猫8匹 猫耳メイドがいる世界=素晴らしい世界

マルルちゃんも一緒に野営地に戻ってきた。

クズ野郎達の反対側にポーチからテントを出す。

ヒョウカが頭から降りてテントの中に入ろうとする。


「に"ゃっ!(痛い!)」

「どうした?!」


ヒョウカが入口を捲ろうとした前足をペロペロと舐める。


「(結界があった。入れない。)」

「結界?」

「(そう。)」


テントに寄りかかったら沈むはずなのに、ヒョウカは見えない壁があるかのように沈むことなく肉球をふみふみぷにぷにと何かを押している。

何かに触れてみる。


『結界に触れている者を登録者にしますか?』

「え?誰?」


聞いたことのない声が聞こえて驚く。


『このアイテムの管理神工知能です。』

「どうしたの?」「ルドアお姉ちゃん?」

「ん?」「(何?)」

「今の声、聞こえなかった?管理人工知能って。」

「聞こえなかったよ?」「私も聞こえなかった。」

「何も聞こえない。」「(聞こえない。)」

『所有権、登録者以外には聞こえません。中にも入れません。』

「なるほど。」

「「「「?」」」」


イル達に説明した。


「どうやって登録するの?」

『所有権がある者、マスターと共に結界に触れ、魔力を流しマスターが許可と唱えると登録されます。』


そのままイル達に伝える。

アニーが降りて結界に触れる。

イルもマルルちゃんも触れる。


「どうやって魔力を流すの?」

「「え?」」

「流したよ!」

「(流した。)」


アニーとヒョウカが魔力を流したと言い、イルとマルルちゃんが驚いた顔を俺に向けた。


いやー、魔力なんて感じたことも流したこともないんだから、しょうがないじゃん。


『許可と唱えてください。』


あ、俺は流さなくてもいいんだ。

唱えるって許可と言えばいいのかな?


「許可。」

『マスターの許可を確認……イル、アニー、マルル・ルフ・ユグドガル、ヒョウカの魔力を確認……四名の魔力を登録しました。中へどうぞ。』

「聞こえた!」

「聞こえました!」

「!?」

「(中に入る。)」


登録され早速ヒョウカが結界に阻まれることなくテントの中に入っていった。

「私も入る!」とアニーが入っていく。

けど直ぐに出てきた。

アニーが興奮している。


「ルドアお姉ちゃん!」

「どうしたの?」

「テントの中すごい!」

「凄いの?」

「うん!ひっっろいの!」

「広い?」


二、三人用のテントだから普通だと思うけど、アニーにとっては広いのかな?


「きてきて。」


アニーに手を引っ張られテントの中に入った。


「え?」


目に入る光景に目を見開き驚く。

目を擦っても変わらない光景。


「な、な、なんじゃこりゃああああああ。」


テントの中に大地にぽつんと一本の木と平屋の一軒家が建っている。

アニーの言う通り広い。


いやいやおかしいでしょ。

テントの中だよ?


『マスターだった方が前回設定した空間です。』

「マスターだった方?」

『ヴィトラジャート様です。』

「え?じゃ、じゃあこのアイテムってヴィトラジャート様のなの?」

『マスターに譲渡されていますのでマスターの物です。その腰の収納袋もです。お詫びだそうです。』

「転生させてもらうだけでありがたいのに、こんな凄い物を……マジかぁ。」

「ヴィトラジャート様って誰?」

「うわっ!ビックリした。」


転生とか聞かれてないか?


マルルちゃんとイルも中に入って来て、マルルちゃんが聞いてきた。


『ヴィトラジャート様は旅の神です。』

「旅の、神様。このテントは神器?」

『その通りです。』

「ルドアは使徒?」


パターン青のやつか?


『違います。神の子です。』

「え?俺って神の子なの?」

『イルドアニーマ様の子ではないのですか?』

「え?そうなの?」


作り変えるって言われたけど、イルドアニーマ様の遺伝子から作られたのか?

わからん!


『「……」』

「神の子なら納得。」

「何が?」

「ルドアの桁違いの魔力量。」

「そうなの?」

「わからないの?」


俺が首を傾げると同じくマルルちゃんも首を傾げる。


わからないことが多すぎる!


