EP6.下の弟を巻き込んでた少女
【
この時期だとまだ明るい、夜の6時くらい。
友達と公園に行って遊んでいた僕は、門限があったから自分の家に帰ってきた。
「ただいま〜」
「おかえりなさい。友達と遊んでいたの?」
「うん。楽しかったよ」
手洗いうがいをしてからリビングに入ると、お母さんが声を掛けてきた。
「そう、よかったわね。もう晩御飯もできちゃってるから、早く席に着きなさい」
「えっ、もう?」
その言葉を聴いて、僕はびっくりした。いつも晩御飯は夜の7時くらいなのに。
よく見れば、テーブルにはもう
「ええ。今日はちょっと流理に訊きたい事があるの。だから……ね?」
「あ、うん。わ、わかった」
なんだかお母さんの目が怖い。顔は笑ってるのに、目からなんだか凄い力を感じる。
けど、僕は察することができた。多分だけど、長年の勘、ってやつだと思う。
ランドセルをソファに置いて、とことこと兄ちゃんの隣に座る。
「……ってあれ、兄ちゃん?いるの珍しいね」
「……今日は早く食べろと
「きょうはく???」
兄ちゃんはなんだかげっそりとしていた。
それに、対面に座る姉ちゃんもあまり元気が無さそう。といっても無表情だけど。
「さて、じゃあ食べましょうか」
テーブルに並べられていた今日の晩御飯は、白米、豚汁、塩焼き魚、肉じゃが。
コテコテの和食だった。和食はお母さんの得意料理だ。僕も好きだ。
「「いただきます」」
「「……いただきます」」
手を合わせたけど、やっぱり兄ちゃんと姉ちゃんの元気が無いように感じる。
どうしたんだろう??僕は早速、お魚を箸でつつきながら考えた。
「美味しい!!」
「そう、よかったわ」
今日もお母さんは料理は美味しい。
お母さんは僕の言葉に嬉しそうに笑う。けれど、急になんだか真剣な顔になった。
「……さて、今日の会談を始めます」
「早々に悪いが待ってくれ、会談?」
開始の合図……と共に、制止する兄ちゃん。
兄ちゃんにしては珍しく、何も分からなくて頭が真っ白になってる時の顔だ。
まあ兄ちゃんはこれ、初めてだろうからね。ふふん、ここは僕から説明をしてあげよう。
「姉ちゃんが郎亜兄ちゃんの事を好きだから、二人が早く付き合えるための作戦会議だよ」
「そ。毎日、晩御飯の時に
去年のこと。
『郎亜のこと、好き。だから、どうしたら上手くいくか、相談にのってほしい』
突然に告げられた姉ちゃんの言葉で、この作戦会議が毎日開催されることとなった。
……いや、毎日じゃないか。お父さんがいない時だから、一週間に五回だね。
「……それ、来人も参加してるのか?」
「え?うん。もちろん」
「
兄ちゃんが頭を抱えた。
まあ、初めての事で
今でもわかってるとは言い
「一年以上前からずっとやってるわよ。零は勉強で
「……じゃあ、なんで今日は?」
「ほんとは4月には呼ぼうと思ってたけど、完全に忘れちゃってたわね」
「え、そうなの?」
「おいおい……」
なんともない顔をするお母さん。
本来は兄ちゃんも参加するはずだった事を初めて知って、僕はびっくりした。
「……父さんは?知ってるのか、これ」
「……知らないはず。
「いや、その通りだろうけども……!
兄ちゃんの続く質問に、今度は姉ちゃんがちょっと気まずそうにしながら返した。
そして、兄ちゃんが何故か泣きそうな顔になっている。お父さんがどうしたんだろう。
「……ん?あれ。そういえば今日、姉さんの声を初めて聴いた気がする」
今度はきょとんと首を傾げる兄ちゃん。
けど、それにはわけがあるんだ。
「……話すタイミングが無かった。零は郎亜と話してたし、郎亜は話さなくても伝わるし」
姉ちゃんは、とりあえず無表情なんだ。
何もしても、何をされても、その表情が動くことは昔から全くなかった。
笑わないし、泣かないし、びっくりしない。
だから感情がとても読みづらく、僕ら家族でさえ全くわからないほどなんだ。
けど、郎亜兄ちゃんだけは姉ちゃんの思ってることや言いたいことが分かるみたいで。
だから、姉ちゃんは郎亜兄ちゃんの前ではほとんど喋ることはないんだ。
「待ちなさい。前から言ってるけど、郎亜の前でもちゃんと話した方がいいでしょう」
ただ、それはずっと前からの課題。
姉ちゃんは、郎亜兄ちゃんなら分かってくれるからと全く話そうとはしない。
けど、それを母さんは納得していない。
「……伝わるし」
「ダメ。いい?好意っていうのはね、言葉でこそ一番伝わるものなのよ」
……ちなみにだけど、僕は恋愛とかをした事がないからあまり話に入れてない。
毎日参加してはいるけれど、いつも僕は
まあ、見ていて楽しいし。僕まだ恋愛とかまだよくわからないけど、満足はしてる。
そんなこんなで、今日も作戦会議が始まったんだ──。
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