第10話 閃きが教えるもの

 一段落したのは、想定内に納まったからである。


 楓花は年頃と云われなくても、身嗜みだしなみを正ことを本能に刻み持っていた。その仕草に纏わり付くものが電磁波で、うさぎはそれを信号波との磁石作用と形容し、無意識下の行動に顕れるから、脳の支配から逃れた心がさせるわざと教えたいらしい。そんな時に、楓花に閃いたものが血汐をたぎらせた。


早急さっきは気付かなかったけれど、人間の本能とは遺伝子に刻まれた経験で、そのパックアップ機能を果すのが心だから、赤瞳とうさんはその重要性のために、様々なことを同じ舞台に引っ張り出すのね」

「大小や気位きぐらいだとか、それぞれの特徴を持つのが人間ですが、それに付加価値を付けるのも人間なんです。だからかも知れませんが、命に価値を見出だすことを当然にして終ったら、総てが泡になります」

「だから、争うことを当たり前にする風潮を、軍国主義と云うんだね」

「勝敗を望む感性を悪者にしなければ、気付けないのが人間ですからね」

「? 気付くために必要だから、感性が始まりだったのね。もしかして、悪意のない優しさも教えたいの?」

「伝えるための言葉に流行り廃りがあるので、真意が伝わりにくくなっています」

「伝わりにくい? なんで」

「現在は詐欺ですが、古では、盗っ人と形容しました。常人の行動と反対の行動をするからなんですがね」

「昼夜を逆転させたから、それを悪行にしたの?」

「楽を追求した結果? ではないでしょうかね」

「楽? だったの」

「食べることを諦めると、死が待っていることを、誰が気付いたのでしょう」

「それが、絵に描いた餅? だとか、都市伝説化したんだね」

「? もしかすると、お釈迦様の荒行は、そんな都市伝説を見越したものだったなら、後継者となる者の存在が見出だせなかったからかも知れません。イエス様が立身出世を図ったのは、立ち直らない世の中を憂いたからで、同じ憂いは、モーゼにもあったから、聖書バイブルとなったのでしょう」

「日の本の國にないの?」

「日本書紀がその役割をするはずでしたが、卑弥呼さんがやって来たから、聖書になれなかったんでしょうね」

「生き神様だったんだもんね。でも巫女と謀ったのはなぜなの?」

「義経さんの甦りや、信長さんの奇跡を現実にするため? だったんじゃないですかね」

「歴史の登場人物に『神憑り』を与えるためだったの?」

「謎多き所以ゆえんのひとつに、弁財天であったこともあります。人間にとっての長寿が権力者の想いだったから、謎迷なぞめいて終ったんでしょうね」

「いまだに健在だもんね」

「ミレニアムの前までで、生存を終えています。一族の蟠りを解消するために、今は非実体ですよ」

「? それが、卑弥呼さんの『けじめ』だったわけね」

「神々の自尊心でしかないです」

「だけどそれも、神様らしくて、好感が持てるよね」

「女性の考え方は子宮で決まり、男性の考え方は放出の達成感で消える? って、悪名高い三妹さんが残しています」

「? それって、嫉妬深いゼウスの妻のヘラのことで、日の本の國では、違うんじゃない?」

「よく導きました。人間が目指すのが神々だから、その土地土地での立ち回りも違いますもんね。けれども、人間と同じで、見た目で判断すると大層な罰が下るかも知れません。アインシュタインが、その両極を示したから、人間に哲学が不必要になりました」

「変わったものが科学? だから、未熟な人間にとって必要とされたんでしょう? 梅雨前線の伸び代を計れないのは、不可抗力に相当する想いが計算できないからだもんね」

「確かにそうですが、ジェット気流に纏わり付く主素が見えないのだから、仕方がないでしょう」

「見えない未熟さを知った? としも、格差社会の傲慢で、弱い者を打ちのめすしかできないはずよ。それが自身の首を絞めていることまで、たどり着けないことに気付けないんだからね」

「その傲慢も、相手次第です。全てが同じ感性を持っていても、育て方を知らないのですから、同じ土俵で勝負? というわけにはいかないんですからね」

「だから、餅は餅屋に任せるのが一番なんでしょう? 楽に目敏く、流れに従え、という宇宙の理を知らないのも、未熟と云われる所以なんだもんね」

 楓花は云って、したり顔を覗かせた。うさぎの出す問題の答えは、うさぎのものであって、世の常ではない。だが、その一説の想いに気付けないのが人間だから、進歩の先を想像できないのだ。近代文明で見えなくなった星星も、今も光を放っていて、それでも宇宙が闇に閉ざされていることを紐解けない人間の科学は、幼児の夜泣きなのである。

 因に、傲慢の対極が解ったとして、人間の本能は書き換えられることはない。だから、浄化に導かれることを逃れることはできないのだ。ならば、徳を持って、浄化を逃れる方法を、模索するしかない。それはもう少し先? ということで、ふたりは優しさにほだされていた。

 帳が静かに席巻するのは、眠りにいざな究極わざのひとつであり、地表がない世界におとしいれるからだ。今流行りの転生は、夢心地である上に、自身の欲望を満たすのだから当たり前である。その欲望が膨らみすぎたのは、物語という自分本意の発想が、想い通りの経緯と結末にたどり着けるからだ。それが自由の本文であったとしても、災害や天変地異を教えるための夢を占領した結果であることも、重ねなくてはダメなのだ。それを善意に導くための魔法を持たない人間の失敗は、神話から始まったとされる物語が、争いに終始することに気付き、論争に導けなかった汚点を隠したことを知って欲しい。自然の中にある、木にしても石にしても、道具になることを望んだわけではない。知恵の持つ変化を悪用した結果、ということなのだ。それでもまだ戦争を望むならば、絶滅までの終焉となって当たり前なのだ。間に合ううちに引き返さないと、未来ごと闇の中に葬られることに気付いて欲しい。何も持たない一般市民は弱くて当たり前で、犠牲になる無念に気付いてもらえれば、うさぎの云う寿命を全うできる世になるのだ。そしてそこには、恨みは存在しないのだから、怨念は生まれないのだ。想いという想像の中で育ったとしたら悪夢でうなされ続けて視なくなるだろうが、非実体に納まるはずのない賢人たちの活躍して少なからず良化に向かうはずで、見通しが良好ならば、彩りも回復するのだ。

 ふたりは、想いが重なることを願い、夜空を彩る星星に、祈りを捧げるのであった。

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