第68話 船大工


 キングオーク戦の後。


 俺(本体)は、こうして王都での情報収集にいそしんでいたってワケ。


 冒険者のジレンから俺がガイル侯爵の不興を買っていることは聞いていたし、他にもいろいろと調べたいことがあったからな。


 昨日の夜はちょっとヤバかったけどね(汗)


 チュンチュン……


「ん、朝か……」


 目を覚ましてベッドから身を起こすと、セーラー服を着た娘の方が玄関の方で靴を履いているのが見えた。


「いってらっしゃい。鍵はもった? お母さん、夕方に町内会の寄合があるのよ」


「持ったわ。だいじょうぶよ」


 こんなふうに娘は平民学校へ登校していった。


 そうそう。


 そう言えば今回はこうしてオーガに襲われた時に馬車で助けた母娘おやこの家を拠点としていたんだ。


 以前はやむをえず宿に泊まったけど、もし俺の顔と身分を知っているヤツに冒険者用の宿に泊まっているところを見られたらちょっと問題になる。


 仮にも領主がそんな宿に泊まるなんて……みたいな。


 だから、こうして懇意の民家に泊まっていた方が安心ってワケ。


 昨日みたいにいざって時に味方もしてくれるしね。


「あら、おはよ。坊や」


 娘を見送った母は、俺が起き上がっていることに気付くとすぐに朝ごはんの準備にかかってくれた。


 パンにハムとチーズ、それからスープ。


 フツーだけど三食ちゃんとした家のご飯を食べられるのはありがてーことだ。


「今日もおでかけかしら?」


「うん。でも昼からだよ」


 そう答えながら朝食を食い終わると、彼女はそうと命じる前にエプロンをほどき始める。


 流しで口をゆすいで戻ってくると、長い髪が高くまとめ上げられているところだったので、俺はその露出したうなじと首筋のきわへ軽く口づけした。


「うふふ、くすぐったいわ」


 そう言うのに返事もしないで、俺は後ろから彼女の薄手のニットを脱がせていく。


 かすかな静電気。


 ……シャンプーの香りが立つ裸の肩。


 30才の女の裸は、背中の中央のハッキリしたみぞが腰へさしかかるところでわずかに肉の段を作り、その脂肪とギリギリの若さを残した肌が絶妙なふくよかさをかもしている。


「背中美人だよね」


「嫌だわ。若い頃はもっと細かったのに……」


「そう? でも俺が好きだって言うんだからよくね?」


「そ……そうね♡」


 普段は所作しょさに品のある中流階級の30才の女性が16才(俺)の若い肉体にいいようにされてマジになっていく様はひどくブザマで好ましい。


 午前中のけだるい光が背徳感を演出してベッドは激しくきしんだ。


 あ……そう言えば、この俺は”本体”だから子供ができてしまうんだよな。


 もし母娘おやこのどちらかに子供ができたら、領地に呼んで正式に嫁にすべきだろうか?


 と、いうような話を後から寝物語でそれとなくしてはみたのだけれど……


 これについては彼女あまり乗り気ではない様子だった。


 一言で言うと、できれば王都を離れたくないんだってさ。


 まあ、都会ってのは『町内』っていう狭い範囲の田舎でOlyOlyOh!ってしてるもんで、例えば三代東京育ちの江戸っ子は箱根より向こうには鬼が住むと思っているくらい地元志向だったりする。


 ずっと都会で暮らして来たこの母娘おやこにとって、ダダリなんてはるか遠くへ引っ越すのはかなりツライことなんだろう。


「まあ、王都暮らしもいいさ。いい街だしな」


「……ごめんなさい」


「でも、子供ができても貧乏しないように生活の面倒はみるから。まだ元気な赤ちゃん産めそうだもんね」


 そう言ってムチっとした尻をなでてやると、母は恥ずかしそうに太ももをモジモジさせていた。



 ◇



 三千世界の鴉を殺した後。


 俺は昼下がりの時分に再びベッドから起き、服を着ると街へでかけた。


 平民の住宅地域から大通りへ。


 さらに行って商店街へと向かう。


 ちなみに、こういう商店街っていうのは田舎の領地にはなかなかない。


 ダダリもそうだけど地方では時おりいちが開かれてその時に旅の商人がいろいろなモノを売るって形が多い。


 つまり、こーゆう常設の店が立ち並ぶってのは発展の証。


 ウチの領地にも作りてーなあって思うワケだけど、これからその布石を打っておこうと思う。


 俺は商店街の中で酒屋を見つけると、箱入りのウィスキーをひとつ買った。


 いや、別に自分で飲むもんじゃないよ。


 プレゼントさ。


 俺はそのまま王都の造船所へと向かった。


「おじゃましまーす!」


「おお、ダダリの領主様じゃあねえか」


 そう。


 酒は造船所の棟梁へのプレゼント。


 というのも、ここに預けていた領民三人の修業が今日で終わりだったからだ。


「領主様!」


「迎えに来てくれたんですね!!」


 と駆け寄ってくる三人を見ると、たしかにジョブ『船大工』が解放されている!


 三人の船大工がいれば中型船を国産することができるはずだ。


「お、こりゃイイ酒だ。さすが領主様はわかってやがんなあ!」


 棟梁はプレゼントを気に入ったらしい。


 ちなみに、酒を買って造船所の棟梁の好感度♥♥♥を上げるイベントってのは原作ゲームでもあったんだよね。


 なぜ棟梁の好感度♥♥♥なんてもんを上げておきたいかっていうと、作れる船の規模を大きくするには船大工の人数を増やす必要があるからである。


 例えば、中型船を作るのには3名、大型船を作るのには最低7名の船大工が必要だ。


 つまりこの棟梁にまた領民を預けて修業させなきゃいけないんだが、好感度が低いと受け入れを渋ってきたり、一度にひとりしか受け入れてくれなくなったりするってワケ。


 まあ、この棟梁から同じようなことをされるとは思わねーけど、お礼のプレゼントくらい気持ちよく送ってやって損はあるまい。


「なにはともあれ、卒業おめでとな」


 そう祝うと、俺は財布からまとまったカネを出して三人の船大工へくれてやった。


「これで王都見物でもしてからダダリへ帰るといい」


「うっひょー!」


「ありがてえ!!」


「領主様はどうするんスか?」


「ああ。俺はまだ一週間くらいは王都にいるからな。気が済んだら先に帰っていてくれ」


 そう命じると、棟梁に「今後ともくれぐれもよろしく」とあいさつして造船所を去った。

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