第7話 その日の御告げは確かなの?

 足踏み状態の梅雨入りを忘れさせたのは、恐怖に戦かす可能性を秘める御告げであった。

 天変地異を当たり前にした現在は、人間の命を虫螻むしけら扱いしているように感じられる。

 凸凹を失くすために起こる地滑りで、埋もれて終った住宅に取り残された骨墓ねが共鳴すれば、なげきに聴こえるものである。囁きに似た低周波が異音となり、縮小した心に対し、悪意だけは拒み続けろ! と訴えているような気にさせる現象は、それを聴き取った心がもたらす活力が主素(エネルギー)となり、そこに集まる電磁波が電気信号に変換されるのが、宇宙の妙であるからだった。

 電気信号が示すものは意識の凹凸であり、それ等の総称が運であることを知らない人間は、持って生まれた才能と理解しているようだ。錯覚を想定内に修められない理由は、崇めるの存在が虚ろだからだろう? 非実体の生命体が同じ空間に存在することを、脳が具現化できないからである。その事実を知る魂は、浄化でその記憶を消されていた。

 地球という一事は、宇宙という万事に抗えないからである。それを立証する科学は万全ではないが、科学と云えば怯むのが一般人であり、精通する者は、己の理だけが心理であると、傲慢を通すのが現状となって終った。

 天災がもたらす被害を目の当たりするばかりで、予測することを預言者に任せるしかなく、御告げの存在事態をまやかしにした。被害者が出ることを理にする理念は、時間の限りを費やしたのだから、という横暴さをも加え、勝手に独り歩きすることを許して終った。そのを背負わされたのが、継承者(次世代)となる若者たちである以上、引き継ぎは失敗に終わるはずである。その危惧を、楓花に持ち越すことだけは、うさぎの志が許さなかった。

 礼節を重んじる民族性が廃れた現在は、若者の大多数が大学を卒業する学歴社会だが、楓花がその大多数に臆さないだけの見識を持たせるために、平行する異時空間に旅立たせることを、内心で決めあぐねていた。


『赤瞳の理は、永遠に膨れ上がる宇宙に対する疑問の答えなんでしょうね?』

 届いた思念が彩りを集め、纏った刹那に、卑弥呼の姿が浮かび上がった。

赤瞳わたしの感性がもたらす意識は、影の存在を打ち消すために、物理的思考で解決を図る人間に対する嫌悪感です。知恵がもたらす概念は、正常を維持するための信号であり、理にするべき代物ではないはずですからね」と、返したものの、それを正論にするだけの根拠うらづけを揃えられないもどかしさを笑みに交え、うさぎが真意を画していた。

「平行する異時空間に、答えがある保証がないことを知る、赤瞳あなたらしくない行いですね」

 百戦錬磨と云うべき経験を持つだけに、卑弥呼の理は、うさぎの真意を見抜いていた。

「善くも悪くも結果に左右される人間ですからね、これでも

「元素という物理から始まった? という見解を持つ人間には、真意が必要ですかね」

「非実体になる可能性を打ち消せないのが人間なんです。物理に空想論を交えられないのは、終わることを恐れる人間だからこそ? と、結論に至らないのでしょう。都合に合わせた理を真実と想い込む習性が原因なんでしょうね」

「? 宇宙が拡がり続けるならば、絶対零度も下がり続けることに触れないからですね。観点にするものが感性ではないのは、物事の中心を見間違う良識に導く概念で解りますよね」

「無限大の質量を持つブラックホールが生まれたビッグバンが始まりとする見識はある種のしるしです。――が、いきなり始まることを納得したのは、ブラックホールが存在する意味を履き違えたからでしょうね。無限大の質量が更に膨れ上がる理由は、混合された境界線を眼で追えないからですが、限りなく拡がる理由を置き去りにし、重なる意味に辿り着けなくしました」

「赤瞳はそれを、錯覚と形容しましたよね」

「錯覚という観点を、見えないことで納得しましたからね」

「地球の理は、一足す一は二ですが、宇宙の理で云うなら、一足す一は大きな一ですものね」

「物理的に云えばそうなります。数学が物理を凌駕した意味こそが概念であり、概念と観念を一括りにする民族性が、負い目になり見えなくします」

「だからでしょう、答えに辿り着くことが重視され、純心な幼児心理のその後を考えていませんね。躾を放棄する親が、モンスターペアレント化したのは、教育が生み出した想像力の欠落ですもんね」

「意味不明の想像力こそが、急場の臨機応変に繋がります。知能指数あいきゅうが答えとする日本の教育が、錯覚がもたらした理念ですから、楽を本能に刻む民族性が、異常に変換しても可笑しくありません」

「だから、嫌いなんでしょう? 情けを失くした民族性が同時に失くしたものが、心という観点である以上、始まりを感性とした理由に繋がりますからね」

「だからこそ、心という情けを造り出す代物の大事さに、気付いて貰いたいんです」

「だからと云って、異時空間を彷徨わせることが、正しい? とはなりませんよ」

「現状を当たり前にする感性こそが、ことの本文に気付かせる時もありますから、それに期待するだけです」

「自分勝手が通用しない異時空間に期待する理由は解りますが、そこまでして想い直して欲しい未来こそが、絵に描いた餅? に、なりませんかね」

「期待が無限大である以上なんとも云えませんが、ただ迎える未来と、造り出す未来では、彩りに差が生まれることだけは確かです」

 うさぎの浮かべた笑顔に確信がうかがえたのか、卑弥呼の想いがそれを後押ししたのか? 彩橋が掛かるように、そらに駆け上がる想いが蜃気楼を呼ぶ現在は、満更捨てたもんじゃない、と想わせていた。科学に拘る理由は、納得する心が生み出す未来こそが、宝物なのだろう? 期待を夢に映し出すことができたなら、現状よりも良い未来になるはずで、それが人間の使命なら、なおのこと善いと、卑弥呼は願っていた。

 楓花がもたらした現実が彩りを集めるならば、女神にとって息をつく休息が生まれるからである。非実体は見守ることしかできない現在は地獄絵図だが、地獄の沙汰が心次第になることを祷りとして捧げるのが、うさぎの信念である以上、楓花の存在が与えるものが、少しづつ良化に向かうだろう。もう少し? という期待こそが、人間に向けられた期待であった。

 だから、うさぎは今日の御告げを天に返したのだった。別に、今日はお告げがないね? と云えば済むことだが、嘘と方便を嫌うからだった。

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