猫6匹 猫と猫人少女の戯れは癒し
イルとアニー、ヒョウカと姉妹で家族になって、家族を守ると決意して歩き続けること約二時間。
有名テーマパークに友達親子と一緒に行った時、友達の子供(三歳くらいだったかな?)を抱っこしたことを思い出した。
抱っこを慣れていなかったこともあると思うが待ち時間の数分で疲れたのを覚えている。
我慢したけど……
自分以上に抱っこし続ける友達夫婦は凄いなと思った。
イルをお姫様抱っこして、そのイルのお腹の上で丸くなっているヒョウカ、アニーを肩車して歩き続けること約二時間。
腕と足に疲れを全く感じていない。
確実にあの時より倍以上の重さあるのにも関わらずにだ。
この疲れ知らずの素晴らしい獣人の身体に作り変えてくれた女神様イルドアニーマ様に感謝の念を送りつつ、獣人の身体能力を試したくなった。
「アニー、ヒョウカ、ちょっと走りたいから落ちないように気を付けてね。」
「はーい。」
「……」
アニーが身体に力を入れたのはわかった。
ヒョウカは変わらずイルにお腹で丸くなっているままだが、耳がぴくっと動いたから聞こえたと思うし、イルのお腹を尻尾の先でぺちんぺちんと叩いて返事をしたと思われる。
反応したからいいか……
ゆっくりと走り始める。
お姫様抱っこに肩車をしながらでも余裕で走れている。
アニーとヒョウカが落ちないか大丈夫か気にしながら徐々に速度を上げていく。
「わあああああ!はやいはやい!ルドアお姉ちゃん凄い!」
アニーが興奮しているのかアニーの尻尾が背中を叩きまくる。
アニー、まだまだ速くなるぜ!とアニーにつられテンションが上がり、走る速度も上がる。
「はっやあああああああい!」
「あっはっはっはっ、凄いだろおおお!」
「凄いよおおおおおお。」
自慢気に言いながらも、自身の身体能力に驚いていた。
アニーのテンションにつられているのもあるが、速く走れることがこんなにも楽しいことだとは思わなかった。
猫アレルギーの耐性は付けてもらったわ、ヒョウカやイルとアニーに出会って家族になれるわ、異世界に来て、良かった……
イルドアニーマ様、ヴィトラジャート様、数時間しか経ってませんが、とても幸せです楽しいです。ありがとうございます。
疲れ知らずのアニーとたまにヒョウカが下りて一緒に楽しみながら走ること約一時間。
結構遠くだが前方に人三人と馬車?を視界に捉えた。
たぶんイルとアニーが乗っていた乗合馬車だろう。
まさか、追いつくとは思ってもなかった。
しかも約一時間、走り続けたが未だに疲れを感じない。
この身体、凄すぎでしょ。
というかここまで大声で話したり色んな動きをしていたのに(もちろん落とさないように気をつけていたけど)、イルが全く起きる気配がないことに驚きなんだが……
こんなに寝れるんだったら夜行バスでもぐっすりできるんだろうなと羨ましいと思った。
ゆっくりと走る速度を落としていき、走るのを止めて歩く。
「どうしたの?」「(どうしたの?)」
「馬車が見えたからどうしようかと思ってね。」
「え?馬車?」「(殺す?)」
「いやいや、ヒョウカ。殺さないよ。殴りたいけど……たぶんアニー達が乗っていた馬車だと思う。」
「うーん……。」
アニーが身体を前に出して遠くを見ようとする。
「見えないよ?」
アニーの行動で俺の猫耳がアニーの身体に潰され聞きづらかった。
頭に力を入れ後ろに倒してアニーを定位置に戻す。
耳が立ってぴくぴっくと動いたのを感じた。
猫がするようなことを自分がしてちょっと幸福を浸った。
「……見えないか。馬車の左右と後ろに自由組合員がいるよ。」
「(イルとアニーの匂いがする。アニーに付いてた臭いもする。)」
「じゃあ、当たりか。」
走って二人を馬車に乗せてもらうかこのまま歩くか……それとも追い抜くか?
