第13話 オーガ
魔物があらわれたということで馬車の乗客は震えあがっていた。
商人風のおっさんは自分の荷物で頭を隠し、
「お客様の中に冒険者様はいらっしゃいませんか! お客様の中に……」
馬車の
「我々三人は冒険者だ」
「おお! 本当ですか?」
場にホッと安堵の空気が差し込み、商人は頭を出し、
「しかし敵はオーガ。我々では時間稼ぎしかできないだろう」
「近くの砦から応援を呼んできてほしい」
一方、冒険者たちは魔物のいる方へ飛び出し、巨大なモンスターの前に立ちはだかった。
ゴアアアアア……!
赤い肌をした3メートルの巨体が吼える。
「無理をせず時間を稼げ。乗客の命が最優先だ」
「「おう!」」
なかなか正義感のある冒険者たちだ。
俺は感心して見ていたが、しかし敵が悪かったらしい。
オーガの肉体は彼らの剣も矢も通らず、逆にその超常的なサイズから繰り出される打撃は一発でも彼らに致命傷に近いダメージを与えるようだった。
「うわああ!」
「くそ……これほど差があるとは」
時間を稼ぐつもりだったらしいが、一人、二人、三人と倒れて行ってしまう。
「やれやれ、あまり目立つことはしたくなかったんだがな」
俺はそうつぶやくと、馬車から飛び降りる。
「お、おい! 坊主。よせ」
「無茶よ!」
乗客たちにそう止められるが、俺は亜空間から銅の剣を出して走っていった。
ゴアアア! ゴアアアア!
オーガは冒険者たちにとどめを刺そうとしていたが、俺の殺気を感じてかこちらを振り向き、拳を振り上げた。
人間の頭ほどあるその拳は、しかし、突っ込んでいく俺の頭上をかすめる。
がら空きになったその巨体の腹へ、俺は思い切り銅の剣をぶち込んだ。
悶絶するオーガ。
もう一発だ。
俺は返す剣で、ヤツの肩を打つ。
ボキ……
「え!?」
しかし、そこで銅の剣が折れてしまった。
オーガは黒目のない目でニヤリと笑い、俺の顎へ平手打ちを放つ。
「うわッ!」
クリティカル。
俺はダメージを受けながら、馬車の車両の方まで吹っ飛ばされてしまった。
「きゃー!」
「お、おい。しっかりしろ!」
「あ、すいません。だいじょうぶです」
「だいじょうぶって、アンタ……」
技能『痛覚耐性』があるので痛みもなく、むくりと立ち上がる俺。
・HP:183/227
クリティカルだったから思ったより減っているな。
でも、数発喰らっても問題なさそうだ。
問題は攻撃の方だな。
銅の剣は折れてしまっている。
どうしよう?
そう頭を悩ませていると、倒れている冒険者たちの元に転がる、銀色の剣が目に入った。
あれは鋼鉄の剣?
「悪いけど、これ貸してくれ」
俺は倒れている冒険者のところへ行ってそう頼み込む。
「つ、使ってくれ。すまない……」
冒険者はそう言って気を失った。
ゴアアアア!
そうこうしていると、敵は俺への警戒を解いていよいよ馬車を襲おうと歩を進めていた。
「させるか!」
しかし、
俺は駆けて行って飛び上がった。
そして、オーガのうなじへ鋼鉄の剣を突き立てる!
「うおおおお!」
ゴアアアア! ゴアアアア……
クリティカル。
モンスターはその巨体をゆっくりと倒し、ずしん……と地に伏した。
ちなみに、この戦闘で俺のステータスが上がるとか、経験値のようなものが得られるとかいったことは、やはりなかった。
TOLでは俺がどれだけ個人戦をやっても、俺個人の強さも変わらない。
領主の能力値は、あくまで領地の増強によって伸びるのだからね。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
さて、魔物が倒れたのを見ると、乗客たちは馬車から降りてバンザイバンザイと俺を取り囲んだ。
「助かったよ。すげえな、アンタ」
「すごいね!」
「素敵♡」
なんか照れるな。
「あ、そうだ」
俺はハッと思い出すと、倒れている冒険者の方へ行く。
そして、亜空間から魔道具『癒しの杖』を取り出すと彼らの回復をしてやった。
「すまない。回復まで……」
「しかしキミのおかげで助かったよ」
「そう思ってくれるなら、あんたたちに頼みがあるんだけど」
回復した彼らにそんなふうに持ちかける。
「頼み?」
「ああ。このオーガを倒したのはアンタたちってことにしてくれないか?」
と言うのも、俺はカネの節約のために庶民用の馬車に乗っていたワケだけど、本来これはおおっぴらにしない方がいいことである。
俺がオーガを倒したってことになると、そこらへん公にバレちまうからな。
冒険者たちは固辞したが、俺が重ねて頼みこむと、やがて折れてくれた。
その代わりと言ってはなんだけど『鋼鉄の剣』を手に入れたよ。
◇
オーガが倒れたのち、砦の兵が到着して現場検証を始めた。
そのせいもあって馬車の出発はさらに遅れ、王都についたのは夜遅くのことであった。
困ったなあ。
こんな時間じゃ城の門はもう閉じているだろうし、空いている宿もあるかわからない。
どこに泊まろう……
「坊や。よかったらうちに泊まったらどう?」
そう言ってくれたのは乗客の
彼女らは王都に住んでいるらしい。
「あんなに必死に助けてくれたのだもの。遠慮はいらないわ」
そりゃ助かる。
ということでお宅にお邪魔すると母の方は料理を始めて、俺は娘の方としゃべっていた。
「そう言えば、この家のオヤジさんは?」
「お父さんはいないの。死んじゃったのよ」
「そう……」
娘は俺より2歳下の14歳であったが境遇が似ているので次第に心開かれていくと、母がせっせと料理を運んで来た。
この小さな家を見るに彼女らの生活は決して楽ではなさそうだが、ここは王都。
さすがに食材がバラエティに富んでいる。
「うふふ、たくさん食べてね」
明日は城だな。
そんなことを考えながらも俺は
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