第13話 装備を手に入れて、試す
残念ながら俺はモブ以下とまで評価された伝説の男だ。
セツカというキャラの素の能力が弱いため仕方がないのだ。
かと言ってじゃあどうするとなったら装備に頼るしかないわけで。
特に俺の体力は最低クラス。
もう少し欲しいよなって感じ。
それも生半可な装備ではだめだ。
基本的に装備はないよりマシ程度の性能のものが多いがその中でもまだマシな装備を手に入れるために俺はイベントを起こそうと決めていた。
そのフラグ立てが今日始まる。
俺は柄にもなく街の本屋に来ていた。
そこで金色の髪を持ったお嬢様系の女の子がいるわけだが。
俺はさりげなく近寄って女の子が伸ばそうとした本に同じタイミングで手を伸ばす。
ぶつかり合う俺たちの手。
「あ、ごめんなさい」
そう言って手を引っ込める女の子が俺の顔を見て両手で口を抑えた。
「す、すごい素敵な人」
と俺の事を見てくる。
「お、お好きなんですか?こちらの本」
そう言って彼女は聞いてくるので
「もちろん」
そう答える。
これがイベント発生条件だ。
シビアだよなぁ?
こんな漫画みたいなことをしないといけないんだぜ?
「私も物凄く好きなんです。イくぞ♂男祭り」
と言って彼女は本を手に取った。
何でこの世界はどいつもこいつもその本読んでるんだよ。
「あっ、先週号はお読みになられましたか?」
「当然」
話を合わせなくちゃいけない。
1回も読んだことがないが話を合わせなくちゃいけない。
「私が買いますので一緒に読みませんか?」
「お言葉に甘えよう」
そう言って彼女は店主にお金を払って店を出ていくと、俺の記憶通り店のそばで召使いの爺さんが待っていた。イベントは進んでいるようだ。
その爺さんがどうぞ、お嬢様と馬車の扉を開けた。
あちらの方もとお嬢様が言うと俺にもどうぞ、と告げて馬車に載せてくれる。
「この本の話が出来る人初めてだったので嬉しいです」
と言って馬車の中で本を開き始めた。
「あ、私の名前はリーゼロッテと申します。リゼと呼んでください」
と口にするリゼ。
そうしてパラパラページをめくっていく。
俺の目に入るのは男同士の絡み合いが描かれたイラスト。
俺にはレベルが高すぎる世界だった。
「冒険者同士の絡み合いってどうですか?」
訳の分からないことを聞いてきてページを見せてくるリゼ。
「私はゼスタ×アルフが好みですの」
もっと違うもの好みになんない?
お嬢様もっと違うものをお読みになりましょうよ。
「あ、次のページのゼスタ×セツカも私は好きです」
とか言って地獄みたいなイラストを見せてくるリゼ。
逃げてぇぇぇぇぇ。
とか思ってたら朗読し始めるリゼ。
『はぁ、はぁ、セツカ。お前のことが好きだ』
『くっ、やめてくれ……そんな目で……俺を見るな』
そこまで朗読してから俺に目を向けてくるリゼ。
「そういえば名前聞いてませんでしたわね」
「セツカだよ」
俺がそう答えると
「……」
ごめんなさいぃぃぃぃと謝ってくるリゼ。
「気にしないで、俺もゼスタ×アルフは好きだから」
思ってもいないことを口にしなきゃいけないの辛いよね。
でもゼスタ×アルフはこの世界の真実なんだ。
「そ、そうなんですか!」
俺の手を取ってくるリゼ。
それから馬車は彼女の屋敷に着いた。
噴水があって大きな庭があって凄い立派な家だ。
その後もリゼは俺を案内しながら地獄みたいな話をペラペラ話してくる。
なぁ、このイベント考えたやつ誰?
地獄みたいな話を延々と聞かされるこっちの身にもなれよ。
どうせ誰もやらない隠しイベントだとでも思ってふざけたんだろ?
