猫5匹 猫のペロペロは凄い
アニーちゃんのズボンの裾をあげ踏まれた足を見ると足首が赤く腫れていた。
踏んだヤツに怒りが沸騰しそうになって深呼吸する。
「……触ってもいい?」
「うん。」
腫れている足首に優しくそっと触れる。
熱いな。
これは歩くことは難しいし歩いたら悪化するな。
おんぶするか。
「いたっ。」
アニーちゃんが痛みに顔を歪める。
「ごめん。」
「(痛そう。)ペロペロ」
ヒョウカがアニーちゃんの腫れている足首をペロペロと舐める。
「きゃあ?!ヒョウカ、く、くすぐったいよ。」
「こら、ヒョウカ。舐めるの止めな。」
「(もう少し。)」
ヒョウカを注意するが、人の言葉が分かる賢いヒョウカがなんの理由もなく怪我をしているところを舐めることには何か理由があるんじゃないかと思った。
もう少しと言うのでヒョウカが舐めているところをじっと見ていると赤さ、腫れが若干治まったように見えた。
ヒョウカが舐めるのを止める。
「あれ?さっきより痛くない?」
「(まだ治ってない。また舐める。)」
アニーちゃんは不思議そうに首を傾げゆっくりと足首を動かした。
再度足首を見るとやっぱり赤みと腫れが舐める前より引いていた。
「ヒョウカ、どういうこと?」
「(舐めると早く治る。)」
「マジ?」
「(マジ。)」
実際腫れが引いているんだから本当のことなんだろう。
猫のペロペロ凄いな!
「もっと舐めたら早く治るんじゃないか?」
「(ヒョーカもアニーも疲れる。だから、時間経ったらまた舐める。)」
アニーちゃんも疲れる?
どういうことだろう?
あ。
あれか?
体力とか何かしら消費するからだろうか?
「お姉ちゃん?ヒョーカの言ってること分かるの?」
「うん。分かるよ。」
「なんて言ってるの?」
「ヒョウカが舐めるとその怪我が早く治るって、時間経ったらまた舐めるって言ってるよ。」
「凄い!だからさっきより痛くなくなったんだね!ヒョーカありがとう!」
アニーちゃんはヒョウカにお礼を言い撫でる。
ヒョウカは喉をゴロロロゴロロロと鳴らす。
可愛い少女と可愛い猫の戯れ……
良い、すごく良い。
最高だ!
「ヒョウカさん、ありがとうございます。」
「にゃ。」
ヒョウカはお礼を言うイルちゃんを見て鳴いてからオークに向かっていく。
「(魔石、食べていい?)」
「魔石?食べる?」
「あっ!解体しますか?」
「ヒョウカちょっと待ってね。えーっと、イルちゃん、あれ、解体できるの?」
「にゃ。」
「何度か解体したことがあるのでできます。」
中学生くらいの女の子が、凄いな……
「マジか。イルちゃん、凄いね。」
「そんなことないです。解体屋や肉屋などに比べれば査定が低くなってしまうので申し訳ないです。でも!丁寧にできるだけ多く運搬しますので!」
「いやいや解体できるだけ凄いと思うよ。本当に。」
解体屋か……
あ、ポーチに入れば、ここで解体する必要もなくなるな。
イルちゃんに面倒をかけなくていいし、ヒョウカが治ると言ったが念のためアニーちゃんを町の病院に早く連れていきたい。
「入ってくれよ。」と願い俺はテントを入れたようにポーチの入口に手を触れながら片方の手でオークを触れて収納と念じる。
オークがウエストポーチの中にしゅぽんと入っていった。
「消えた?!」
「わあ!?」
他二体も同様に試したらウエストポーチの中に入っていった。
「(腰のやつに入れたの?)」
「ヒョウカ、その通り。魔石?は町に着いてからでもいい?」
「(大丈夫。)」
「あの。」
「お姉ちゃん、オーク消えちゃったよ。」
「このポーチに入れば楽できるなと思ってね。」
ウエストポーチをポンポンと叩く。
「全部入れられて良かったよ。」
「わああ。すっごい袋だね!」
「そ、それって収納袋ですか!?お姉さん……何者なの?」
またイルちゃんが目を見開き呟いている。
その間に一応棍棒も試すとポーチに入った。
「どのくらいの量が入るのだろうか?まさか無限だったりして……」とポーチの収納量に期待しつつ、この場でやることがなくなったから、アニーちゃんの目の前で背を向けてしゃがむ。
背中越しにアニーちゃんを見ると不思議そうに首を傾げていた。
可愛いなぁ。
「どうしたの?」
「その足だと歩くの辛いでしょ?治るまで、町までおんぶするよ。」
「え?あ、え。」
アニーちゃんが戸惑い、イルちゃんを見る。
「わ、私がおんぶするので大丈夫です!」
「町まで移動できる?」
「う……」
「それに君は疲れているだろ?ここは大人に甘えなさい。」
イルちゃんが俺をじっと見つめてくる。
「……ありがとうございます。アニーをよろしくお願いします。」
「お姉ちゃんありがとう。よろしくおねがいします。」
アニーちゃんをおんぶして歩き始めた。
無言で進む一行。
歩き始めて十数分、イルちゃんがなぜか進むにつれてそわそわしていた。
トイレかな?