うーん。
子供を囮にするクズ野郎だから再会したら絡んでくるだろうな。
今日中に町に着ける距離なら追い抜くんだけどな。
野宿をするのなら集団の方がいいかもしれないけど、クズ野郎がいるからなー。
「ん、ん?」
タイミングよく、イルが目を擦りながら起きた。
「起きたか?」
「え?」
イルが俺の顔を見て固まり、段々と顔が赤くなる。
「お、お、お、」
「お?」
「下ろしてください!」
イルにそう言われたので立ち止まり下ろす。
イルは猫耳をぺたんと倒し両手で顔を覆いしゃがむ。
「恥ずかしい……」
「お姉ちゃんは甘えてられて、安心してもらえて嬉しいぞ。」
可愛いイルの頭を撫でる。
「うう……」
「(アニーの足舐める。)」
「アニー、ヒョウカが足を舐めるって。」
「はーい。」
ウエストポーチからレジャーシートを出して広げ、アニーに降りてもらう。
ヒョウカがアニーの足をペロペロと舐める。
「イル、馬車が見えたんだが、どうする?」
「?」
イルが首を傾げる。
尻尾が傾げた方へ垂れ尻尾の先がゆらーゆらーっとゆっくり動いている。
猫耳少女の首を傾げる仕草、可愛いぞ!
破壊力ありすぎだろっ!
「……イル達の乗っていた馬車に追いついたんだよ。どうする?」
「追いついた?え?!馬車に追いついたの?!え?私どんだけ眠っていたの?!」
今度は耳も尻尾もぴんと立てて驚いている。
尻尾の毛が少し逆立って膨らんでいる。
あぁ、驚いた猫もこんな風にたぬきみたくなったな。
癒されながら答える。
「三時間くらいかな?」
「三時間も?!いや歩いて三時間で追いつく?!あ!野営地に着いたんですね!あれ?」
イルはきょろきょろと周りを見て首を傾げる。
尻尾がまただらんと垂れる。
「野営地じゃない。馬車はどこ?」
「先の方に見えるよ。」
「え?んーーん、見えません。」
イルが目を細めて俺が指した方向を見た。
「こっちは止まってあっちは進んでるからね。米粒くらいに小さく見えるね。あーあと、ずっと歩いてたわけじゃなく一時間くらいは走ってたら追いついたんだ。」
「走った?」
イルは俺の顔を見て首を傾げる。
「うん。」
「お姉ちゃん!ルドアお姉ちゃんすっごく走るの速いんだよ!馬車より速いんだよ!」
「馬車より速い?」
イルが今度はアニーを見て首を傾げる。
「ヒョーカも同じくらい速いんだよ!」
「うん。それはわかる。」
イルがアニーの言葉に頷く。
「右に左に動きながらでも後ろを向きながらでもすっごい速いんだよ!」
「え?なんでそんな走りを?」
イルが俺の方を見て、意味がわからないと籠った質問をしてきた。
「ちょっと身体を動かしたくてね。」
「……そうですか。でも本当に馬車より速いのなら、追いつくのも納得ですが。」
「あ!お姉ちゃん!アニーの言ってること信じてないでしょ?!本当にルドアお姉ちゃんは馬車より速いんだよ!」
アニーが頬を膨らませている。
尻尾をぺちんぺちんと大きく振ってレジャーシートを叩いている。
やばい、アニーも可愛い。
「信じてないわけじゃないけど……」
「まぁ馬車より速いかわからないけど、結構な速さは出てたと思うよ。んで馬車に追いつきそうなんだけど、どうする?」
「どうするって?」
さっき思ったことを言う。
イルは少し考える。
「あんなことをする人達と一緒に行動したくないけど、馬車に荷物があるから……そ、それにお、お姉ちゃんの負担にはなりたくないから、一日だけだから我慢する。」
俺の負担ってなんだ?
