第6話 気安くさわらないで
領主になって4ヵ月目。
領地に『訓練所』ができた。
「うん、よくやったな。パズー、フンベルト」
俺は土木技師のパズーと大工のフンベルトを褒めてやると、訓練所を見上げた。
観客席のない小型スタジアムのような施設で、剣や弓の訓練ができるようになっている。
驚いたのは、TOLに出てくる『訓練所』のグラフィックとフォルムがまったく同じだったことだ。
木の門や石垣の壁、
特に指定もしていないのにそっくりだ。
やはりこの世界はゲームの中の世界なのだろうかという思いが強くなるな。
「あとこの訓練所の前に橋を架けてもらいたいんだよ」
「橋ですか?」
「うん。居住地と訓練所の間に川があるだろ? みんな川くらい渡れるけど、橋があったほうが手軽に訓練所へ行けるからな」
「なるほど」
「よし、任しておきやがれ」
そう言ってパズーとフンベルトはまた建設に向かった。
ちなみに、クラフターからの進化は進んでいて、大工は26人に、土木技師は31人になっている。
内政建築系ジョブのレベルを上げるには、こうしてどんどん仕事を与えていくのが大事だからな。
一方。
剣士などの戦闘職のレベルを上げるためには、二種類の方法がある。
魔境や
もしかすると『実戦でレベルがあがるなら訓練なんて必要ないんじゃ?』と思われるかもしれないが、実戦にはコストとリスクがつきもの。
例えば、この前ヨルとラムを連れて魔境へ入った時は、銅の剣と火の杖を消費したワケだ。
こういう金属の武器や魔道具はまだ国産化できていないので、王都の商人から買わなくてはならない。
つまり、外貨が必要になってしまう。
弟たち二人を連れて行くくらいならいいが、大勢の戦闘領民を連れるとなるといくらカネがあっても足りなくなる。
よって、外貨を必要としない国産の武器で戦う必要があった。
で、今のところ領地で作れるのは石工と木工の武器だけだ。
すなわち木剣、石の斧、石の矢じり、木の弓。
だから戦闘領民を木や石の武器でも戦えるレベルまで訓練する必要があるのだった。
◇
「よし。今日は精鋭で魔境のボスを倒しに行くぞ」
そう宣言したのは、俺が領主になって5ヶ月目のことだった。
ざわざわ……
訓練所の戦闘領民たちにざわめきが起こる。
「ぼ、僕……怖いなあ」
怪力のゴーグルのように縮こまる者もあれば、
「やった。ようやく戦いね!」
と、リリアのように好戦的な者もあった。
この辺はゲームにはない要素だな。
シミュレーション・ゲームの領民AIに人間らしい性格なんてなかったのだから……
ちなみに狩人や薬師のジョブ進化も進んでおり、剣士や武道家も増えていた。
今回率いるのは総勢27名の小部隊。
剣士が9名、武道家が9名、盗賊が3名、怪力が3名、占い師1名、霊媒師3名、弓師が2名である。
占い師や霊媒師は正直まだ戦闘には向かないが、魔道具の力も借りたいところではあるので少数編入した。
とは言え、大枠では物理攻撃主体の編成となっている。
そして、占い師、霊媒師には輸入モノの『火の杖』と『癒しの杖』をそれぞれ装備させているが、他のメンバーには国産武器を装備させた。
剣士には木の剣。
武道家には石のナックルダスター。
怪力には石の斧。
弓師には木の弓矢。
ちなみに弓師とは、狩人レベル16で進化できるジョブだ。
「おい、リリア」
俺は『木の弓』を装備したふんどしの女尻をペチンと軽く叩いて言った。
「張り切ってるじゃん。頼りにしてるぜ」
「……気安くさわらないで」
あれ? なんか冷たい?
「なんだよ。最近せっかく仲良くなれたと思ったのに……」
「あいにく秘密を守れない人とは仲良くできないの!」
「はぁ?」
そう聞き返すが、リリアはショートヘアーを翻して行ってしまった。
「チッ。なんだ、あいつ……」
「若ッ」
その時、盗賊のリッキーに声をかけられる。
「どうしたんでやんす? ケンカでやんすか?」
「別に。あいつ誰にでもツンケンしたヤツじゃん」
「そりゃあそうでやんすがね。毎晩林の中で若がリリアの尻をなでてるってウワサでやんすから、てっきり仲良くなったんだと」
「あ?」
俺は思わずリッキーの胸ぐらをつかんで尋ねた。
「お前、それ誰から聞いたの?」
「ひっ……せ、せまい村でやんすからみんな知ってることでやんすけど、出元はノンナかと」
チッ……。
ノンナのヤツ。
あれから林デートでリリアの尻をなでさせてもらっていたのは確かだけど、その現場を見られたのか?
よりによって一番見られちゃいけない、ウワサ好きのノンナに……
それでリリアは『俺がみんなに言いふらした』と思って怒っているのかも。
っていうか、秘密がどうこう言ってたし、多分そうだ。
誤解を解かないとリリアに嫌われてしまう……
「領主様ー!」
「みんな準備できましたよ」
「魔境へ行きましょう!」
そう思ったのだけど、戦闘領民たちにそう声をかけられてリリアを追えない。
「あ、ああ。そうだな……」
俺はやむなく、そのまま27名を連れて魔境へ出陣するのであった。
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