第9話 俺だけが知るイベント


ラグナロクタワーの2階は街になっている。


元々はここも普通のエリアだったが長い期間をかけてモンスターを排除して街を作り上げたという話らしい。

1階を突破した新規冒険者を休ませるという意味もあるらしいが。


そうそう。ここの町には専用のアイテムがあったはずだ。

そう思い俺は町外れに向かった。


「何をしているのですか?」


俺が草原の中を見つめながら歩いているのが気になったらしいメイルが聞いてきた。


「この草原にはアイテムが落ちてるんだよ」


そう答えると


「な、なんで知っているのですか?」


と聞かれた。

俺はミズノ以外には転生者だと言ってないんだよな。


「落ちてることがあるんだよ、あはは」


と答えてそのアイテムを見つけた。


「ほらね」

「わ!本当に落ちえていました!」


そのアイテムの名前を確認する。


探求者の指輪:獲得経験値+1


あんまり使われてない指輪だが、ここでしか拾えない限定アイテムなので一応拾っておく。

コンボの指輪を外してそっちを付けて、とりあえずレベリングに明け暮れることにした。

サーシャやメイルも自衛の練習をさせないといけないしな。


そうして1日経験値稼ぎをしてレベルは+2でレベル22に上がったところ。

スキルの獲得はまだ見えない。


「くたくたですー」


座り込んでしまうメイルやサーシャを見守りながら俺はそれでもレベリングを夜通し続けた。


そして次の日俺のレベルはやっと25まで上がった。


「よし!」


【獲得スキルを選んでください】


→コンボ5回目猶予時間+0.06秒


やっぱりこれなのかと思いながら俺はこれを取得する。

というよりこれしか取れないし。


そうして指輪を外してゴブリンにコンボを決めてみる。


15,17,19,26,


5回目,36ダメージ。


「ご、5回目のダメージが跳ね上がった?!」


4回目のダメージの上がり幅も凄かったが5回目はより凄かった。


でも、跳ね上がるけどアルミナの編成はバフってアルフに殴らせれば1コンボ目からダメージ100だ。

他のキャラでも1コンボ目から30とかだ。


あほくさ。

シビアな入力やらせるくせにほんとにテクニカルなゴミじゃねぇかよ。


「まぁ、比べても仕方ねぇよな」


そう思いながら俺はメイルとサーシャが買い物してくると言うのでそんな中でも俺はレベリングを続けた。


しかし中々上がらなかった。

そりゃそうだ。

俺が倒し続けてるの雑魚モンスターだもんな。


「この次のダメージが気になるけど、そろそろ狩場変えないとな」


帰ってきたサーシャ達を連れて俺も街に戻ることにした。


その道中シュラインに声をかけられた。


「セツカくんは頑張ってますなぁ」


ガムをくちゃくちゃ噛みながら女を2人連れていた。

最強構成を手に入れてご満悦らしい。


「見てたよ。無駄なのに雑魚モンスター倒しまくってんの」


そう言ってくるシュラインだが彼の連れていた女の目は俺を捉えていた。


「あ、あなた、もしかしてあのセツカ?」

「わ、わぁ、ほんとにイケメン」


そう言いながらシュラインを無視して寄ってくる。

それを見て間抜けな顔で口を大きく開くシュライン。


「ねぇ、決めゼリフとか言ってよ」


とか無茶ぶりしてくる。


「俺に触れるなよ。俺の闇の力があんたらを傷付けちまうよ」


みたいなことを言ってみるとキャーキャー言い始めた後にシュラインの事を思い出したらしく2人はシュラインの近くに戻った。


「ぺっ」


シュラインは唾を吐き捨て俺を睨むように見てからどこかへ行った。


「ほんと失礼な人です」


べーと舌を出してそんなシュラインを見送るサーシャ。


「あんな嫉妬男は放っておきましょう。セツカさんに嫉妬してるんですよ」


そんな事を言うメイルを連れて俺はギルドに向かうことにした。


この先の階層の情報を仕入れながらついでにこの世界限定の要素と言えばいいのか分からないが宗教団体についても少し調べてみた、のだが。


「タワー教というのがあるのか」


1人呟く。

