第7話 一章④ 『少しの休息?』

 「最近思うんだが人生って何だろね?」

 時間は昼休み。

 例によって教室の端でポツンと一人でいた幼馴染みの前の席に許可なく座り突然犬塚冥夜が語りだした。

 突然の迷言に神代彩葉は困惑する。

 「悪いモノでも食べたの?」

 珍しい彩葉の心配そうな表情の中には若干憐れみの目が浮かんでいる。

 失礼なヤツだと冥夜は思ったが軽く咳払いをし話を続ける。

 「いやね、最近何かバタバタしてるっつーか」

 昨夜に引き続き今日の不審者(ちなみにこの不審者もきちんと警察に突き出した)の件も重なって疲労困憊なのだ。

 そして、

 未確認ではあるが謎の組織〝聖堂教会〟という輩も出てくるものだから正直今冥夜の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。

 「(でもそんな事彩葉に言えるワケねーし)」

 一連の出来事は全ては全ての不幸を引き寄せる体質を持つ神代彩葉にあるが、冥夜は本人のためそれを悟られるわけにはいかなかった。

 「めーや」

 感情をあまり表に出さない彩葉の声には本気で冥夜を心配するのが伝わる。

 これは理屈ではなく長年の直感みたいなものだ。

 「大丈夫大丈夫。俺はウザさとしつこさには定評がある男だからな」

 そう言って冥夜は笑った。

 いつも通りの様子に彩葉も安心したのかそっぽを向き、

 「うっさいバカ、大バカ、ウルトラ大バカ」

 と照れ隠しなのか最早口癖になった罵声を浴びせた。

 「…………ねぇ、少しさ、その、聞きたい事―――あるんだけど」

 と、これまた珍しく彩葉から話しかけてくる。

 しかもかなり歯切れが悪い。

 「ん? どうした? 便秘にでもなっぼへぇぁッッッッッ!!」

 綺麗な角度で彩葉のブローが冥夜のボディに鮮やかに入った。

 冥夜の空気の読めなさも中々に酷い。

 「オレ……ナンカ、シタ?」

 「うっさいバカ、大バカ、ウルトラ大バカ――――はぁ、めーやは『時見ときみ』先輩って知ってる?」

 不意に聞き覚えのない名前を出されたのでピンとは来なかったが、すぐに誰の事か理解出来た。

 「確か一コ上のセンパイだったっけ? サッカー部のエースで成績も常に上位っつーあの?」

 しかもイケメン、という言葉は飲み込んだ。

 口に出すと同じ男として涙が出てくる。

 「そう、その先輩なんだけど………今日、手紙貰った」

 今時手紙とは随分古風な人だと思ったがふと、疑問が出てくる。

 「彩葉、そんなのいつ貰ったんだ?」

 神代彩葉は常に〝ケルベロス〟の監視下に置かれている。

 そんな有名人が彩葉に接触したなら冥夜が気付くはずだった。

 「えっと……二時間目の終わりの休み時間……かな? 先輩が突然教室に来てこれ読んでって貰った」

 その時間と言えば丁度冥夜が不審者を警察に突き出した時間だった。

 「(ってかそんな出来事イベントがあったら報告あったと思うんだが?)」

 あとで聞いてみようと冥夜が思っていると、

 「どうしたらいいかな?」

 と不安そうに彩葉が尋ねてくる。

 彩葉は自分の体質を知っているが故に悩んでいる。

 昔はそれが原因で気味悪がられてイジメにもあっている。

 ここは幼馴染みとしてどう答えるか、それを悩んでいた時だった。

 「――――――――――ッッッ!?」

 冥夜は窓の外に視線を送る。

 数メートル、いや

 「どうしたの?」

 同じく彩葉も窓の外を見るが至って平凡な風景しか目に入らない。

 冥夜は彩葉の視線が外れたことを確認しスマートフォンを操作する。

 相手は『フィーア』だ。

 「(頼むぞ『フィーア』! 俺には!)」

 杞憂ならそれでいい。

 しかし今日の午前中だけで色々あったこのタイミングとしては最悪に近いものがあった。

 「???」

 結局何も無かったのか彩葉の視線は冥夜に戻った。

 「あー、いや変わった鳥が飛んでたもんだから」

 冥夜は気が気でなかった。

 ただでさえ予想外イレギュラーな事が多いのだ。

 「えっと、何だっけ? 確か時見ってセンパイに手紙もらったんだっけ? 読んだのか?」

 「まだ読んでない。知らない人から貰ったものだし………見たほうがいいかな?」

 内容は分からないが、さすがに読まずに捨てるのはどうかと思ったりもした。

 健全な男が女子に手紙とはまるでラブレターみたいだな、と思った。

 「(はて? ラブレター?)」

 いやまさか、と冥夜は頭を振った。

 全く接点のない二人がいきなりそんなありきたりなラブコメ展開になるものだろうか?

 確かに彩羽の容姿は冥夜から見ても可愛いものだ。

 今はこんなネガティブ思考に陥りやすいが昔は活発でみんなの中心に立っていたぐらいだ。

 高校に入ってから少し影がある様子は少しミステリアスな少女のようで男子の人気は高いと聞いたことがあった。

 もちろん同学年や囁かれる噂などで彩羽の体質を知っている可能性は否定できないが、知らなければ恐らくモテる。

 「(なんだろ、何かモヤモヤする)」

 心なしかソワソワしだす冥夜に彩羽が少しひきつった表情をした。

 「めーや、なんか気持ち悪い」

 「ひどい!!」

 〝聖堂教会〟による強襲、そして彩羽がもらったラブレター(かもしれない)と今日も忙しいなと思う冥夜だった。

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