第11話 二章① 『二人の時間』

 学校爆発事件の後、そのまま午後の授業が無くなり休校となったので珍しく彩葉と冥夜は一緒に帰路についていた。

 「久しぶりに一緒に帰るよな」

 「うん」

 時見による大胆な行動直後のせいか微妙に気まずい空気の中なので帰っているので会話が続かない。

 「(く、空気が重い)」

 本人は隠し通している気ではいるんだろうが全面的に好きのオーラが出ている事にも驚いたが、それよりもその後も珍しい光景を見た。

 クラスメートにあれやこれやと聞かれ囲まれる彩葉を見るのは随分久しぶりだった。

 揉みくちゃにされている幼馴染みを見て少し寂しいような気持ちはあったがそれよりも嬉しさが勝った。

 「ねぇ、めーや」

 彩葉が声をかけてきた。

 無言で、どうした? とジェスチャーするとそのまま話し始めた。

 「今日……久しぶりに教室で会話したよ」

 その言葉は、

 冥夜の胸に突き刺さった。

 幼少から中学までは

 周りの人を不幸にしてしまう体質―――――そんなふざけたモノがあるせいで神代彩葉と言う少女は幸せとは程遠い年月を送った。

 だから、

 彼女の隣に立つ少年めいやは空を見上げ呟く。

 「良かったな。でもこれはいいきっかけなんだよ。お前はまだまだこれから幸せになっていく――――不幸体質? んなもん笑い飛ばせるぐらいに俺も一緒に笑ってやるからさ」

 自分でもクサイ台詞を言ったものだと冥夜は思った。

 そんな事を思っていると彩葉はクスリとこれまた珍しく微笑んだ。

 「どうした?」

 「ううん、ちょっと昔の事を思い出しちゃって」

 はて? 今の話の流れで何故昔を思い出したのか?

 少し考えていると、彩葉は話続ける。

 「昔ってよく泣いてたでしょ? その時に何かの絵本………だったかな? それ読んでて神様と悪魔は仲が悪いんだって、そんな些細なことで泣いちゃって。でその時に冥夜が今みたいな台詞を言ってくれたんだけど………それ思い出しちゃった」

 そう言えばそんな事もあったな、と冥夜は思い出す。

 心ない一言で彩葉を『悪魔の子』と言ってきた連中がいた。

 まだ幼かった彩葉はそれを真に受け泣いては冥夜が怒って喧嘩をしたという話だ。

 その時にそんなクサい台詞を吐いた気がしないこともない。

 「そんな私がクラスで質問責めって―――――なんか変な感じ」

 少し戸惑っていた。

 確かに最初は彩羽ほどではないが、自分も戸惑ってしまった。

 だが、

 それでも冥夜はまだ友人とは程遠いのかもしれないが、色々な人に囲まれている幼馴染みの姿を見て決意を新たにする。

 「(守らなきゃ。この瞬間を――――――――他のやつから見りゃありきたりで当たり前の事でも、彩羽にとっては違う)」

 もう十分に彼女は傷ついた。

 裏方に徹していた冥夜はそんな変わっていく彼女を見たくて〝ケルベロス〟に入った。

 冥夜は静かに、だが力強く拳を握り締める。



 この〝聖堂教会〟なんていうくだらない連中にこの瞬間を奪われてたまるか。



 秘めたる決意を胸に冥夜は帰路へ着く。

 彩羽が住むマンションの前まで送り届けると、冥夜は耳につけていたイヤホンを押し当てる。

 「『フィーア』、少し頼みがある」

 そんな冥夜の連絡を予期していたのか、『フィーア』の返答は思った以上に早いものだった。

 『偶然だね。わたしもキミに渡したい物がある』

 早ければ

 あとの事は〝猟犬ハウンドドッグ〟に任せるとし、冥夜は準備に取り掛かる。

 昼下がりの午後、時間は分からないが猶予はない。

 冥夜は自分の家がある方向とは正反対の方角へ走る。

 数時間後には日が落ち、更にそこから数時間後には夜になる。

 それまでに、準備をすることにした。

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