「我慢しなくていいんだけど。」
あ、そうか。
普通荷物を持っているよな。
無理矢理下ろされたから何も持っていなかったわけだな。
オークから助かったとしても一文無しで生活も大変苦労しただろうな。
まじクズ野郎達だな!
「じゃあ荷物を回収するため追いかけるか。ヒョウカ、アニーの足どう?」
アニーへのペロペロを終え、毛繕いしていたヒョウカに聞いた。
「(歩ける、走るのダメ。)」
「激しい動きはダメってことだね?」
「(そう。次で終わる。)」
「ルドアお姉ちゃん、ヒョーカはなんて言ってるの?」
「歩けるようになったけど、走ったり激しい動きは駄目だって。また時間を空けて舐めれば治るって言ってるよ。」
「凄いねヒョーカ。ありがとう。」
「ひょ、ヒョーカありがとう。」
アニーは毛繕いしているヒョーカの頭を撫でる。
イルはぎこちなくヒョーカを撫でる。
「にゃあ。」
ゴロロロゴロロロ。
あぁ、猫達の戯れをこんな近くで見れるなんて、しあわせだぁ。
舐めると疲れると言っていたから、少し休憩することにした。
ポーチから水筒、おやつに煮干し入の木の器を二つ出す。
片方を空にして水を入れヒョウカの前に置く。
「小さい魚美味しい!」
「美味しいです。」
「(美味しい。)」
「それは良かった。」
美味しそうに食べて尻尾をゆらゆらゆっくりと左右に振るイル、アニー、ヒョウカを見て和む。
はぁ、こっちに来て良かった。
視界がぼやけずしっかりと見れる。
はぁ、いやされるわー。
ゴロロロ、ゴロロロ、ゴロロロ。
そんな幸せな休憩時間が終わりがくる。
お前は誰だ?と聞かれたら姉です。と私達は三姉妹。
私は用事があって後から追いかけてきた。
オークは私と一緒に来た方々が追い払ってくれた。
その人達は町に戻って報告しに行った。
ヒョウカのことを聞かれたら、生まれたてのヒョウカが家の前にいて私が生まれた時から一緒に育ったという設定にしよう。とイル達に伝えた。
「わかったー。」
「はい。」
「(わかった。)」
「じゃあ追いかけるか。」
出発しようとして問題が発生した。
イルが恥ずかしがってお姫様抱っこを拒否したのだ。
「じゃあわたしがお姫様抱っこしてもらう!お姉ちゃんは肩車。」
「か、肩車……ううう……肩車の方が、恥ずかしいから、お姫様抱っこで、お願い、します。」
「アニーいい?」
「いいよ。でも今度お姫様抱っこしてほしい。」
「あ、追いつく手前で、下ろして、ください。」
アニーを肩車して、顔を赤く染めているイルをお姫様抱っこする。
「りょーかい。じゃあ行くよ。」
休憩している間に見えなくなった馬車に追いつくべく、俺はゆっくりと走り出して速度を上げていった。
ヒョウカは運動タイムのようで一緒に走っている。
「わああああああ。」
「きゃあああああ。」
上から歓声、下から悲鳴が聞こえる。
アニーはジェットコースターを楽しむ人がするように両手を離して手を上げて、尻尾は興奮を表すかのように激しく動いて背中をバシバシ叩いている。
イルは落ちないようにぎゅっと強く抱きついて、尻尾も俺の腕に巻きついている。
「お姉ちゃん!馬車より速いでしょ!」
「う、うん、は、速いね。」
「お姉ちゃんもヒョーカも凄いでしょ!」
「凄いけど、怖い。」
「えええ?楽しいよ!」
イルとアニーのやり取りが面白い。
「お?馬車が止まっているな。」
「まだ見えないよー。」
「な、何かあったのでしょうか?」
「んー。乗客?が降りているね。あと左側にも止まっている馬車があるな。」
「それなら野営地かも、しれません。」
「あー。テントが張ってあるな。」
