第70話 もうすぐ戦争だもんね
各地に分身を配置しているので、ちょっと整理してみよう。
分身(1)はマギル族で魔石採り。
分身(2)はガゼット領に滞在。
そして本体は王都で情報活動。
つーか、こうしてみると超フル回転だな。
一体くらいのんびり用の分身がいてもイイ気がするけど、ライオネとの戦争が近づいているのもあって仕方なさはある。
魔法のレベルアップ・コストを得たら分身をもう一体増やしてもいいかもしれんね。
さて、それはそうと場所はガゼット領とライオネ領の
同盟締結に成功した分身(1)は言った。
「ケッパーさん。ここに砦を築きましょう」
「い、いきなり砦ですか?」
ケッパーは驚き首をひねる。
「私はてっきり領境に堀をほっていくのだと思っていましたが。アルト殿が以前ダダリでなさっていたように……」
「たしかに、実際の防衛では堀を築いた方が効果的でしょうね。領境を全体的に守れるし、ライオネ自慢の『騎馬隊』からも侵入を防げる」
「だったら……」
「しかし、それをやっている時間はもうありません。ライオネはもういつ攻めてくるのかわからないのですよ」
そうやって脅すと、ケッパーは震えあがった。
「し、しかし砦をひとつ築くのにもそれなりの時間がかかるのでは……」
「ひとつ? いえいえ。砦はひとつではなく10個築きます。時間は……そうですね、1週間ほどあれば大丈夫でしょう」
「は、はあ……??」
ケッパーは混乱している。
よしよし、納得がいくような説明をしてやろう。
「いえ、何もガッツリ砦を10個築くワケではありません。遠くから見て『砦だ』と思わせればいいんですよ」
「砦だと思わせる?」
「そう。ライオネも領境に10個もの砦が見えれば『ガゼット領は防衛のために相当な準備をしてきたに違いない……』と思うでしょう。そうなれば侵攻を思い止まるかもしれない。戦争を回避できればそれが一番イイ。そう思いませんか」
「なるほど……」
「ご安心ください。もしそれでもライオネの侵攻が止まらないのであれば、同盟に従って我々ダダリが傘となりガゼット領をお守りいたします」
「あ、ありがとうございます!」
ケッパーはそう言って何度も礼を言った。
まあ、俺らがガゼット領を守りに行くなんてことにはならねーんだけどな。
だって実際にはライオネはガゼット領を攻めないんだから。
でも、ケッパーは『ライオネがガゼット領を攻める』っていう偽情報を信じているワケだから、これでハリボテの砦10個を作っておけば、そのおかげで戦争を回避できたって思うだろう。
さらに都合がいいのは、ここで10個のハリボテの砦を作ったところで実質のガゼット領の国力は何一つ上がらないということ。
残るのはガゼット領の負債と、俺たちの債権だけ。
「じゃあ、その方向でやらせていただきますよ……」
「は、はい! お願いします!!」
そーいえば彼の
あまりに不自然だけど、まさかケッパーがやったのか?
まあ、臆病者ってのは保身のために親族すら殺すものなのかもしれない。
一方。
分身(2)はマギル族たちの集落そばで魔石採りである。
魔石はライオネ戦でかなり使う予定だからな。
まずはオークたちが根城にしていた廃城を拠点に改装。
それからは魔石の坑道にあたりをつけたり、女族長のおっぱいを揉んだりして過ごしていた。
だが、魔石の掘削が軌道に乗り、マギル族との関係も良好で、さらに分身(1)がガゼット領へ行ってしまったので、分身(2)で領地へ引き返すことにしたのである。
「↓↓TsuraTan……↓↓」
俺がいなくなることを悲しんでくれたのは女族長だけじゃなく、マギル族みんなだった。
最初は
今や彼らは俺のこと好きすぎだし、俺もワイルドかつ信仰深い彼らのことが大好きだ。
女族長はイイ女だし。
「そう泣くな。戦争が終わったらまた帰ってくるから」
俺は女族長の乳に別れを告げると集落を去った。
マギル族たちは俺が遠く離れて見えなくなるところまで熱心に拝んでいたそうな。
「ただいまー!」
分身(2)が領地に帰ると、ちょうど王都から船大工の3人が帰って来たところだった。
「あれ、領主様?」
「けっきょく先に帰ったんスか?」
俺は説明が面倒くさくて「まあな」とだけ答え、さっそく彼らに『造船所(中)』を作るよう命ずる。
中型船を作るためにはまず造船所(中)が必要だからね。
船はライオネとの戦いでは使わないけど、内政系の命令は先を見越して発しておくのがTOL(テリトリー・オヴ・レジェンド)の基本だった。
施設建設の命令は発してもすぐには出来上がらず、ゲーム内時間がかかるものだから。
それからライオネ戦の準備として『魔道具』を作って行きたい。
今のところ持ち帰って来れた魔石は47個。
さらに大工に改装させていた魔法研究所(中)が『魔法研究所(上)』へと進化したので、作れる魔道具の種類が増えていた。
・MPリング……戦闘などで消費した魔力を少し回復させるリング
・火炎の石板……火炎の呪文が掘り込まれた魔石の石板
・疾風の石板(New!)……風の呪文が掘り込まれた魔石の石板
これらの魔道具を作るにはジョブ『魔道具師』の力が必要だ。
「たしかヨルを魔道具師にしてたよな……」
そうつぶやいた時。
ちょうどヨルとラムがガゼット領から帰って来た。
「おお、おかえり」
「あれ、兄さん。分身?」
ヨルは俺に分身があることを理解している。
「ああ。それはそうとヨル。疲れてるとこ悪いんだけど、さっそく魔道具作成にかかってくれるか? 魔石持ってきたからさ」
「わかった。もうすぐ戦争だもんね」
「悪いな。魔道具師もあとちょっとで二人ほど増やせるから」
魔道具師に進化させるには魔道師レベル16が条件だ。
他に条件を満たしているヤツがいないから、とりあえずヨルに製作を任せる。
レベル15の魔道師が二人いるので彼らのレベルが上がったらすぐに魔道具師に進化させるつもりだ。
「ラムもよく頑張ったな。剣舞カッコよかったぞ」
「えへへー」
頭をなでてやるとラムは嬉しそうに微笑んで言った。
「言ったでしょ? 兄ちゃんのこと殺そうとするヤツは全部殺しちゃうって」
「ははは、頼もしいな」
俺はラムの子供っぽい冗談に少し笑って返すと、さらなるライオネ戦対策のために土木工事の命令を出しに行くのだった。
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