第58話 オークの拠点
ガサ、ガサガサ……
俺は領地から呼び寄せた103人の戦力を連れ、月夜の森を進軍する。
「アソコネ。オークに奪ワレタ集落ハ」
案内役に連れてきたマギル族の爺さんがそう言って指をさす。
見やると、窪地が平くなっている住みよさそうな土地があり、瓦礫の中で50匹ほどの獰猛なオークたちがたむろしていた。
前までそこにマギル族の集落があったのだろう。
「なるほど。サンキュな」
俺は爺さんに下がっているように言うと、隊のみんなに『攻撃!』の合図として右手を振る。
ヒュンヒュンヒュン……!
……ごおおおおオオ!!
突如、オークの群へ矢が振り、魔法が襲った。
先制攻撃で敵全体にダメージを与えたのちに、前衛部隊が突撃する。
剣、槍、拳。
領民たちの攻撃は弱ったオーク50匹をほとんど一撃で倒し、すぐに殲滅させてしまった。
「やったー! 勝ったぞ!!」
「やりましたね、領主!」
圧倒的な勝利に領民たちは喜ぶが……俺たちの戦いは始まったばかりだ。
爺さんの話によると奪われたマギル族の集落は三つ。
とりあえずこれを取り戻すところからだな。
次の日。
二つ目の旧集落には100匹のオークがたむろしていたが、これも同様の作戦で倒してしまう。
こちらの被害はゼロ。
数が同等でもオークくらいならば鍛えられた俺の隊の敵ではないのである。
「h%j~! オマエら、スゴイネ! 死ンダ仲間タチ、キット喜ンデルヨ!」
この連勝にマギル族の爺さんは歓喜するが、俺は三つ目の集落の付近で行軍を止めて隊を森にひそませた。
「若? どうしたでやんす?」
「リッキー、ちょっと斥候に出てくれないか?」
ここで俺は忍者のリッキーに敵情を調べて来るように命じる。
「気になることがあるでやんす?」
「うん……ちょっとな」
そう。
そもそも、原作ではマギル族が集落を落とされたりはしていなかったんだよ。
オークたちはもっと数が少なくて、その向こうにある廃城を拠点にたむろしていたはずだ。
マギル族とオークとの戦いについては”力が拮抗しているところに加勢する”って展開だったから初心者デッキでもクリアできるクエストだった。
だが、こうも勢力を伸ばしているってことは廃城のオークたちもゲームの通りじゃあない可能性がある。
「若、見てまいりましたでやんす」
「おお。どうだった?」
リッキーの斥候によると、廃城のオークはおおよそ1000匹。
マジか……想像以上の数だ。
「それから普通のオークとは毛や目の色が違うヤツらがおりましたでやんすよ」
「なんだと!? どんなだ?」
「紫の毛並みの個体が50匹ほど。あと一匹だけでやんすが、黄色の毛に赤い目の個体が……」
50匹の方はオーク・メイジ。
そして、1匹はキング・オークである。
……おかしい。
キング・オークなんてのは魔境には登場しないはず。
プレイヤー領の所属国として魔王の国『ハデス』が選択された場合に、上級ジョブとして形態進化する魔物であった。
つまり、オンライン上の対人戦でしか登場しないはずなのである。
「……いずれにせよ。ここまでオークが勢力を伸ばしているのは何らかの原因でキング・オークが生まれてしまったからだろうな」
「オイ、ドーシタ? 攻メナイノカ? 帰ルか?」
俺が悩んでいると、マギル族の爺さんが不安そうに尋ねてくる。
なんとなくヤバそうなのが伝わっちゃったのだろうか。
でも……
「帰るワケねーだろ。女族長たちも待ってるしな」
「ソ、ソーカ……」
だが、敵は数が多く、俺らの十倍いる。
これを倒すには、三つ目の旧集落を取り戻すところから工夫がいりそうだ。
「よし、そういうワケで作戦どうり頼むぜ!」
おおおおおお……!
俺は隊のみんなに作戦を伝え、まずは最後の旧集落を取り戻す戦いから始めた。
この旧集落にも敵のオークは100程度。
これなら今まで通りの戦い方で倒すことができるが……
「よし、攻撃ヤメ! 逃がせ逃がせ!」
敵は残り20匹ほどになると勝ち目がないと悟り逃げていく。
ドドドドド……(汗)
これをあえて逃がし、こちらは俺が50名を連れて(敵に追いつかないように)追っていくのだ。
残りの兵50はと言うと、25、25に分かれて左右の森に待機している。
伏兵ってヤツだな。
「待て~!!」
と言いつつ逃げるオークたちを追いかける本隊50。
やがてオークたちは寝床の廃城へ駆け込んでいった。
ガルルルル……!!
すると、逃げたオークの数の百倍の敵が、廃城から出撃してくるのである。
「負けるな! イケ―!!」
今の俺たちにとってはオークなど弱いモンスターではあるが、さすがに敵が多すぎだ。
こちらは隊の半分しか連れていないのもあり、徐々に圧されてくる。
ガルッ、ガルッ、ガルッ(笑)……
あっ、さっき逃げたオークらが”ザマぁ”って顔で笑ってやがる。
「くそ。退却だ! 退け、退け!」
が、腹立つのを抑えて俺たち50は退却した。
すると、今度はオークたちがこちらを追いかけてくる。
ドドドドド……(怒)
逃がさじと土埃を立てて追い立ててくるオーク軍。
しかし、俺たちはそこで急に止まり、振り返って再び戦闘態勢に入る。
「反撃だ!」
敵は不思議にも思わずそのままこちらに突っ込んでくるが……
おおおおおお……!!
そこで左右の森から伏兵の25、25が敵オークの横からはさみ撃ちにする。
つまり、下図のように三方から挟撃の状態になったのだ。
――――――――――――
25 オーク 25
50
――――――――――――
目算で敵オークは300~400出てきていたが、こう囲まれてしまっては総崩れ。
ふふふ……つーか俺、頭よくね?
「スゲー! さすがオレたちの領主だぜ!」
「カッコイイ!!」
まあ、前世の”釣り野伏せ”って作戦のパクリなんだけどな。
ここは異世界なので(やむを得ず)俺が考えたってことにしてしまおう。
「よし、攻撃ヤメ! 逃がせ逃がせ!」
さて、また敵が20ほどになると、再びそいつらを逃がす。
この逃げる連中をまた50で追い、伏兵を残して、廃城から大群のオークが出てくるとしばらくして逃げ、伏兵のところまでおびき寄せてはさみ撃ち……と繰り返していくのだった。
オークたちは頭がよくねーからな。
無限ループだった。
そして、三回くらい釣り野伏せを繰り返すと、最初は1000いた廃城のオーク数も枯渇してきたらしく、残りだいたい50くらいになった。
が、この50は紫の毛並みのオーク・メイジ。
そして、1匹はオークとしても異様に身体のデカいオーク・キングであった。
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