EP8.姉にどやされる少年

未取郎亜の姉 似亜にあ 目線】



「──ぷはぁ!!」


「似亜、飲みすぎじゃないかい?」


「大丈夫よ明日休みなんだから!!」


「ええ……」


 そう言って、再びぐびぐびとお酒を飲み始めるあたしを見て困惑する父さん。

 こちとら男にウザったらしくからまれまくって、ストレスがもう限界なのよ!!


 逆に、父さんはなんで全く飲もうとしないのかがあたしにとっては不思議よ。

 定時で帰ってきたとはいえ、朝早くから仕事にいってたってのに。


「男ってのは節度というのを知らないの!?人の顔やら胸やらを鼻伸ばしてジロジロ見て!」


「荒れてるわねえ」


「だって!!どいつもこいつもチャラい格好して自信満々で気持ち悪いのよ!!」


 料理をしながら笑う母さんにあたしは叫ぶ。


 個人的にはぶっちゃけ陰キャっぽくてもいいから、ちゃんと節度ある男と付き合いたい。

 え、現実的な理想に収まってるわよね?そんな言われるほど理想は高くないでしょ??

 なのに、毎日寄ってくるのは頭が猿と変わらなさそうなチャラ男だけなの。なんで??


 あたしってちゃんとそこそこ偏差値の高い大学に進学したわよね??

 オシャレに手は抜いたつもりはないけど、きゃぴきゃぴぎゃるになった覚えも無いのに。


 ほんと、なんでだろ……

 あたしはプルタブを開けて、勢い良く酒をあおった。


「──ただいま。なんだか騒がしいね」


 とかぶつぶつ考えてたら、真新しさの抜けないブレザーを身にまとった六歳下の弟、郎亜ろあが帰ってきた。

 今は午後18時くらい。学校帰りに、どこか寄り道でもしてきた感じに見える。


 ……つっても、その行先は訊かずとも明らかで。


「あ、郎亜。おかえりなさい。ちょっと、お姉ちゃんがね」


「ああ、なるほど。お酒も程々にね、姉さん」


「うっさいやい!このリア充っ!!」


 にっこりと苦笑する愚弟ぐていに構わず、あたしはぐびぐびと酒を煽る。

 自分との随分ずいぶん境遇きょうぐうの違いに、更にイライラと鬱憤うっぷんつのってきたわ……


 ……けど、飲んだ酒には凄まじい敗北の味しかしなかった。


 嗚呼ああ、かみさま……な〜んでこの愚弟にばかり恋愛運を与えてしまったのですか……。

 こいつの姉であるあたしにも、ちょっとくらいね……?分けても、いいんじゃない……?


 嗚呼……まともな彼氏欲しい……。


「リア充……?」


 一方で、郎亜のきょとんとした顔。


「あんたはもうちょい自覚しなさいよ!!」


「ええ……」


 愚弟ド天然鈍感に逆ギレするあたし。


 でも、るりりん流理という超絶美少女とあ〜んなベタベタしてるのよ?

 それなのにこれよ?全く恋愛的な方面で捉えてやがらないのよ?えっ、ヤバくない?

 客観的に自分を見詰め直すっていうことを、こいつに強く推奨すいしょうしたい気分になる。


 ……ほんと、こいつに振り回され続けるあの子もあの子よねえ。

 るりりんの恋慕れんぼを知る一人として、そして一人の女の子同士として。同情の念を送った。


 ──え?女の子(笑)さけくさおんなだって?ちょっと表出なさい。


「……母さん。水、頂戴」


「人使いが荒いわねえ。はい」


 小言を言いながらも、母さんはコップに水道水を入れて手渡してきてくれた。

 酒に続き、渡された水道水をぐびぐびと飲んでいく。


 のどから胃を通して、クリアな液体が何もかもを流してくれる感覚。

 イライラとほわほわが、脳から少しだけ抜け落ちていく感覚がする。


 こんな悪酔いしといてあれだけど、あたしは酒に結構強い方だった。

 どんなに泥酔でいすいしていても、水を飲めばある程度は意識が正常になるのよね。

 二日酔いとか滅多にしないから、割とこの体質にはありがたく感じてる。


 ──よし。この調子なら、明日は大丈夫そうね。


 大分落ち着いてきたのを自覚したあたしは、スマホをだしてたったっ、と手早く操作。

 すぐに目的を終わらせて、スマホをしまう。


 そして、ブレザーをハンガーに掛けて対面に座った郎亜に、頬杖を付いて尋ねた。


「郎亜、今日もるりりんと遊んだのよね?」


「え?ああ、うん。そうだね。遊んだというよりも、ゆっくり過ごした感じだけど」


 いや、熟年夫婦なのよ。その言い方だと。

 いちいちツッコんでてもキリがないから、仕方なく口にはしないけどね。


「ふーん。どんなことしたの?」


「うーん、普通にゆっくりしただけだよ。本読んだり、お茶を飲んだり」


 本とお茶って、随分と優雅ゆうがね。

 久々にカフェ行きたくなっちゃった。


 でも、訊きたいのはそこじゃない。


「もっと具体的に教えて欲しいわ。例えば、どんな体勢で過ごしたのかをね」


「体勢??え、急にどうしたの?」


 突然、そして立て続けに投げつけられる質問に、郎亜は首を傾げている。

 まあ、当然の反応としてそうなるでしょう。


 けど、疑問に思ってるのはあんただけよ。

 父さんも母さんも、あたしの考えていることを察してくれてる。


「いいから、思い出しなさい。具体的に、さっきどう過ごしたのか」


「ええ……」


「ほら」


「わ、わかったよ……」


 首を傾げながらも、頷く郎亜。

 別に恥ずかしそうにしてないところが、もうあれ末期なのよねえ……


「えっとね、今日はテスト最後だったんだけど──」


 そして、郎亜は今日の出来事を吐き始めた──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る