いられる銃弾のようにも見える。

 「まぁこれはこの大刀に使うための薬莢カートリッジさ。取り合えず冥夜、刀の柄の部分をスライドさせてみなよ」

 言われるがままに刀の峰の部分に取り付けられているハンドグリップをスライド―――――もといポンプアクションの要領で引いてみるとその薬莢が入るほどのスペースが空いていた。

 「そこにその薬莢を挿入して、ハンドグリップをスライドさせると」

 ガゥンッッッ!! と何か爆発したような炸裂音が研究室ラボに響き渡る。

 「おいおいおいおいおいおい!! 何がどうなって―――――」

 「そのままその実験人形を斬って!」

 爆音が激しいせいか、『フィーア』の声も掻き消えるほどだった。

 何となく目の前の人形を斬れ、と言われているのは伝わったので軽く振り下ろし、



 一瞬で人形は大破。ついでに『フィーア』の研究室の壁もごっそりと削られていた。



 「な―――――――――――――――」

 冥夜は絶句していた。

 想像以上の破壊力、そして冥夜の腕も同じく吹き飛んだと思うほどの衝撃。

 「ふむ、まぁ急いで完成させた割にはまぁまぁな威力だな」

 「おまっ、あ、アホか!! 先に言えよ、こんな威力あるなんて聞いてねぇぞ!! ってかこれあのシスターさん粉微塵になっちゃうんじゃない!? 嫌ですよ、グロテスクなのは!!」

 しかし、『フィーア』は、

 「何を言っている。さっきも言ったがその刀は冥夜にしか扱えない様に調整して造ったんだぞ? それに、手持ちの拳銃だけじゃ心許ないから何か造ってよふぃーえもーん! と泣きついてきたのはキミだろ?」

 あぁ、うん。

 確かに言いました。

 言いましたけど戦争に行くんじゃないよ、僕。

 「それに、それはあくまで彼女の対武器用の弾丸だ。そうだな、仮に『炸裂弾バーストバレット』とでも名付けるか」

 まぁ割とどうでもいい事を真剣に悩む『フィーア』。

 確かに危険な、かなり危険な武器だがあの鉄塊を相手にしようとするならこちらも武器を新調しなければならなかったのは事実だった。

 「あとは、これを上手く使いこなせりゃ―――――」

 「あぁ、そうするといいさ。神代彩羽は別動隊が警護と周囲の監視を、あの〝聖堂教会〟のシャトラというのはドローンで偵察中だ。調

 みんながみんな各自で動いている。

 ならばこちらも準備をし、迎え撃てるようにしなければならない。

 決意を新たに大刀を握り締める冥夜。

 だが、

 「一つ問題がある。かなり重要だ」

 と『フィーア』がいつになく真剣な表情をしていた。

 「な、何だ?」

 「その刀の名前を何にしようかまだ決まってないんだ」

 冥夜は久しぶりに『フィーア』の脳天に拳骨を一撃食らわせた。

 しかも割と本気の一撃だった。

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