第11話 戦争なんてめんどうくせえなあ


 王国は他国と戦争をすることがある。


 すると領主は兵を連れて王都へはせ参じなければならない。


 とは言え、これまでウチは『戦える者』などオヤジくらいしかおらず、領主一兵で戦争に加わってきた。


 それは「一領地で領主一兵のみとは情けないことだ」と他領主からバカにされる最大の原因でもあったが、オヤジのみが戦いに出ていたぶん領民たちがのんびり暮らすことができたのも確かである。


 そして今。


 幸い、魔境攻略のために育てた戦闘領民はまだ周知されていない。


 今回も俺一人が代表で行けば問題ないだろう。


「……でも、戦争なんてめんどうくせえなあ」


「そんなふうに言うもんじゃないよ」


 と、おふくろ。


「誇り高いことさ。お父ちゃんだって立派にお務めを果たして来たんだよ?」


「チッ、わかったよ……」


 というワケで俺はしばらく領地を離れることになるが、その前に内政をこなしておこう。


 ボスを倒した時にレベルが上がったのと、新ジョブが解放されたのと合わせて、以下のように編成する。


【物理系】

狩人3名、剣士30名、武道家14名、盗賊10名、忍者2名(New!)、やり使い2名(New!)、怪力5名、弓士7名、解体屋2名(New!)


【魔法系】

薬師15名、占い師25名、霊媒師10名、魔道士22名(New!)、神官3名(New!)


【モノづくり系】

クラフター51名、大工45名、土木技師40名、石工3、木工3、焼き物師3、毛皮職人2(New!)、綿糸工3(New!)


【商業系】

商人10名


【農業系】

農民116名、種家4名(New!)



 なかなか育ってきたな。


 ジョブ進化できる者はさせて、毛皮職人などの新ジョブも割り振っておいた。


 そして、魔道士や神官に進化した者があらわれたので、施設『魔法研究所』と『ほこら』を建てることができる。


「ええと、どこに建てようか」


 俺は地図に☆印をつけてほこらの建設予定地とし、★印をつけて魔法研究所の建設予定地とした。


――――――――――――――

◎◎☆林川林林林林林林林林

◎◎■■川★林林林林林林林

林△■■川◇◇林林

林△△■川◇◇林林

林△△■川✕✕✕✕

――――――――――――――

 ◎……領主のやかた

 ■……ジャガイモ畑

 △……領民たちの家屋

 ◇……訓練所

 ✕……荒地



 地図の右上の方が出っ張っているのは、魔境で獲得した領土である。


 よし、これだけの内政をやっておけば俺が領地を離れている間にも領民たちのジョブレベルもあがり、施設も建設されていくだろう。


 というわけで翌日。


「じゃあ行ってくるよ」


 俺は荷物をまとめて、家のみんなにしばしの別れを告げる。


「せっかく結婚できたのに寂しいなあ……」


「無事で帰ってこないと承知しないんだからね!」


 リリアとノンナは、昨日の夜まためちゃめちゃ可愛がっておいたというのにやはり涙ぐんでいた。


「兄ちゃんカッコいい!」


「お土産お願いねー!」


 ヨルとラムはそんな感じだ。


「おふくろも、身体大事にな」


「あたしのことなんざ心配いらないよ。それより……お父ちゃんにもちゃんと報告して行くんだよ」


「わかってるって。じゃあな」


 こうして家の者たちと別れた。


 その後すぐ。


 俺はおふくろの言いつけどおり、裏の墓場に立ち寄る。


 先祖代々せんぞだいだいの石の墓。


 父トルティの墓もそのひとつだ。


「オヤジ、見てろよ。俺がこのダダリ領を強くする。誰にもバカにされないような強い領地に……」


 墓石はもちろん黙っている。


 そう言えばこの世界では、死者はどうなるのだろうか?


 なーんてことを考えても人間にはわかりっこないのは、前世と同じだよな。


「じゃ、行ってくるぜ」


 俺はきびすを返し、王都へ旅立った。



 ◇



 王都ははるか西。


 俺はとなりのライオネ領を通過すると、いくつもの領地を越え、西へ西へと歩いていった。


 やがて1日半ほどで行くと立派な関所が見えて来る。


 時刻は日暮れ。


 この関所の向こうはもう王の直轄領だ。


 先を急ごう。


「またれよ! 貴様何者だ!」


 さて、関所に着くと衛兵にそう尋問される。


 俺は自分がダダリの新領主であること、そして王の召集に馳せ参じるところであることを説明する。


「ウソをつけ! 召集の早馬がこの関所を通過したのは一昨日のこと。見るところ馬もなく徒歩ようだが、計算が合わぬではないか!」


 うっ……


 そう言えば先のレベルアップで特殊技能『移動速度2倍』がついていたのだった。


 ゲームだとなかなか便利な技能だけど、現実で通常3日かかる道を1日半で来てしまっては不審に思われるのも当然か。


「あやしいやつめ。それ、引っ捕らえろ!」


「待ちなさい!」


 俺が関所の兵たちに捕らえられそうになったところを止めたのは、一喝の勇ましい女の声であった。


「ナ、ナディアさま……!」


「王国ナイトがどうしてここに!?」


 衛兵たちがかしこまる先には、全身鎧の騎士の姿があった。


 顔から爪先まで刃のような金属で覆われているが、腰や乳房の形に沿った装甲によって女騎士であることがわかる。


「そちらの殿方は領主とおっしゃっているのだ。証文を確認すれば事足りることではないか?」


「はッ、たしかに……おっしゃるとおりで」


 という話なので、俺はダダリ領主のあかしである証文を取りだし、衛兵に見せてやった。


「やや! この証文はまさしく本物……たいへん失礼いたしました!」


 俺はホッとして証文をしまう。


 そこで女騎士が言った。


「本日はもう日暮れだ。領主殿には関所にお泊まりいただこう」


「かしこまりました」


 衛兵が返事をすると、俺は関所の寝所へ案内されたのだった。



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