第6話 数少ないから大事なの?

「犯人死亡で終わる事件って始めてのことだし、この虚しさはどうしたら良いの?」

 楓花はやるせなさをぼやきに変えて、うさぎの経験値に頼っていた。

 うさぎはその答えに没頭すると、

卑弥呼わたしが赤瞳に注視したきっかけは、この世にあるはずのない真実を探していたからなのよ」という思念に、楓花が襲われた。

三妹あたしに、様子を観に行かせたのは、赤瞳の想いが変形を始めたからよ。癇癪にうちひしがれた? 赤瞳の感性は想いあまり、節を破壊して行き場を失くし、触れるものの総てに反抗を試みていたわ」

「心を失っては、基も子も失くなります。それだけは避けたかったですからね」

「若気の至り?とは云え、ご迷惑を掛けて終いましたね」

「無茶を罷り通した? ってことですよね」

「感性様の甘さは、与えることに際限がないからね?」

「だけれどそれは、可能性への期待があるからで、赤瞳が先に標準を逢わせようとしたから、結果から云えば、善しになっています」

「たまたま方向が合っただけでしょうね、三妹さん」

三妹あたしは始めて、女神様が見間違った? と想ったわ。でもそれは、三妹の進言が招いた皺寄せかも知れない? って意気消沈したわ」

「神様も間違う? って、赤瞳とうさんはよく云うけれど、素直に認めるあたりは、やっぱり女神様ってことよね」

「純心を武器に世直しに勤しむ女神様たちは、間違いを悪意にしませんからね」

「だから、男神様たちと、反りが逢わないのかなぁ?」

「上手い表現をするわね、楓花は」

「男と女の結び付きで生まれるのが子孫で、幸福コウノトリって云うし、赤瞳とうさんの大の親友の? コウさんにえにしを掛けてみただけよ? こういう閃きが、違うものを結びつけるのかぁ」

赤瞳わたしたちの知る記憶と重なる記憶に、魂の想いの記憶が存在します。想像の世界で繋がる記憶も経験値のひとつですが、その境界線を逢わすことができるのは、神様の思念なんですよ。漸く、感性の馴染みを終えたんですね」

「感性の馴染みって、なんなのよ?」

「おなじ周波数のバイオリズムで、息が合うことよ。睡眠時の呼吸が、魂の呼吸だから、非実体の神々と合わせやすいと考えなさい」

「なぜ息を合わせるか?というと、流れることの原則が循環の法則ですから、それが始まりだからです」

「地球に層ができたのも、循環の法則がもたらした善意で、悪意に纏わり付かれると考える宗派では、踏み越えるべき欲と同等に扱われています」

「それって、赤瞳とうさんの考え方と違うよね?」

「精進する理由は、両極におもきを置かず、人間の経験がもたらす効力を、慈しみに向けるようにしたからです」

「それも想いのひとつだけど、戒律を強制するから、世捨て人の想像イメージが定着しちゃったわね」

「そうなると、自由じゃないよね? そこまでする理由はなんなの」

「潔白を突き詰めた聖人君子の存在に近付くため?なんでしよう。雑踏で解るように、音の発信源を尊き生命とすれば、善悪の根本をはっきりできます。必要のない生命はないですが、生きるための営みに纏わり付く、善悪は生じるんですがね」

「必要悪って云うのは輩という認識になりますが、だからと云って命にかわりありません。失ってはダメなものの総称に、異論を唱えていては、たどり着くものの価値を提げて終う恐れが発生する?と、上人様が教えたんではないでしょうかね」

「そこに格付けが存在する以上、軍国主義社会の名残というしかありません。もしかすると、責任を逃れるためにあるとすると、怠け者の習性かも知れませんがね」

「ねぇ、赤瞳とうさん。そんなどうでも良いことを、いつ考えたの?」

「川で溺れる前でしたから、小学一年生? だったと想います。どうかしましたか?」

「小学一年生?だったの。マセガキって云われたことはなかったの。そうなると、神々様の付き合いも永くなるわね」

「確かにそうなりますね」

「だからかぁ?」

「何がですか」

「神々様の癖を熟知しているようだから」

「なくて七癖あって四十八癖は、神々にもありますし、人間よりも人間くさいかも? 知れませんよ」

「だろうね?」

「呆れましたか?」

楓花あたしの生命よりも長い付き合いだから、言葉も要らないはずよね?」

「ならば、楓花も思念で関係を築けば、見えない過去を記憶から取り出して貰えます。ですがその過去は、獣たちからエサにされていた屈辱的感情です。知恵がもたらした二極性にしても、道理に矛盾を生む始末です」

楓花あたしの回路が弾けそうね。だけどそこから始まる閃きは、人間の怨念に応える答えになるかも知れない? だって破壊の先にあるものは創造って、書いてあったもんね」

「人それぞれの楽しみ方があって当然よ。だけど虐げられた過去ほど惨めだし、どうにもならないやるせなさは、好転に向かないわ」

「ご忠告? ありがとうございます。だけど、繋ぐ意味は必衰ではなく、責任に真摯に向き合うためです。楓花あたしひとりだと心許ないので、赤瞳とうさんの知恵を借りるつもりです。文殊にするなら、伊集院さんや高橋さんにも頼るつもりです」

「ならば、善し?としましょう」

「ふう~」

 楓花は息をつき、急場を凌いだ。女神の内心は計り知れないが、人間もまんざら捨てたもんじゃない?と想ったに違いなく、うさぎの仲間であっても繋ぐ手を持つ人間同士ならの成せる技であった。

 大変でも時間を掛けて集めたものは強靭な団結力を持っていた。繋ぎ続ける努力がもたらした力が、想うよりも強いことはいずれ知る必要に迫られるはずであった。

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