正確には左側の馬車の方にテントが張ってある。
イル達が乗っていた馬車の方は今テントを張っている。
「歩いてでも追いつくな。」
「じゃ、じゃあ下ろしてください。見られる前に。見られる前に!」
「わかった。アニーはどうする?」
「このままがいい!」
「わかった。イル、疲れたら抱っこするから言うんだよ。」
「だ、大丈夫です!」
顔が赤いイルを下ろして、「お爺ちゃんが美味しいと言ったお肉屋さんに行きたい。」とか「オークを売ったらお金持ち?」とかお喋りをしながら歩くこと約一時間、野営地に到着した。
全員が驚いた顔をした。
馭者と乗客達はイルとアニーが生きていたことに安堵したような表情を浮かべ、自由組合員の三人は固い表情を浮かべこそこそ話している。
「おい、生きてるぞ。」
「なんで生きてるんだ?」
「わからん。どうする?」
「どうするって?」
「あいつらが街に行ったら俺達のやったことがバレるぞ。」
ちらっと三人の方を見るとその内の一人と目が合ってしまった。
声が小さくなり聞こえなくなってしまった。
あぁ、失敗した……
何かしてくる可能性があるのはわかったから注意しておこう。
「ルドアお姉ちゃん、荷物あったよ。」
「何も盗まれれないか?」
「わかんない。」
「確認してみます。」
イルとアニーが馬車から袋を持ってきた。
中の物をそのまま地面に置こうとしたからレジャーシートを広げ、その上で確認させる。
その間俺は馬の世話をしている馭者(たぶん)に話しかける。
「こんにちは。」
「こ、こんにちは。あの子達のお姉さんですか?」
「そうです。」
「本当に、本当に無事でよかった。」
「ええ。間に合ってよかったです。その、途中で下ろされたみたいですけど、また街まで乗ることってできますか?」
「できます。乗ってください。お姉さんも一緒に遠慮なく乗ってください。」
「ありがとうございます。でも、私はあの三人と一緒に歩きます。」
「え?あ、あの三人とですか……」
「はい。心配しなくても大丈夫ですよ。
俺の頭の上でぐでーんと伸びているヒョウカを見て首を傾げ、私そしてもう一度ヒョウカを見て目を大きく開く。
「そ、それは、は、ハン?!」
馭者が大声で叫ぶようにヒョウカの正体を言うところ、馭者の口に手をあてる。
「だから大丈夫です。」
にっこりと笑うと馭者はこくこくと首を縦に振る。
「よろしくお願いしますね。」
首振り人形化した馭者から離れ、イルとアニーのところに戻り馭者との話を伝える。
ちなみに荷物は盗まれたものもなく無事だったようだ。
「えールドアお姉ちゃんの肩車の方がいいー。」
「こらアニー、我が儘言わないの!」
「イルいいんだ。相談もしないで決めて悪かったな。」
頬を膨らませ不満気味に尻尾を振るアニーの頭を撫でる。
「また今度するから。」
「わかった。」
尻尾がゆらーゆらーっと振られ、不満がなくなったように見える。
「アデタロールだっけか?あっちに行く自由組合員達にオークが出たことを伝えに行こう。」
「一緒に行く!」
「一緒に行きます。」
「にゃ。」
「うん、当然一緒に行ってもらうよ。」
残してクズ野郎共に何かされるかわからないからな。
ーーーーー
あとがき
近況ノート16、17ページ目にAI イラスト(無料版)ランダム作成で出来たルドア、イルとアニー似の絵を添付してあります。
ちょくちょく修正している絵をツイッターにアップしています(したいと思っている)(したいと思っていた。)(最近描いていません)。
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