ゲーム内では聞いたことがないがタワー教というものがこの世界にはあるらしい。

詳しくは知らないが塔に触れるなみたいなことを口にしているらしい。


相手にされていないらしいが。


「ゲームと明確に違うのはこれが出てきたこと、くらいか」


ふむ。

そんなことを呟きながら俺はふと思い出した。


あー、そう言えばこの先はギルド主体になって3階層に向かうイベントがあったな。


思い出したくなかったが。

その思い出したくなかった理由はその結末にある。


そんな事を思いながら俺はクエストが出ていないか掲示板を見てみた。

するとそこには、そのイベントの参加メンバーを募集する張り紙があった訳だが。


「参加しますか」


ゲームではこのイベントがあるからこのイベントに参加するまで3階への侵入は出来なかったな。

まぁつまり強制イベントみたいなものなのだが。


俺は紙を取りそれに参加表明してから受付嬢に渡した。


さてと、俺はサーシャ達を連れて宿を取り明日に備えることにするが


そうしながらこれからの事について考える。


この3階攻略イベントで指揮を執るギルドマスターが確定死する。

原因はゲームによくある大型モンスターが乱入してくるというものだ。


「これって回避出来たりするんだろうか」


ゲーム内でのギルドマスターはとんでもなく強かった。

が、乱入してきたモンスターと相打ちで倒れてしまう。


だが、これを回避出来れば強いギルドマスターがこの先のストーリーでも登場するということでは無いだろうか?


ゲームでは死んでしまったギルドマスターの代わりに新しい人が一応就任するんだがとんでもなく弱かった。


だからギルドマスターが残ってくれたら俺たちはこの先の見知らぬ階層もそんなにきつくないと思う。


「そうと決まれば頑張って生存ルート迎えさせますか」


俺はそう言って寝静まったサーシャ達を起こさないように外に出た。


俺は解析サイトなんかも見ていた。

あっちの国の人はそういうの凄く熱心に解析してくれてたからな。


このゲームは作り込みが凄かったせいで、スパゲティコードとやらになっていて、バグも多くイベントとか細かいのも多かったが、それらよりも隠しイベントの量などがすごかった。


なんとその隠しイベントの数は10万を超えるらしい。

殆どは意味の無いものだらけだったが。


で、その中に序盤のぶっ壊れ要素があった。

それが、これだ。

多分俺しか知らない。そもそも解析サイトなんて見てるやつ少ないしな。


俺は路地裏にいた、片足のない薄汚れた爺さんに話しかけた。


「よう、爺さん」

「誰じゃお主は」

「あんた、いい腕持ってんね」


俺がそう言ってやると爺さんは目を見開く。

これがイベント発生条件。


この爺さんが昔腕前の冒険者だったことを見抜くことが、フラグ。


「ふん。ワシゃ昔冒険者じゃったからな」


そう口にする爺さん。

よしよし、ゲーム通りだ。


「お主パンでも持っておらんか?」

「持ってるよ」


そう言って俺は爺さんにパンを渡す。

ここに来るまでに買ったものだ


「お主は命の恩人じゃな」


そう言って爺さんは俺にアイテムを渡してきた。


【????????】


それは赤色の何かの羽。

現時点じゃ名前も効果も何も分からないアイテムだ。


俺はそれを受け取る。

良かった。この世界でもこれが手に入れられて。


「ワシも昔このタワーを攻略しとった。その時にな拾ったものじゃ。このアイテムだけは捨てられんかった」


そう言ってくる。


「お主の役に立つといい」


そう言って爺さんは立ち上がるとどこかへヨロヨロと去っていく。

あの爺さんがどういう爺さんなのかは分からないが、重要なアイテムを手に入れた。


この名前も効果も分からないアイテムはゲーム内では結局サービス開始から終了までこのイベントでしか手に入らなかったアイテムだ。

でも俺はこのアイテムの名前も効果も知っている。


口だけを歪めて笑い俺は宿に戻る。

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