魔力は後でどんな猫がいるかついでに魔法と一緒に教えてもらおう。

凄いという1級組合員なら生息地などもわかるだろう。


「「……」」


袖を引っ張られ目を向けるとアニーが俺を見ている。


「ルドアお姉ちゃん、イルドアニーマ様の子供なの?」

「わからない。」

「イルドアニーマ様の、ところに、行っちゃうの?」


アニーが目に涙を浮かべながら言う。


「行かないよ!」


アニーを抱き締める。


「う、う、う……」


肩に顔を押しつけ泣くアニーの頭を撫でながら抱っこする。

イルも涙を浮かべていた。


「何処か行くとしてもイルもアニーも一緒だよ。」


イルが横から抱き付く。

頭を撫でる。




『マスター、家に移動しましょう。』


イルもアニーも落ち着いた頃、管理人工知能が話しかけてきた。


「中に入っていいんだよね?」

『はい。』


アニーを片手で抱っこし、イルと手を繋ぎながら家にへ向かう。


「あれ?ヒョウカは何処にいるんだ?」

『ヒョウカ様でしたら、縁側で寝ています。』

「自由だな。猫らしい。」


管理人さんによるとヒョウカは縁側で伸びきって横になっているそうだ。


リラックスしているなぁ。

一緒に横になるのもいいな。

後で絶対そうしよう!


「お邪魔します。」


玄関引戸を引いて中に入る。

広めのたたき。

胸下くらいの高さの下駄箱、その上に猫や鳥や熊などの置物。

金の招き猫なんかもある。

神様が置いたものだそうだ。


めっちゃご利益がありそう!


一段上がって正面と左に廊下。

正面廊下の右側に戸が三つ、左側に二つ。

左廊下は見える範囲で右に二つ、左に縁側。


靴を脱いであがる。


「お姉ちゃん、靴脱ぐの?」

「うん。この家は土足禁止だから、ここで靴を脱いで入るんだよ。で、こう靴を揃える。」


脱いだ靴を揃える。

アニーを降ろし、靴を脱がせ揃える。


「わかりました。」

「変わっている。」


マルルちゃんはそう言いながら同じようにする。

それとなぜか人数分スリッパが用意されていたから履き、彼女達に履かせた。


「入っちゃいけない部屋ってある?」

『ありません。』


俺に譲渡されたものだから、自由に使っていいとのこと。

ということでヒョウカ以外の皆とこの家を探検することになった。

どんな部屋、家なのかわくわくするね。


アニーと手を繋いで、一番近い正面廊下の右側の部屋の戸を引いた。


「お待ちしておりましたにゃ。」


耳と耳の間の毛、前足がくるぶし靴下、尻尾の先が白い黒猫が畳の上で土下座をしている。


「お待ちしておりましたにゃ。」


その猫から声が聞こえた。


「どうぞお入りください。」


管理人工知能と同じ声のような……


「猫ちゃん!ヒョウカの友達?」

「いえ、私はこのアイテムの管理神工知能です。」


やっぱり!

人工知能だったんだ。


猫が顔を上げる。


キリッとした少しつり目の猫。

首元とお腹、後ろ足も白かった。

見た目と綺麗な毛並みからターキッシュアンゴラ似の猫。


「猫だったんだね。」

「いえ、ヴィトラジャート様から次のマスターは猫が好きだとお聞きしましたので、この姿にしています。どうでしょうか?」


笑顔で親指を立てる。


「うん!最高です!毛並みが綺麗だ!撫でてもいいでしょうか?」


スリッパを脱いで部屋に入る。

管理人工知能さんが近寄ってきて「どうぞ。」と言った。

心の中でガッツポーズをした。


「失礼します。」


優しく撫でる。

さらさらしている。

少し力を入れて撫でるとふわっとしてさらふわっとしている。

更に力を入れると手が埋もれた。


最高で至高の手触りだった。


「素晴らしい!さすが国宝!見た目の美しさも触り心地も最高だ!」

「お褒めいただきありがとうございます。」

「わたしも撫でてもいい?えーっと、かんりじんこうちのうちゃん?」

「私も。」

「わ、私も!」

「良いですよ。」


おお!

