第9話 結婚式


「へえ、あんたもなかなかやるもんだねえ!」


 リリアとノンナを家へ連れて帰ると、おふくろはそんなふうに感心していた。


「怒らねえのかよ」


「なに言ってんだい。息子がモテて嬉しくないはずがないだろ?」


 そう言って俺の股間をポンポンッと叩くおふくろ。


「クソババアめ。てめえ母親だろうがよ」


「ははは! 女好きは男の勲章のようなもんさ。お父ちゃんも若い頃は……ポッ」


 ポッ……じゃねーんだワ。


「なにはともあれ、結婚式をしないとね!」


「ふん、勝手にしやがれ」


 もちろんTOLにはそんなもんなかったが、この世界はゲームのようでいて『世界』なので、人間はご飯を食べ、睡眠を採り、結婚式を行うのである。


 結婚式は一週間後に行われることになった。


 で、その当日。


 ざわざわ……ざわざわ……


 俺んちの庭は大勢の領民であふれかえっている。


「わーキレー!」


「本当!」


 王都の職人がしつらえたとっておきのディアンドル姿の花嫁の美しさに、村の娘たちは皆ため息をついた。


 空は青く、太陽はほほえましく見つめる人々の歯まで白く燦然さんぜんとさせている。


「やべえ、緊張してきた」


「ちょっと、大丈夫? しっかりしなさいよね!」


「うふふ、そういうリリアも脚震えてるよ?」


 俺はと言うと二人の花嫁の間に立って、肩をすぼめて縮こまっていた。


 右を見ればリリア。


 活発なショートヘアに可憐な花の髪飾りを身に着け、女らしいスカートが慣れないのかお尻をよじらせながら少し恥ずかしそうにしている。


 左を見ればノンナ。


 いつもはおしゃべりな彼女も今日ばかりはそのうすピンクの唇をキュッと閉じ、ディアンドルの白ブラウスに乳の形をくっきり映しながらスッと姿勢を正していた。


 リリアは16歳。


 ノンナは15歳。


 そんな少女たちがいつもと違って妙に大人っぽく見え、なんかスゲー緊張してくる。


 けど、結婚式は男の俺がしっかりしねーと進まない。


「さ、アルト。神木へ向かって愛を誓うんだよ」


 と、おふくろがうながす。


 神木とは、やかたの前にそびえる千歳の巨木であり、神として領民土着の信仰を集めている。


 新郎はこの神木へ向かって、男として花嫁を一生涯愛し、守り抜くと誓うのだ。


 そう。


 この世界の結婚とは婚姻届けを提出することではなく、“人知を超えた神的な何か”に愛を誓うことを言うのである。


「ええと、俺……じゃなくて私アルト・ダダリ=ドワイドは……ええと……」


 俺は青くなりながら、徹夜で覚えた結婚の儀式の文言を口から出していく。


「ええと、神木に誓って、リリアとノンナを生涯愛し、それから……」


 やれやれ、まさか若干16歳でふたりも嫁を持つことになるとは夢にも思わなかったぜ。


 マジこれから大変だな。


 そんなふうに呆れながら、俺はなんとか誓いのセリフを言い切った。


「アルト……♡」


「嬉しい♡♡」


 ふたりは感激して俺に寄り添ってくる。


「よーし、アルト。誓いが終わったのなら新郎は花嫁へ口づけするのが慣例だよ」


 と、おふくろ。


「ええー、みんなの前でなんて恥ずかしいよー」


「ゴネるんじゃないよ。キンタマついてんだろ?」


 キンタ……


 我がおふくろながらなんて言いぐさだ。


「チッ、しょうがねえな……リリア」


「は、はい!」


 俺はまずリリアの肩を寄せて唇へ唇を重ねた。


 プニ……☆


 弾力があってみずみずしい。


 気のせいか、電気が走ったような気がした。


「じゃあ、ノンナも」


「う、うん……」


 続いてノンナの肩をよせ、口を吸った。


 ぷにゅ……♡


 女の子らしくて、ぽってりとしてやわらかい唇だ。


 ちょっとエッチな気分になる。


「さすがアルト様! オレたちのできないことを平然とやってのける!」


「そこにシビれる、憧れるぅ!!」


 周りからそんな男たちの声があがる。


 同年代の女子の中でもとりわけ器量のよい二人をいっぺんに嫁にしてしまったのだから、ひょっとしたら村の男衆から反発されるかとも心配したが……そんなこともないようだ。


「兄ちゃんモテモテだねー!」


「ボク、兄ちゃんみたいになりたい!」


 ヨルとラムもそんなふうに言って俺へ尊敬のまなざしを送っていた。


 儀式をしっかりこなして兄の面目も立ったというもの。


 この後はみんなで食って飲んでの宴会だ。


「まあ……こういう結婚なら悪いもんじゃねえかもな」


「え?」


「なあに?」


「い、いや、なんでもない……(汗)」


 いけね。


 つい前世で享年39まで結婚しなかったことを思い出してしまった。


 あんな希望のない国のことなんか今さら思い出す必要もねーのにな。


「それより行こうぜ。お腹ペコペコなんだ」


 俺はそう言ってふたりの少女の手を引き、ご馳走ちそうの乗るテーブルへと走っていった。


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