第9話 ハイスペック男子3人組
『なんで、こんなことになってんだろ」
2人で4人テーブルに座って、ゆっくり楽しいひと時のはずが、4人で手狭に、肩身狭く座ることになるなんて。
小さく息を吐き、生ビールを飲んだ。
「サクラコさん、ビール、頼もうか。それか、別のがいい?」
「ううん、大丈夫」
ハルちゃんが、聞いてくれたけど、楽しく飲む気になれなくて、残り少なくなったグラスを置いた。
「サクラコって変わった名前だね」
ハルちゃんの隣に座ったリョウさんが話しかけてきた。
変わった名前=ヘンな名前、って言われた気がしたのは、気のせいかな。
「おい、リョウ。木村さんだ」
「え、ナニ、陽だけ、特別ってコト? でも、2人付き合ってないんだよね。ねぇ、サクラコさん」
「そう、ですね」
「だったら、俺が呼んでも問題ないじゃん。ねー」
と、男性にしては可愛い仕草で、私に同意を求めてくる、リョウさん。
私の隣に座る風くんは、速いピッチでグイグイと生ビールを飲んでいて、微妙な雰囲気だ。
『こないだの相手が、私だと知ってバツが悪いんだろうな。ある意味、私もだけど』
「同席してごめんねー。でも、陽達がいてくれて助かったよ。危うく、あぶれるとこだった」
「噓つけ、知って来ただろ?」
「いやぁ、まぁ、ハハハ。でもさ、この時期、どこもいっぱいじゃん」
「なら、予約しろよ」
「急に決まったからさー。今日は金曜だし、こんな時間にほか行ったって、空いてないよ」
「だからって、急に来ることないだろ」
「そう言うなよ、陽。冷たいなぁ」
2人のやり取りを、曖昧な笑みを浮かべながら聞いていた。
「木村さん。こないだは、ごめん、言い過ぎた」
唐突に、隣の風くんが声をかけてきた。
『同じ会社、同じ部署を思えば、そういう反応が普通だろうな。内心は別としても』
そう思って横を見ると、かなりの近さに顔があって、びっくりした。
「ぅあっ。うん、もういいよ」
と言いつつ、気持ち的に、許してないけど。
ナイわー、発言、結構キタもんね。
でも、あの出来事がなかったら、ハルちゃんとお近づきになれてないわけで、そういう意味では、キューピットではあるかな。
「あの店、普段から1人で行ってんの?」
「うん、家が近いし、リーズナブルだしね」
「確かにそうだな。陽とは、どういう知り合い?」
「知り合い、というか、お店の常連さんって感じかな?」
「いつから知ってんの?」
「えー、いつから。んー、お店で何度か見かけたことはあったけど、話したのは、この間が初めてだし、はっきりとは分かんない」
「ふーん。で、今日はデートなわけ?」
「ぇえっ、違うよ。ハルちゃんの、インスタの写真を撮る手伝いをしに来たの」
「ハルちゃん?」
「・・・そう呼んでって、言われたから」
「ふーん。で、上手く撮れたの?」
「ううん、まだ、だけど・・・」
『ナニ、なんなの、この質問攻めは。尋問されてるみたいじゃない?』
ふっと湧いた思い。
今日、このタイミングでハルちゃんの友達がバッティングするって、普通に考えて、不自然じゃない?
ワザとそうした? なんの為に?
疑問ばかりが頭に浮かぶ。
「3人、仲いいですね」
「大学からの友達だから」
話題を変えようと思ったけど、風くんにさらりと返された。
「それは俺だけ。陽と大智は子供の頃からだよ」
でも、リョウさんが加わってくれた。
ナイス、リョウさん。
「俺の親父と大智の親父さんが仲良くて、小さい頃からお互いの家を行き来してたんだ。俺も大智も一人っ子だし、それもあって小さい頃から、よく遊んでたんだ」
「なるほど、兄弟みたいな感じなんですねー」
ハルちゃんの話に頷きつつ、話が逸れてホッとした。
「そっ! 大智は、陽に過保護だから」
「そんなことない、普通だ」
リョウさんが茶化すように言うと、風くんが少しムクれて答えた。
普段のイケメンぶりからは想像できないレアな顔に、思わずニヤついてしまった。
『なるほど。三人三様で仲がいいってわけね』
3人の仲の良さが、垣間見えた気がした。
「うまーっ、これ、なんて魚? スズキっぽい」
「ホウボウ、だって」
リョウさんが陶器鉢に盛られた刺身を美味しそうに食べている横で、ハルちゃんが、さっき店員から聞いた話を説明している。
お刺身も出されていた料理もキレイになくなり、また新しく注文をするのか、風くんがメニューを眺めだした。
二枚目イケメン男子に、ロリショタのような可愛い男子と、爽やか知的男子の3人。
眺めるには、なかなかの眼福環境では、ある。
だけど、そこに自分が加わるのは、ちょっとねぇー。
「あの、すいません、ちょっと」
明らかに浮いているであろう自分が、いたたまれなくて、席を立ちトイレに入った。
「ねぇ、ねぇ、奥の席の人達、ヤバくない? すっごいカッコいいんだけど」
「見た、見たぁ。なに○男子の子に似てない?可愛い系の。ちょっと声かけてみよっか?」
女の子2人が話しているのが聞こえてきた。
それって、間違いなく、あの3人。
ハイスペック男子3人組、のことですよね。
「はぁー」
ため息が零れた。
なんで私、ここにいるんだろう。
あのテーブルで、間違いなく私だけ、場違いじゃん。