国宝と美少女達(一人成人してるが)の触れ合い……

あぁ、ここは楽園か……


素晴らしい光景だった。


「ふわっふわで気持ちいいー。」

「さらさらしてて羨ましい。」

「神獣に初めて触った。」

「マルル様、私はこのアイテムの管理神工知能です。神獣ではありません。」

「神器で獣の姿、似たようなものでは?」

「ふむ……ふむむ……」

「ねぇねぇ、猫さんはかんりじんこうちのうって名前なの?」

「名前ではありません。」

「ないの?!じゃあ付けないと!」

「アニー勝手に付けては駄目よ!」

「いえ、付けてもらえるなら嬉しいです。」

「お姉ちゃん、ルドアお姉ちゃん、マルルちゃん、一緒に考えよう!」

「わかった。」

「本人がいいと言うなら……。」

「なんて名前がいいだろうね?」


皆、管理神工知能猫さんを見て考え始める。


なんだか見ているとメイドさんに見えた。

白いところが、耳と耳の間は白いカチューシャ、首元は襟元、足は袖口、お腹はエプロンに見えて、メイド服を着ているかのように見えた。


猫メイドさんが言うんだ。

「お帰りなさいにゃ、ご飯にしますかにゃ?お風呂にしますかにゃ?そ、れ、と、も、」

「ルドアお姉ちゃん!」

「は、はい。もふもふしたいです!」

「もふもふって名前?」


アニーの声に現実に戻る。


「え?あ、違う。」


あぁ、猫人族のメイドさんが消えるぅ……


「考えた名前を言って、猫さんに気に入ってもらった名前が猫さんの名前になるの。って話をしてたんだよ!あとルドアお姉ちゃんだけなんだよ。」

「ごめん、すぐかんがえるから。」


メイドさんの猫か。

メアリーニャ、メリーニャ、メイニャ……シュアン、


「メシュアン。」

「メシュアンでいい?」

「うん。」

「わたしの考えた名前はリコチーだよ!」

「私はバースティト。」

「私はサラネ、です。」


俺がメシュアン、アニーがリコチー、マルルちゃんがバースティト、イルがサラネと考えた名前を出した。


「気に入った名前ある?」

「はい。」

「じゃあ気に入った名前を言って!」

「メシュアン・リコチー・バースティト・サラネが今日から私の名前です。」

「ん?」


全部じゃね?


「全部?」

「駄目ですか?私のために考えていただきとても嬉しゅうございます。だからメシュアン・リコチー・バースティト・サラネという名前が良いのです。」


ゆらっ、ゆらっと尻尾を左右に振るメシュアン・リコチー・バースティト・サラネ。


長いな……


「駄目ではないと思うけど。」

「長いね。」

「愛称。」

「愛称か、一文字ずつとっていい感じのがあればいいな。メ、リ、バ、サ、は微妙だな……うーん……」


メシュアン・リコチー・バースティト・サラネ

皆が考えた名前から一文字ずつとって組み合わせて、何度か小さく呟く。


「メリトラ、メリトラなんてどうだろうか?」

「メリトラ、いい。」

「メリトラ、かわいい!」

「いいと思う!」

「皆さま、名前、愛称をありがとうございます。寛げるよう精一杯お世話させていただきます。」

「気に入ってもらって良かったけど。世話って、猫の姿で、いや、めっちゃ癒されるけどさ。」

「あ、もしかして。」


マルルちゃんがなにやら思い付いたようだ。


「人化できる?」

「じんか?」

「はい、人化できます。何もないときはこの姿でマスターに癒しを、」


メシュアン・リコチー・バースティト・サラネ愛称メリトラが淡く光、猫の輪郭がぼやけ大きくなる。

ぼやける輪郭が人のようになり、はっきりとした人の姿になると光が収まる。


「料理などをするときはこの姿になります。」


少しつり目の美女、イルとアニーと同じ黒髪猫耳尻尾のメ・イ・ド!

そう!猫耳メイドなのだ!


さっき妄想したメイド服に似たメイド服を着ている。

しかし猫耳尻尾の毛、形はイル達とは違う。

猫の姿(ターキッシュアンゴラ似)の時のまま、さらふわっとしてそうだ。


「うん!良い!」

「きれいー。」

「綺麗です。」

「美女。」

「ありがとうございます。」


メリトラはまた猫の姿に戻って、家の案内をしてくれた。

さらふわな尻尾が左右に振られている後ろ姿に癒されながらついていく。


正面廊下の右側に戸が三つ。

手前からメリトラの部屋、トイレ、洗面所風呂場。


正面廊下の左側に二つ。手前が客間、奥が茶の間。

茶の間の隣に台所、さらに隣が食料庫。


左廊下は四つの戸があった。

客間と三つの何もない和室。


縁側には気持ちよさそうにお腹を出して寝ているヒョウカがいた。


猫と一緒に寝る夢が叶うかもな。


案内が終わり茶の間に移動して座布団に座る。

獣人の姿になったメリトラがお茶を淹れてくれた。

熱い緑茶にほっとする。


「部屋の案内を以上です。」

「広かった!」

「掃除が大変そう。」

「住みたい。」

「本当にこんな広い家を自由に使っていいの?」

「はい。」

「そっか。」


ヴィトラジャート様ありがとうございますと心の中で感謝する。


「次にこのアイテムの機能を説明したいと思いますが、いいでしょうか?それとも食事にしますか?お風呂に入りますか?」


え?ここであの台詞が?!


