第12話 誰もが通る途
解っていても受け入れ難い日は訪れる。それでも、その先があるのだから、色褪せないことを願って病まない想いを抱く自身こそが、悪意であることに気付いていた。
寂しさや名残に打ちのめされた心は、まるで穴が空いたようである。
「
唐突に切り出された感覚が、楓花の心にもたらしたものが安らぎで、心地よさに包まれていた。
詞が導いた先が永遠に感じられたのは、もたらされたことで、脳が錯覚に陥ったのだが、懐かしさに満たされていた。
楓花にしたら唐突でも、空に散りばめられた
「それって迷信? かも知れないけれど、聴いてみたいな」
少し照れた表情をした楓花は、少女のように瞳を輝かせ、急かされているように、うさぎには想えて仕方なかった。
好感触が出す生唾を飲み干してから、
「夜の闇に誘われる風習は、地域ごとに違いますが、
「
「そこ(夢の中)に誘ってくれたのが、あくびちゃんでしたから、夢中になって終いました」
『おやじギャグ?』
楓花は続きへの期待から、
口をついたのは
「あくびちゃん? って、アニメだよね」
「ミキから聴いたのですか?」
「多分、
「楓花が産まれる切っ掛けですからね」
「営みの話なの?」
「ミキは、ティンカーベルという、米国のおとぎ話が好きだ! と云って、あくびを噛ましましたからね」
「なんで? 米国だったのかな」
「日本が負けた唯一ですし、國を挙げて、越える意思を明確にしていました」
「だから、夢という詞が乱用されたわけね?」
「復讐にしないために、追い付け! 追い越せ! と賑わいました。目測をずらすために仕向けたのは、戦争から離脱することを謀るためだったようですね」
「想像が追いつかないのは、実感が無いからだと想うんだけれど、
「?」
と、閃いた刹那に、うさぎは呪文(サンスクリット語)を唱えていた。
楓花が造り出た靄が、吐息の流れに消えると、躰から洩れるように脱出を果たした。
靄は現実に触れると光沢を集め、姿を形成してゆく。
顕れたのは、三妹神であった。
「やはり?
その刹那に、うさぎが、楓花の心臓に手を宛てていた。
そして
「
「まったく?」
と云って、次妹神も、勾玉が振り撒いた光沢の中から姿を顕した。
楓花が詞を失い、唖然に囚われていると
「首謀神は、卑弥呼さんですか? 出てきて下さい」と、うさぎがほざいた。
光と影を纏うように顕れたのは、疾風であった。
「疾風様?」
楓花の口をついた名は、
「と? 云うことは、首謀者は、感性母さんということですね」
と、宣った。
すると、月の反射光で帳を貫通し、創世主である、感性が降臨した。それは閃きよりも速く、重圧感で重力を席巻していた。
うさぎは半ば呆れた面持ちで
「またなにか、悪巧みを想像したようですね?」
と、続けた。
感性はそれを無視するように
「はじめまして? よね、
と、挨拶してから、両の手を駆使して顔の
「なんで?
「日の本は神の國! その仕来りは、礼節に始まるからよ」
と云って、姿を顕したのが、卑弥呼であった。
六弟神の操る雲に便乗していた。
「おう、赤瞳。久しいな」
「光のような突風を造り出したのは、五弟さんですね。阻む量子を細工したのは、四弟さん? ということなんでしょう」
「これって現実? よね。あり得ない状況に微塵も臆さないなんて、
「宇宙の理に従えば、怖いものの存在は、無限大の質量のブラックホールに墜とせば良いだけです」
「赤瞳が簡単に云うのは、実際に視てきた経験があるからよ」
「そうなの?
「無重力空間ですから、生命のゆりかごを味合えます。知らないから恐怖心が芽生え、その圧迫感に身を焦がします」
「焦がすのは、愛じゃないの?」
「慣れれば当たり前にするのが人間で、心の靄は、消せることのできない好奇心なんですよ」
「それで、巧な言い廻し? で、誘導したのね」
「誘導したのは、感性母さんで、その途筋を想像したのが、神々ということなんでしょうね」
「なんのために?」
「楓花の心の成長を確めるためじゃないんですかね?」
「いいかい? 楓花ちゃん」
「どうぞ」
「神々がそこらじゅうにお
「真面目に努力を重ねることが出来ないのは、動作の遅いホモサピエンスの習性が残っているからよ。折角 知恵を持ったんだから、悪巧み? ばかりに使わず、多様化する生命体のために尽力すれば、花畑のような彩りが造れるわ」
「恨みや憤りという感情に支配されるから、屈託のない笑顔を失くすのよ。良い例が、
「純心がもたらす効力は、明日への希望を抱ける心の未知数が生み出すんじゃ。それに気付けない人間に、神の部首は使いこなせるはずもない? となるんじゃな」
「男神が気付いても口にしなかったことを、赤瞳は整然と云い退けたんだよ」
「まさか人間ごときに教わるなんて、想いも依らなかった」
「それは、実体が人間というだけで、限りない宇宙のような想像力を養ったからよ。無限の可能性というものに、限りをつけて終ったみたい。その愚かさが、実体を失くした原因かも知れないわよね」
「そうやって切磋琢磨したから、神々も掬われたみたいだけどね」
「だから、礼節を失くしたことを、人間の終わりに繋げたくなかったのです。楓花へのご褒美が何か解りませんが、今は良しなに、騙されてみましょう」
「騙すなんて、人聴きの悪いことを、神々がするわけないですよ。況してや、感性様が同行する臨界に、嘘や方便があっては、末代まで恥を晒すことになりますからね」
楓花は、この乱雑こそが、雑踏の始まりのような気がしていた。女性は体内に子を宿すから、悪意や蟠りを秘めることを嫌うもの? その拈華微笑を送ったのは、うさぎ以外に居なかった。
「今のは、ミキの囁きです。天使となったミキのために、地域に伝わる天使の武勇伝を教えようとしていたんですからね」と云ったのは、おとぎ話を信じる気持ちを、そのまま持ち続けることの大変さを教えたかったようだ。だから奇跡を生み出したのだ、と、楓花の笑みが語っていた。
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