第2話 見える可能性
指輪のおかげで連撃を出せるようになっていた。
しかしデメリットがあった。
「コンボダメージボーナス乗らないのほんとにきついな」
今日も爺さんのところでチュートリアルのダミーを相手に練習していた。
爺さんは家の中から出てこない。
俺に教えることはもうないと言うように。
そのダミーは今俺が与えたダメージを出してくれているが15,15,15,15と固定ダメージしか出していなかった。
この世界にはコンボボーナスというものがあって、コンボを繋げれば繋げるほどダメージが大きくなるのだが。
この指輪を使っている場合そのボーナスが乗らないようだ。
ちなみにセツカ以外の他のキャラは入力猶予なんてものはなく普通にボタン連打したり、ディレイをかけたりしながら1発30とか出していく。
とにかくコンボを繋げないとダメージが出ないから。
そのコンボが繋げないくせに。
そして仮に繋げたとしても元々の火力が低すぎてキツイという。
「何回コンボ当てりゃいいんだろうなこれ」
そんなことを思いながら俺は指輪を外してみた。
大体コンボの感覚は理解した。
4回目のコンボ、できた!
5回目、だめだ。
指輪がない場合のダメージ効率だが15,17,19,26になっていた。
「ふぅ……4回目以降シビア過ぎるだろ。シビアな入力を出来たらボーナスがかなりデカくなるみたいだけど」
そう呟きながら俺は指輪をはめてまた死ぬ気で剣を振る。
この世界でもゲーム通りにイベントが発生するならもう少しでイベントが発生するからだ。
それに向けて頑張らないとな。
とは言ってもコンボの感覚がシビア過ぎるのもまた問題だ。
これ、どうにか出来ないのだろうか。
そう思いながら俺はアルフと待ち合わせの場所に向かう。
「おっすセツカ。昨日の子はどうだったよ。泣かせたのか?」
なんてことを聞いてくるアルフ。
あー、あの子のこと忘れて爺さんとデートしてたよ、なんて事言えるわけもなかった。
一応訓練が終わるまで待っててくれて送ったけどさ。
「セツカ。久しぶりに模擬戦やんねぇかよ」
そう言われて俺はアルフに連れられ闘技場にやってきた。
「先抜いていいぜ」
俺は負けた。
「はぁ、」
分かっていたことだがな。
向こうはゲーム内トップクラスの性能のアルフレッド、対して俺はモブより弱いと評価されたテクゴミ。
対戦するまでもなかったが。
「いい、試合だったな」
アルフは屈託のない笑みを向けてくる。
嫌味とかじゃなくて本当にそう言ってくれてるんだろう。
こいつはこういう奴だ。
「悪いな。もう少し俺が強かったらお前も面白いんだろうが」
そう言って立ち上がる。
「いや。俺はお前といるだけで面白いからいいぜ、そんなこと」
それ、男に向かって言う言葉じゃねぇだろと思うがそういう気は一切ないんだろうな。
「それより、お前と久々にこうやってやれたんだ。これからダンジョンでも行かないかよ?」
そう聞いてくるアルフ。
「もちろん、ゼスタのやつも連れてくるぜ」
ゼスタ。
俺とアルフの親友だ。
なんで男3人でダンジョンに行くんだよとも思ったが、ゼスタと会うのも久しぶりな気がするしな。
「まぁいいでしょう」
俺はそう答えてアルフの提案に乗った。
ダンジョン前で俺とアルフはゼスタを待っていた。
やがて合流するゼスタ。
「よう。相棒。久しぶりだな」
そんなことを言いながら長身の男が俺に話しかけてくる。
「まぁな」
「会いたかったぜ。兄弟」
俺の股間をニギニギしてくる。
「ふむ。今日もいい感じだな。相変わらずセツカは童貞のようだな」
何で分かるんだよこの野郎、と思いながら俺たちはダンジョンに突撃していく。
2人は俺なんかと違ってBランクの冒険者だったのだが、今回は俺のレベルに合わせてクエストを選んでくれている。
俺もちょくちょく戦いながらダンジョン攻略を進める。
ちなみにこの世界ではダメージなんかは基本固定だ。
レベルで変動するのは使えるようになるスキルくらい。
だから純粋に己の技術のみが問われる。
アルフとゼスタの奴は基礎攻撃力が俺の倍くらいあって少し攻撃するだけでどんどんモンスターが倒れていく。
俺いらなくね?とか思うけどこれ原作再現ね。
足引っ張ってないだけマシだよ。
セツカがパーティにいるとお前何もすんなと言われるくらいだからな。素晴らしい原作愛を感じるね。
ほら、ファンはこういうの嬉しいでしょ?