「どうしますか?」


ごんと音を立てテーブルに手を伸ばして倒れ込む。


そこは最後に「それともわ・た・し?」じゃないのかっ?!


「ど、どうしましたか?」

「どうしたの?!お姉ちゃん?」

「大丈夫?」


額を擦りながらメリトラに聞く。


「……いや、なんでもないよ。えーっと機能って床暖とか?」

「何もないなら良かったです。温度調整がありますので床暖房はありません。暑いですか?寒いですか?」

「俺はちょうど良いよ。皆は?」


皆もちょうど良いと答えた。

俺は部屋を見渡しあるものがないことに気がつく。


「エアコンがあるように見えないけど?」

「エアコンはありません。スキルです。このアイテム内の中は温度調整のスキルで平均温度になっています。」


「おお!スキルか!さすがファンタジー世界だ。機能ってスキルのことか。」


イルとアニーが首を傾げ、マルルちゃんがじぃーっと見ていることに気が付かなかった。


「他にはどんなスキルがあるの?」

「登録認証スキルと結界スキルはわかりますよね。」

「あー。ヒョウカが押していたのが結界で、許可を出したのが登録認証スキルか。」

「その通りです。他には不壊スキル、形状変化スキル、状態保存スキル、収納スキル、洗浄スキル、疲労魔力回復速度上昇スキル、快眠スキルがあります。」

「たくさんあるんだね。名前でなんとなくわかるけど、詳しくスキルを教えてもらってもいい?」

「はい、もちろんです。」


メリトラにスキルの説明をしてもらった。


・登録認証スキル

登録している者だけがそのアイテムを使える。登録するには所有者が許可を出せば登録できる。登録者以外が使おうとしてもアイテムの効果、スキルが発揮しない。


・結界スキル

物理的魔法的なものを防ぐ壁。壁を見えなくしたりこのテントを見えなくしたり、触れると麻痺や毒など状態異常を付与、攻撃をしたものに反撃魔法をという設定ができる。登録認証スキルと連動していて登録者以外に設定した効果が発揮するようにできる。不壊スキルとも連動していて不壊の結界となっている。


今の設定は所有者と登録者以外入れない、不壊の見えない壁となっているようだ。


・不壊スキル

壊れない壊せない。


・形状変化スキル

動植物以外に変化できる。テントを家や馬車などにできる。中の平屋も二階建てやマンションなどに変化できる。


環境変化スキル

平原、森林、山、海など様々な地形、環境、季節へ変化できる。形状変化スキルと連動していて自由度が上がっている。


状態保存スキル

その状態を保つ。ウエイトポーチの収納スキルと連動している。ポーチに収納、食料庫の中にに素材を置いたらスキルが自動に発動する。ポーチ、食料庫から出すと状態の時間が進む。


収納スキル

異空間に収納できる。ポーチの入口から異空間になっている。状態保存スキルと連動している。


・洗浄スキル

汚れを落とす。


・疲労魔力回復速度上昇スキル

のんびりしている時、睡眠時の回復速度が上昇する。


・快眠スキル

良い眠りを得られる。睡眠時の疲労魔力の回復速度が上昇する。疲労魔力回復速度上昇スキルと連動していて効果がぐぅーんと上がっている。


・が付いたスキルはウエイトポーチにも(というより俺の持ち物、着ている服にも)付与されていることを教えてもらった。


「持ち運べる変形できる家ってことだよね?」

「そうですね。」

「おお。しかも環境も変えられるって凄くないか?」

「さすが神器。」


本当に今更だけど、結構秘密にしていないといけない話に普通に混ざっているマルルちゃん。


「この家好き!」

「大きい家じゃなくていいのか?」

「お爺ちゃんの家より大きいから良い!」

「そっか。イルはどう?」


イルが不安そうな表情で言う。


「えーっと、私達も住んでいいの?」

「当たり前だろ!家族だからいいの!長女で持ち主のルドアが許可します!」

「あ、ありがとう、お姉ちゃん。」

「ありがとう!ルドアお姉ちゃん!」


イルが照れ臭そうに、アニーが嬉しそうに言った。


「変形できるみたいだけど当分はこの平屋で暮らそうな。ヒョウカも縁側で気持ち良さそうに寝てたし。」

「はい!」

「うん!」


家賃要らずでこんな家に住めるなんて、神様に感謝、感謝、大感謝の念を送らなければ!

ヴィトラジャート様、ありがとうございます!


ーーーーー

あとがき

猫9匹は27日22:22に公開します。

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