第2章 戦争に駆り出されます

第10話 魔法


 次の日。


 俺はヘトヘトで、昼になってようやく起き出した。


 仕方あるまい。


 15歳の花嫁と16歳の花嫁を交互に相手にした初夜は人の2倍以上の運動量を要し、まだ肌寒さの残る初春だというのに深夜まで汗だくの様相を呈したのであるから。


「チッ、先が思いやられるぜ……」


 頭をガシガシとかき、ベッドから身を起こして窓から庭を見下ろす。


 すると花嫁たちはすでに起き出しており、弟たちや遊びに来た村の子らと警泥ケイドロみたいな遊びにキャッキャと駆け回っていた。


 のんきなもんだ。


「あ、アーノルドさまだ」


「兄ちゃん。おはよー!」


 庭へ出ていくとみんなにそう声をかけられる。


「うふふ、ちっとも早くないよね」


「アーノルド、あんたも混ざりなさい!」


 ハンナとリリアもそう言って近寄って来た。


「悪いけど用があるんだ」


「なによ……早く帰ってきなさいよね!」


「新婚なんだからラブラブしよ?」


「へいへい」


 俺は背中向きで手を振ると、ひとりで人気ひとけのない荒地あれちの方へ向かった。


 そう。


 嫁が二人できたので、俺は魔法が二つ使えるようになったのだ。


―――――――――

領主レベル:3

称号:転生領主

HP:227

MP:83

ちから:127

まもり:111

魔法:亜空間F(New!)、ほのおF(New!)▽

特殊技能:ステータス見、痛覚耐性、移動速度2倍

授与可能ジョブ:▽

―――――――――


 で、魔法が使えるとなれば試してみたくなるというのが、異世界転生者の人情というものであろう。


「こおおおお……」


 俺は風の吹く岩場で構えを取り、魔力をためる。


「……闇の炎に抱かれて消えろ!」


 そう叫んで火魔法『ほのお』を放った。


 すると手からゴルフボールくらいの火の玉が放たれる。


 ひゅるるるる……ジュっ!


 火の玉は岩へ当たって表面を少し焦がした。


 しょ、しょぼ……


 Fランクの魔法は確かにスライムすら一発で倒せないものだったけど、実際に見るとこんなに弱いんだな。


 それから亜空間。


 ゲームでは『もちもの』欄が増える魔法なのだけれど、現実(?)で使ってみると、どらゑもんのポッケとか、アイテムボックスとか、そんなふうな能力によく似ているようだ。


 自分だけの亜空間を作り出し、アイテムを収納。


 いつでも引き出せるというワケ。


 ただし、こちらもFランクなので、収納できるアイテムの量は手さげカバンくらいの容量しかない。


 これら『ほのお』の威力や『亜空間』の容量を増やすには、魔法のランクをFからEへ、EからDへとアップさせていかなければならなかった。


 で、プレイヤーである領主の魔法のランクは、その領土の広さに応じて上げることができる。


 ステータスで魔法の詳細を見ると、


―――――――――

【魔法】

消費可能コスト600/600

・ほのおF(0%)

・亜空間F(0%)

―――――――――


 とある。


 現状、ダダリの領地は最初の450コマと新たに獲得した150コマを合わせて、600コマだ。


 だから消費可能コストは600。


 このコストを費やして100%まで上げれば魔法ランクがひとつあがり、性能が伸びるのであった。


 さっそくコストを消費して魔法ランクを上げてみよう。


 まず、亜空間にコスト100を投入だ。


・亜空間F(50%)


 すると、その半分まで%が伸びたので、もう100投入する。


・亜空間E(0%)


 よし、Eランクになった。


 ためしにそこらに転がっている石を収納してみる。


 すると、今度は大きな段ボール箱くらいの量を込めることができた。


 続いて、『ほのお』も200コストを費やし、Eランクに上げてから放ってみる。


「闇の炎に……(略)」


 すると、こちらは火の杖で起こる炎くらいの魔法が放たれた。


 うん。


 魔法ランクを上げれば、ちゃんと効力も上がってくれるようだな。


 残りのコストは200。


 ならばどちらか一つの魔法をもう1ランク上げられるように思われるかもしれないが、魔法の成長は上位ランクへ行けば行くほど多くのコストが必要になる。


―――――――――

【魔法】

消費可能コスト0/600

・ほのおE(0%)

・亜空間E(50%)

―――――――――


 最終的にはこんな感じになった。


 さて、ここでTOLにおける領主(プレイヤーキャラ)の魔法についてまとめてみよう。



1、魔法は、嫁一人につき一つ覚えることができる。


2、嫁は『領地のあらゆる成長ファクター』のたびに低確率抽選されており、内部でフラグが立ったら増える。


3、MPは、魔法系ジョブの領民の総MPによって伸びる。


4、魔法の効力はF~SSSまでランクがある。


5、領土を広げると魔法ランクの成長コストを得る。



 この世界でも2以外はTOLのシステムを踏襲しているのが確認できている。


 いや、もしかしたら2も……


「あ、アーノルド!」


「おかえりなさい」


 家に帰ると、リリアとハンナが左右から寄り添って迎えてくれた。


「あ……ああ」


 そのぬくもりを感じると少し寂しくなる。


 だって、もしかしたらこの世界の何らかのシステムで低確率抽選が行われ、その反映で二人と結婚する運命が決まったのかもしれないのだ。


 もしそうだったとしたら、この世界で人間の『意志』とはなんなんだろう?


「あれ? 元気がないわね?」


「なにかあったの?」


「いや、別に……」


 でも、そんなことを考えても仕方ない。


 そんなこと、誰も明らかにすることはできないのだから。


「なんでもないよ。それより二人とも……今夜も寝かせねえぜ」


 俺がそう宣言すると、少女たちは頬を赤らめて嬉しそうに尻をよじっていた。


 いずれにせよ、領地が成長すれば俺の魔法も成長する。


 結婚の騒動で『暴れトロル』を倒した戦果を領地に反映させてないから、明日からまた内政だな。


 なんて思って気持ちを切り替えていた時だ。


「アーノルド。ちょっといらっしゃい」


 おふくろに呼ばれる。


 深刻というほどではないが、真面目な声だ。


「どうした。何かあったのか?」


「ああ。さっき王都から使者が来てね」


 おふくろは俺に一通の書状を手渡した。


「これは……早すぎだろ?」


 俺は書を開くと思わずそうこぼす。


 書状は王都からの召集。


 ――つまり戦争である。


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