俺今やってるけど。
なんて事を思っていると彼女は自分の家の蔵まで案内した。
お、やっとイベントも最後かな。
そう思っているとリゼがバーンと蔵を開けて中に入っていく。
そして軽そうな装備を指さした。
「こちらの装備は大聖女の加護という装備です」
そう言って俺に渡してくる彼女。
「我が家では必要ないのでセツカ様にプレゼントしますわ」
そう言ってくれる。
そう、この装備、実は強いのだ。
名前:大聖女の加護
効果:毎秒体力回復
地獄のようなイベントを経験した奴にだけ送られる強い装備だ。
「ありがとう」
じゃあこれで、と帰ろうとしたら俺の袖を掴んでくるリゼ。
「あ、あのもういい時間ですし夕食ご一緒にどうですか?」
装備を貰った手前断りにくいな。
「分かった。付き合おう」
そう言って俺は夕食に付き合う事になったのだが。
味うす……。
酒場でいつも味の濃いものを食べているからこんな薄いもの美味しいと思えないよ。
金持ちってのも大変なんだなとか思いつつそれでも食べて
「じゃ、じゃあね」
そう言って今度こそ帰ろうと思ったら
「もう暗いです。今晩は泊まっていかれませんか?」
もう帰りてぇんだけど。
色々考えた結果また地獄みたいな時間を送らされそうだし
「悪いな。予定があるんだ、また近く通れば来るよ」
そう言って無理やり出てきた。
地獄のようなイベントで得た装備。
早速試してみたいがと思い俺は1人草原にでてきた。
そしてゴブリンよりちょっと強いかなくらいのウルフと1人戦っていた。
「ふぅ」
一息つく。
いつもならサーシャ達が回復してくれてなんとか連戦できるような相手だけど今の俺は地獄を乗り越えた男。
この装備が勝手に回復してくれる。
サーシャやメイル程のヒール量はないが、それでも十分な量を回復してくれていた。
「さて、この辺りで今日は終わるか」
伸びをする。それと武器の方もそのうち変えてもいいかもしれないな。
セツカは原作だとそこそこのナルシスト設定にされていた。
所持する武器の名前は雪華刀。
自分の名前の武器だ。
俺としては勘弁して欲しいが、まぁこの武器が中々悪くない。
そのせいでここまで使ってしまった。
そんなことを思いながら俺は酒場に来ていた。
食べ直そう。リゼには悪いが流石に薄味過ぎた。
ドカッと隅の席に座って俺はボーイを呼びつけた。
適当に注文していく。
そんな俺の対面に誰かが座ってきた。
顔を上げてみるとミーナだった。
「今日はお一人なんですね」
サーシャ達がいない事を言っているのだろう。
「2人は買い物でも言ってるよ」
女と言うのはよく分からんがどこの世界でも買い物が好きらしい。
まぁ、俺が今日は好きしていいと直前に言ったから特に行く場所もなくてそうしているだけなのかもしれないが。
「アルフとはどうなんだ?」
「アルフさんは苦手ですね」
と口にしてくるミーナ。
「ちょっと陽気過ぎてノリが合わないと言いますか」
そんな感じらしい。
あいつと喋る時はIQを100くらい下げた方がいいのもある。
「ほ、本当はセツカさんとパーティ組みたいんですけどね」
そう言ってくるミーナ。
「へぇ。俺なんかと組みたいんだ。アルフとは能力の相性はいいのにな」
「やっぱりその苦手で」
ふぅんとか言いながら話を聞いていると
「あ、あの少しお出かけしませんか?」
ミーナにそう言われて俺は立ち上がろうとしたが
「セツカ。人のパーティメンバーをまた引き抜こうとしてんのか」
と、男に声をかけられた。
そっちを見るとやはりシュラインが立っていた。
「ち、違いますシュラインさん」
そう言っているミーナだが聞く耳を持たないシュライン。
「セツカ、前に助けて貰ったのは感謝してる。だけどな。パーティメンバーの引き抜き、それがどれだけバッドマナーか分かるよな?お前」
そう聞いて俺の胸ぐらを掴んできた。
「僕が苦労して集めた最強のパーティを乱すような真似はやめにしてくれ」
「俺は引き抜きなどしていない」
そう言って手を離させるとシュラインは俺にこんなことを言ってきた。
「決闘しろよセツカ」
「は?」
何で、決闘?
「お前をコテンパンにしてやるよセツカ。それをミーナに、アルフに見てもらおうじゃないか。お前の弱さを見せつけたらこいつらもお前に寄り付かなくなる!」
そう言って今から付いてこいと言ってくるシュライン。
こいつはモブだ。
でも俺はそのモブ未満のカスキャラと呼ばれたセツカ。
模擬戦なんてやって勝てる未来が見えないので必死に取りやめようと言ってみたが
「うるさい。お前に今後ミーナが寄り付かないように見せつけてやる」
と言って聞かない。
とは言え戦闘放棄なんてミーナの前でやりたくないしなとか思ってたらギルドの訓練場まで来てしまった。
「僕の体力は400だ。君の体力は330だろ?」
そう聞いてくるシュライン。
セツカの全キャラ中ワースト体力なんてものはファイラグを知っている人間なら知ってるし数字も知ってる。
「さぁ、構えろよセツカ」
俺はシュラインにそう言われて、模擬戦用の木刀を手に取る。
「せ、セツカさん」
声をかけてくるミーナを黙らせて俺は木刀をシュラインに向け、聞く。
「勝敗はどちらかが負けを認めるか、アルフが止めるまでだ」
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