イルちゃんが俺の前に立ち、意を決したような表情を浮かべて声をあげた。
「あ、あの、お姉さん!」
「どうしたの?」
「お姉さんはアデタロールに行くんですか?」
「イルちゃん達が行く町はアデタロールっていう町なんだね。俺はイルちゃん達が行く町に行くよ。」
「えーっと、私達が向かう町はタロザリンドです。」
「お爺ちゃんが言っていたタロザリンドに行くの!」
「そうなんだ。目的地はタロザリンドって町なのね。」
「そ、それで、あの。」
「お姉ちゃん、タロザリンドはあっちだよ。」
アニーちゃんが歩いていた反対の先を指差す。
俺は「まじか……」と漏らし、イルちゃんを見る。
「その、はい。向かっていた街、タロザリンドはあっちです。」
イルちゃんが申し訳なさそうな表情でアニーちゃんと同じ方向に手を向けた。
「ご、ごめん。行き先を確認しなきゃいけなかったね。」
「い、いえ、私も早く言えばよかったんです。すみません。」
「いや、俺が悪いよ。ごめんね。」
「い、いえ……」
なるほど……
助けてくれた人が向かう町じゃない方へ歩いていたから、言い辛いけど勇気を出して言ったんだな。
確認しなかった俺が悪いのに、イルちゃんが申し訳なさそうな表情をすることはないのにな。
「イルちゃん、ごめんね。」ともう一度謝り、Uターンしてイルちゃん達の目的地タロザリンドに向かって歩く。
無言で進むなか、短い時間だがk自身の身体に意識が向く。
この身体、獣人?の力って凄い。
速く駆けれ、重そうなオークも軽々と持てて、アニーちゃんを軽く感じ、おんぶしながら歩いていても疲れを感じない。
懐かないというハンターキャットのヒョウカもすぐ懐いたし、最高の身体だな。
収納袋?も防具なども持たせてくれた神様に何度目かの感謝の念を送る。
イルドアニーマ様、ヴィトラジャート様、ありがとうございます。
あ、害悪のオークを殺す覚悟ができ、殺した嫌悪感を感じないのも神様の計らいで精神に何かしらしてくれたのかな?
まぁ、違っても、イルちゃん達のことを守ることができることに繋がったからいいか。
快楽殺人鬼のように殺すことに快楽を感じるわけじゃないからいいよな。
いいよ、な?
猫を、子供を、猫の人族を守れるんだからいい!
うん!いいことにしよう!
「ちゃん、お姉ちゃん。」
「ん?どうした?」
「お姉ちゃんの名前教えてって何度も言ったんだよ。疲れちゃった?」
「大丈夫、疲れてないよ。そういえば言ってなかったね。俺の名前は……」
あれ?
名前が思い出せない。
名前を思い出そうと足が止まってしまう。
「俺の名前は……」
「お姉ちゃんの名前は?」
うん。思い出せないな。
神様に名乗っていたのは覚えている。
前世の人生は思い出せる。
でも名前だけが思い出せない。
まぁ、この女体ベースの身体で前世の男の名前だと変だから、思い出せなくてもいいが……名前、なんて答えよう。
「うーん。」
「お姉ちゃん?」「お姉さん?」
「イルちゃんとアニーちゃんの名前ってイルドアニーマ様から?」
「はい。そうです。」
「似ているからぴったりな名前だね。」
「そうなの?えへへ。嬉しいね、お姉ちゃん。」
「……」
二人はイルドアニーマ様と同じ黒髪で猫耳尻尾がある。
ちなみにイルちゃんは綺麗系でアニーちゃんは可愛い系だ。
俺も同じ黒髪で猫尻尾、猫耳も二人と一緒のはず。
イルドアニーマ様から貰うか……
イルド、イルドア、ルドア、ルドアニ、アニーマ━━
ニーマ、ニア、ニル、アイ、ルイ━━
イーマ、ルーア、ルーニ、ルーマ、ドーマ━━
ルドア、ルイ、ルーマ━━
心の中で思いつく候補を言い、候補を絞っていき、数回口ずさむ。
これだなと思った名前を彼女らに言う。
「
「ルドアさん……」
「ルドアお姉ちゃん。ルドアお姉ちゃんもイルドアニーマ様から?」
「そうだよ。」
「一緒だね!うふふ。」
「……一緒。」
アニーちゃんが顔をすりすりと擦り付けてくる。
お返しに俺も頭を動かし擦り返すとアニーちゃんが「きゃっきゃ」と楽しげな声を上げる。
可愛いねぇ、癒されるねぇ。
弾む気持ちで自然と一歩二歩と足が前へ出る。
「タロザリンドまではどのくらいで着くのかな?」
「わかんない!」
「……馬車に乗っている時に途中でもう一回野宿して、次の日の昼頃にタロザリンドに着くと聞きました。歩くと三日くらいでしょうか。」
「歩くと三日か。途中で泊まれるようなホテルとかあるかな?」
「ほてる?」
「あー、宿?」
「宿ですね。タロザリンドに着くまでありません。」
「パーキングエリアや道の駅、じゃ伝わらないか。休憩場みたいな場所はないかな?」
「? 休憩場なら野宿するところがそうなってます。」
野宿するところってキャンプ場みたいなものか?