『正直、私、いない方が良くない? 3人の方が楽しく飲めるだろうし。もう、ここは、アレだ。無になろう。空気になって。で、少ししたら、帰ろう。なんか口実つけて。すぅー、はぁーーー』
大きく息を吸って吐き出し、気合を入れた。
「えー、そうなんですかぁ。アハハハハ」
席に戻ると、さっきの子達がいた。
これは、いわゆる逆ナンってヤツだ。
「あ、サクラコさん、おかえり」
ハルちゃんが気付いて声をかけてくれた。
と、2人が私を見た。
『うわぁー、気まずっ』
怖くて女の子の顔は、見れません。
そそくさと、席に座ろうとしたら、
「この後、一緒に飲み直しません?」
女の子の1人が言った。
『まぁ、そうなるよね。私は場違いってね。うん、もう帰ろう。で、『梅野』に行って飲み直しだ』
そう思って、帰る口実を考えていたら、グイッと腕を掴まれた。
「いや、いいよ。こっちには彼女がいるから」
風くんが私の腕を掴んで、そう言った。
驚いて風くんと女の子達を見ると、2人は明らかにムッとした表情をしていた。
「今日は俺達、水入らずなんだ、ごめんねー」
明るくリョウさんが女の子達に言うと、2人とも表情を緩めて、席に戻って行った。
「次、ナニ飲む?」
「俺は、焼チュー」
何事もなかったように風くんが声をかけると、リョウさんが答えた。
「サクラコさんも」
そう言って、ハルちゃんがメニューを広げてくれた。
「うん、ありがと」
予想外の展開に、頭が追いつかない。
『風くんが助けてくれた? なんで? 私のこと、気に入らないんじゃなかったの?』
メニューを見ていても、内容が入ってこなかった。
「刺身盛り、ほとんど食べられたし、もっかい頼もうか? それか、他のにする?」
「なんだよ、それ。また、頼べばいいじゃん。俺的に、唐揚げがいい」
ハルちゃんが私に聞いてきたけど、代わりにリョウさんが答えた。
「先に飲みもん、頼もうぜ」
そんな2人に、風くんが言った。
もはや、デートのような色めいたものは全くなく、普通の飲み会になってる。
やたら目立つ彼らに囲まれ、この場に馴染めるはずもなく、どんどん気後れしていってる自分がいる。
「木村さん、何、頼む?」
「とりあえず、ビールで」
風くんに聞かれ、差し障りのないお決まりの言葉で返事した。
「・・・・番線に電車が到着いたします・・・」
貝原駅のホーム。
快速の停車駅とあって、電車を待つ人は多い。
冷たい風が吹き込む度、誰もが寒そうにまとまるように立っている中、ここだけが、周りから少し遠巻きにされている感じがある。
でも、それは敬遠ではなく、好奇ゆえの近寄りがたさ。
他と違うオーラを放つ男子3人組。
と、私。
若干、離れ気味に1人立つ。
『この距離なら、お仲間?じゃないよねー、っと思われる距離でしょ。ウン、ウン』
「サクラコさん、寒いから、こっちにおいでよ」
いやいや、ハルちゃん、それは有難迷惑っていうやつで。
ほらぁー、周りの目がぁぁぁ。
周りを見ながら、ぐるぐると考えている間に、3人が傍までやってきて私を囲うように立った。
「ほら、ほら、大智もリョウも、ちゃんと立って。こうすれば風除けになる」
ハルちゃんがニコッと笑った。
あぁ、ほっこり反面、やっぱり、周りの視線が、イタイ・・・
程なくして電車がホームに入って来た。
電車から沢山の人が降りた後、また人が乗り込んでいく。
3人は車両の中ほどまで入っていったので、私はドア横に立った。
『あー、疲れたぁー、気疲れしたー。結局、飲み会もよくわかんないまま終わっちゃった。
でも、これでよかったのかもしれないなぁ。自分とは、次元が違いすぎるって、よくわかったもん。
逆ナンなんて、初めてみたし、ホントにあるんだなぁ、あーゆーの。
彼女いるいないの前に、あーゆーのが日常なら、女慣れしていて当然よね。
ちゃんと、現実を見れた感じ。
気持ちばっかり先走ってたけど、間違えなくて、よかった。
ハルちゃんは、私が思うほど、私のこと思ってないってのが、ハッキリした。
友達乱入後の態度も、その表れよね、きっと。
同席されても平気だし、逆ナンされても普通だし、風くんには牽制されるし。
・・・・疎外感、キツかったなぁ。
私、今日、結構、楽しみにしてたのになぁ、全部ダメになっちゃった。
あぁーあ。
って、そう思ってるのも、私だけって、ね』
鼻がツンッとなり、少し視界がぼやけた。
『こんなとこで、弱みをみせてたまるか!』
女の意地とばかりに、グッと目に力を入れて顔を上げたると、発車のベルが鳴りだした。
『ひと駅乗れば、もう家だ。その前に『梅野』に寄って、きれいさっぱり飲み干して、リセットしてやる!』
「サクラコさん」
不意に名前を呼ばれて見ると、ハルちゃんが横に立っていた。
『なんで、ここに?』
と思ったら、急に手をとられ、グイッと引っ張られて、ホームに降り立った。
プシューッ。
ドアが後ろで閉まった。
「エッ、エーーッ、ハルちゃん、電車。電車、出ちゃったよ。なんでー」
ゆっくりと進み出す電車の中で驚く2人に向かって、ハルちゃんはにこやかに手を振った。
私は、ただ、その光景をボー然と見上げていた。
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