第7話 暴れトロル


「ファイヤー!」


 魔境にて。


 占い師のハンナが『火の杖』から火の玉を発射する。


 ギャアアア……!


 三匹の人面キノコたちが燃え盛った。


「よし! 全員でかかれ!」


 俺が号令すると、前衛が攻撃を開始する。


 剣士、武道家、盗賊、怪力……


 装備こそ石や木の武器であるが、訓練所でレベル8~12まで行った精鋭だ。


 こうして魔道具で一定ダメージを与えた後に、前衛が一斉に攻撃すれば、ほとんどノーリスクで攻略していける。


 ワー! ワー! ワー!……


 さて、そんな戦闘の中。


 前衛が戦っている時に、後衛で待機しているハンナへふらっと話しかけた。


「よおハンナ。お前、ふざけんなよ」


「えー? なあにアーノルド?」


 俺は、リリアに尻をなでさせてもらっていたのは『みんなに秘密で』という約束だったこと。


 それなのにみんなが知っていたのを、俺が秘密をバラしたと誤解されていることを話した。


「どうしてくれるんだよ。リリアに嫌われちゃったじゃん」


「えー、ウソー」


 そんなふうにウワサ好きのハンナのとがを責めている時。


 弓矢で援護射撃をしている遠くのリリアと目があった。


 ひょっとしたらもう大丈夫かな?


 そう思って、俺は右手をひょいあげて親愛の合図をする。


「……」


 しかし、彼女はプイッと顔をそむけて、ふんどしのお尻を向けてしまった。


 むッ、まだ怒ってんのかよアイツ。


「……本当だ。ごめんね、アーノルド」


「ふん、もういいよ。あんなやつ」


「でも……」


「よく考えてみたらさ。それってアイツ、最初から俺のことなんて信用してくれてないってことじゃん」


「そんなこと言わずに、仲直りしなよ……」


 リリアと違って村娘らしい服装のハンナは、赤いチェックのスカートのすそをキュッと握りしめて元気をなくしていた。


 さすがに悪いと思っているのだろう。


「とにかくもういいから。責めたりして悪かったな」


「アーノルド……」


 何故か俺の方がハンナの三つ編みおさげ頭をポンっとなでて慰めてやっていると、向こうではモンスターが倒れたらしい。


 前衛もドヤドヤと戻ってくるので話はそこまでで終わった。



 ◇



 魔境には地区ごとに一体のボスが存在している。


 ボスを倒せばその地区は領土として獲得できるのだ。


「若。ボスはまだでやんすか?」


「もうじきだよ。ほら、ここに目印がしてあるだろ?」


 俺は盗賊のリッキーにそう答えた。


 そう。


 以前行った弟たちとの探索ですでにボスの位置はわかっている。


 三人ではまだボスを倒すことができなかったが、今回の27人編成なら戦えると思う。


 ボスの強さがゲームと同じならばって前提だけど。


 さて、俺は戦闘領民をぞろぞろ連れて、この地区のボス『暴れトロール』の元にやって来た。


 ガルルルル……ガル?


「で、でけえ……」


「あんなの無理だよー!」


 毛むくじゃらな身体に、異様に隆起した体躯たいく


 みんなが怯えるのも無理はない。


「ビビるな! 今までどおりやれば倒せる」


 俺はそう言うと、まず占い師と弓士に攻撃をさせた。


 炎があがり、矢が刺さると、あばれトロールは怒り、ずんずんと向かってくる。


「よし、全員でかかれ! 俺も行く」


「アーノルド様!?」


 みんながビビっているので俺が先頭を行く。


 暴れトロルはTOLの最初の関門だが、それを超えるだけの育成はして来たはず。


 全員でかかれば倒せない相手ではないのだ。


「おらー!」


 俺は銅の剣でトロルの肩を打った。


「うッ……」


 しかし、敵はタフで、刃は通らない。


 ガルルル……ゴルアア!!


 逆にトロルは丸太のような腕を振り回し、俺へラリアットをしかけてくる。


「ぐわ!」


 喰らった……


 トラックにぶち当たったような衝撃の後、遥か後方へすっ飛んでいくのを感じる。


 吹っ飛ばされた俺の身体は数本の木をへし折り、そこでようやく勢いが止まって、倒れた。


 でも、なんだこれ?


 全然痛くないぞ?


「アーノルド!」


「よくも若をってくれやんしたね!」


 しかし、リリアやリッキーは、俺が死んだのだと思ってか怒り、勇ましくもあばれトロルへ攻撃していく。


 それに呼応して戦闘領民たちの一斉攻撃が始まった。


 やれやれ、こうなればもうこちらが優勢だ。


 俺は地面に倒れたままステータスを見ると、


HP:91/142


 と、さっきの被弾でダメージを受けているのを確認する。


 それでも痛くなかったのは、ひょっとして『痛覚耐性』の技能で本当に痛みを感じなくなっているのかもしれない。


 ゲームではダメージでステータスが割り引かれないだけの技能であったが、こうして身体があると実際に戦いで痛みを感じなくなるんだな。


 でも確かに、『痛覚耐性』ってそういう字面じづらだよね。


「よし! 俺もまだやれるぜ!!」


 俺はムクリと起き上がり、戦闘へ加わっていった。


「あっ! 領主様」


「生きていたでやんすね!」


 すると味方はさらに勢い付き、ついにボスは倒れた。


 ガル、ガルル……ぐふ。


「やたー!」


「倒したぞ!」


「領主様ばんざーい!」


 汗と泥にまみれた領民たちが、俺を胴上げする。


 ワッショイ! ワッショイ!


 胴上げされるなんて前世も含めて初めてだ。


 なんつーか、意外に嬉しいもんだな……

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