「ふむ。こんなものか」
ゼスタは己の拳で全てを粉砕しながら突き進む格闘家タイプのアタッカー。
アルフもまた同じく剣で全てを薙ぎ払って進んでいくアタッカー。
俺は置物。
みんな違って皆いい。
そうして進んでいるとボス部屋までたどり着いた。
「おうおう、お出ましだなぁボスがよ」
そう言いながらアルフレッドが目前の敵に目をやった。
「ぐぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
ボス部屋で吠えるのはゴーレム。
俺たちはほぼ同時に駆け出した。
そして剣を振る音と拳を振る音が聞こえ。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
声を上げてズシーンと倒れ込むゴーレム。それを見てアルフが口を開く。
「あれ?なんか倒すの早くね?あと倍くらい時間かかると思ってたんだが。明らかに早いよな?」
俺はよく分からんけどゼスタが口を開いた。
「ふむ。確かに早いな。ゴーレム相手には俺が置物になるからな」
その時アルフが何かに気付いたような顔をした。
「ダメージはセツカが1番出てるな」
そう言ってくるアルフ。
まさか、と思いながら俺はダメージログに目を通した。
するとそこには
セツカがゴーレムに180ダメージ
アルフレッドが60ダメージ
ゼスタが30ダメージとなっていた。
驚いた。
何でこんなに出てるんだ?俺は指輪に頼って攻撃し続けたしダメージボーナスなんて乗っていないはずなんだがな。
「セツカって手数凄いからなそう言えば」
と口にするアルフ。
話を聞くとゴーレムは装甲が厚くダメージが通りづらく1回の攻撃でダメージが1になることも珍しくない。
だからこいつに対するメタが手数武器を持つキャラなのだが。
「なるほど。相性が良かったって訳だな」
ガハハと肩を組んでくるアルフ。
「流石俺の親友だなセツカ」
そう言ってくるアルフにゼスタも肩を組んで来た。
「流石俺の見込んだ童貞だなお前は」
童貞関係ねぇだろと思いながら俺は自分の手を見た。
あれ、まさか敵を選べばやれそうなのか?
このキャラ。
その後の帰り道アルフにこう言われた。
「俺はこれからセツカのこと連撃の鬼って呼ぶことにするわ」
「お、それいいな」
ゼスタも何故か乗っていた。
「だろ?ゼスタが鋼鉄の拳。セツカが連撃の鬼」
で、どうよ?と聞いてきたが
「アルフは何なんだよ」
「俺?俺は何でもいいだろ」
そう言ってはぐらかすアルフ。
「よし、決めたぜ俺は」
そう言いながらアルフは俺とゼスタを見てきた。
「次のイベント知ってんだろ?ラグナロク杯」
出た。ラグナロク杯。
ファイナルラグナロク初めてのイベントだったやつだ。
現時点で最強のプレイヤーを決めるというイベントだった。
「俺はお前らと出ようと思うがどうよ?」
と聞いてくる。
「ふん。確かにいいかもしれないな」
ゼスタは乗り気だった。
何が嬉しくて男3人でイベント出るんだよ、とも思うが。
「アルフは他に出るやついないのか?お前昨日も女の子とデート行ってたじゃん?そっちはいいのか?」
「あ?振られたよ。赤ちゃん扱いしてくれって言ったらドン引きされたよ。俺にはおめぇらしかいねぇんだよ!」
と口にしてきた。
なるほど。そりゃ引かれるわな。
めっちゃ頼りがいあるリーダーみたいなやつなのにいきなり赤ちゃん扱いしてくれと言われても困るだろう。
「おう、アルフ。俺がお前を慰めてやるよ」
「マジか?!ゼスタ!」
俺の前でそんな話をして抱き合うな貴様らと思ったが。
「まぁいいだろう」
今の俺に友達はいないし何より2人ともゲームではこれでも使用率トップクラスだったのだ。この誘いを蹴るのは愚か者のすること。
そう思った俺はこのメンツでイベントに参加することにした。
その後ゼスタの部屋に連れていかれたアルフを見送ってから1人俺は酒場に向かうことにしたのだが、入口からフードで顔を隠した女が出てきた。
「あれ、あなた……」
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