第59話 キング・オーク
1000匹以上いた廃城のオークも残り50匹ほど。
この50匹はオーク・メイジという上位種で、毛並みが紫色をしていて体格も一回り大きかった。
しかし、それでもしょせんオークはオーク。
どれだけ力が強くタフだろうと、頭が悪いのは変わらない。
こちらが集団戦法を取るのに対して、敵は個々が魔の獰猛な本能のままに襲いかかってくるだけだしね。
結局、すぐに上位種のオーク・メイジ50も殲滅してしまった。
「やったー! 勝ったぞー!」
「バンザーイ!!」
仲間たちは喝采をあげる。
が、その時だ。
グオオオオ……!!
ふいに身のすくむような魔獣の声が地の底から響き渡った。
俺たちがおののき固唾を呑んでいると、次はショベルカーのような轟音で廃城の石壁が崩れ、土煙をあげながら側面にぽっかりと大きな穴があく。
その石壁に開いた大穴からのそりと一体の魔物が顔をのぞかせた。
ずしーん……
マジでどうしようもなくクソデカい。
キング・オークだ。
名前の通りオークの最上位種、オークの王。
ゴルルルル……ゴアアア!!!
もちろん頭が悪く、獰猛で、本能のままに動くというのは通常個体と同じなのだが、とにかくやべーサイズを誇り、高さで言えば3~4階だての家ほどはある。
「な……なんだアレは???」
「勝てるワケねえ。あんなデカイの……」
「ひ、ひイイイ……!!」
領民兵たちはブルっていた。
無理もないか。
「チッ……みんな一旦下がれ!!」
俺はみんなにいったん距離を取るように命じる。
「若ッ、退却でやんすか?」
「いや、退却はしない」
「しない……?」
「ああ。アイツを残したままだと、またオークが増えるからな」
そう。
キング・オークはオーク族の頂点であり、一匹でオークを何体も産みだすことができる。
この周辺で原作とは駆け離れてこんなに多くのオークがのさばっていたのは100%コイツのせいだ。
「つまりキング・オークを放置すれば今日の戦果がマジで意味なくなるんだよ。マギル族たちもまたオークに襲われるようになる」
「じゃあどうすりゃいいでやんす??」
「……とっとと倒しちまうしかないってことさ」
とは言え、キング・オークは中上位帯プレイヤーの魔領地にしかいない強キャラだ。
対して今の俺の領地はまだまだ初中級帯レベル。
数こそ相手は1匹でこちらは100とは言え、剣や槍などの接近戦で攻めさせればかなりの被害を被るだろう。
そこで敵から距離を取り、弓と魔法だけで攻撃をかけようってワケ。
「撃て! 撃て!」
マトがデカいだけあって矢も魔法も9割以上命中していた。
さすがにダメージは入っているはずだ。
……グオオオオオ!
だが敵はタフさと巨体をいいことに戦車のような突破力で突っ込んでくる。
なるほど。
遠距離攻撃は有効なようだが、これでは射撃の
接近戦に持ち込まれたらヤバイ。
圧倒的なサイズで自軍は蹂躙されてしまうだろう。
「リッキー、ここは任せた……」
「若ッ? 何を!?」
リッキーの悲鳴を無視し、俺は単騎で敵の方へ走っていった。
敵の巨体に圧倒されて超怖いので叫びながら夢中で突っ込んでいく。
「うおおおお!」
あっ、これじゃもしかしたらヤケになったように見えるかもしれんね。
でも、そうじゃない。
「おら! こっちだ!!」
ガオオオ!……
到達するとキングオークの攻撃が真上から降り注ぐ。
が、それはすべて空を切り、俺には当たらなかった。
……ガオ? ガオ?
そう。
こっちには『
どんなに大きな拳であろうと、巨足であろうと、(敵が一体なら)オートで攻撃を
「今でやんす! 撃つでやんすよー!!」
リッキーがそう叫ぶと、魔法使いや弓士が遠距離攻撃を再開した。
いいぞ。
当たってる当たってる。
「オラ、よそ見してんじゃねー! 豚ヤローが!」
それで俺はこうしてキング・オークを挑発し、注意をこちらに向けさせておくってワケだ。
ヒュン、ヒュン、ヒュン……! ……ごおおおお!!!
すべての矢と魔法がキングオークに注ぎ続ける。
敵は怒りで俺の方しか見えていない様子で、遠距離攻撃は喰らいっぱなし。
頭が悪いところはやっぱり普通のオークと変わらないらしい。
「くッ、マジでタフな野郎だな……」
それでもなかなか倒れないのはさすがキング。
マジでHPいくらだよ?
ちなみに俺としては敵一体の攻撃を避けるのは技能で自動的にされるからいいんだけど、仲間の矢や魔法が流れてくるとソレは喰らってしまう。
そのダメージは仕方ないので、喰らいながらキング・オークの前に立ち続ける。
「はーはーはー……」
時おり矢が刺さり炎に軽く焼かれながらも囮役を続けていると、ようやくキングオークの動きが鈍ってきた。
HPが削れてきた証拠だ。
TOL(テリトリー・オヴ・レジェンド)のシステム上、HPが削れていくと全体のステータス値も下がっていく。
対して、俺は『痛覚耐性』の技能を持っているので、ダメージを受けても動きが鈍ることはない。
こうなれば勝負は決したも同然。
やがて、キング・オークはついにその場に膝をついた。
ガルルル……ぶ、ぶひー……
「やれやれ、手こずったぜ」
あと一撃ってとこか。
これだけ全力で戦うと敵に対しても情がわいてくるというものだが、仕方ない。
俺は鋼鉄の剣を抜き、振りかぶった。
「なかなかやるな、転生者よ……」
が、その時だ。
ふいに背後からおそろしい声がして、俺は反射的にその場から飛び退いた。
聞き覚えのある声。
剣をかまえたまま声の主を確認すると……やっぱりそうだ。
「ククク、どうしたオマエ? ずいぶん怯えるじゃないか」
そこには広いマントに額当ての男……
王都で遭遇した『勇者』が腕を組んでいたのである。
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