「食べ物買えるかな?」
「食べ物を運んでいる商人がいれば、ですね。」
「にゃー(オーク食べればいい。)」
「あ、そっか。じゃあ、あとでイルちゃんにオークの解体をしてもらうかな。」
「はい!頑張ります!」
「(魔石、忘れないで。)」
「うん。イルちゃんその時魔石もお願いね。というか解体の仕方を教えてほしいな。」
「頑張ります!」
「ありがとう。そういえば角兎やゴブリン?しか出ない森でオークが出たって事は何か異常が起こってるってことなのかな?」
「わかりません。」
「まぁ町に着いたら報告だな。あと踏んだ自由組合員の顔は覚えている?」
「怖い顔していた!」
「見れば分かると思います。見つけたらどうするんですか?」
「そりゃあ護衛対象を囮にしたんだから報告だな。子供を囮にするクズ野郎には罰則などしっかり受けてもらいたいからな。あと一発は殴りたい。」
子供を、猫獣人を囮にしたクズ野郎にまた怒りが溢れてきそうになるが、怯えさせないように深呼吸して自分を落ち着かせる。
「タロザリンドには何しに行くんだ?」
「タロザリンドで暮らすの!村より良いんだってお爺ちゃんが言ってた!」
「二人でか?そのお爺ちゃんは?親戚とかと一緒にか?」
「……亡くなりました。二人でです。」
両親も親戚もいないのか……
イルちゃんはまだ中学生くらい、アニーちゃんは小学1~3年生くらいだよな?
二人で引っ越しって……
村の人達は助けてくれなかったのか?
俺が生まれた村では━━
「大きな家に住むの!」
「大きな家に住まないわよ。」
「えー。」
「仕事が見つかるまでお金を節約しないと、ぼろぼろの家に住むことになるけど、アニーはそれでもいいの?」
「ぼろぼろの家は嫌!せつやくする!」
横を歩いていたイルちゃんが突然立ち止まり、頭を深く下げる。
「……ルドアさん、助けていただいた報酬とタロザリンドまでの護衛の報酬は必ず払います。だから奴隷にだけはしないでください!」
「えっ?ど、奴隷?!なに突然?!奴隷なんてしないから!そんなことは絶対にしないから!」
「ありがとうございます。」
「あと報酬なんてことも考えてもなかったよ。」
「え?」
「子供を助けることなんて当然だからね。」
うーん、報酬ねぇ……
油断しているところを奇襲できたから無傷で斃せたわけだからなぁ……
お、これでいいじゃないか。
「オークは売れるんだよね?」
「え?あ、はい。」
「オークを斃せたのはイルちゃんとアニーちゃんが気を引かせてくれたから、奇襲が成功して無傷で斃せました。」
「え?」
イルちゃんがぽかんとしている。
「というわけでオークの売れた金額は三人で分けます。」
「え?」
イルちゃんはまた同じ表情をしている。
「お金貰えるの?」
「うん。」
「え?」
イルちゃんはまだぽかんとしている。
「やったー。ありがとう!」
アニーちゃんが喜び声を上げ、ぎゅっと抱きつきお礼を言ってきた。
「あとタロザリンドまでの護衛の報酬はそこから引かせてもらうね。」
「え?」
「はーい。」
「ちょ、ルドアさんっ?」
ぽかんとしていたアニーちゃんが複雑な表情を浮かべながら声をかけてきた。
「なに?イルちゃん。」
「……なんで私達がオークの売却金を貰えるんですか?」
「二人がオークを気を引かせてくれたからだよ。」
「それはさっき聞きました!気を引いてなんてない!ただ囮にされて逃げれなかっただけです!なんで私達半端者を!赤の他人にそこまでしてくれるんですか?!」
イルちゃんが涙を流しながら大声で続ける。
「甘えてはダメなんです!私がアニーを守らないといけないんです!」
……そっか。
イルちゃんは不安なんだろうな。
両親が亡くなっていて、お爺ちゃんも亡くなり、妹と引っ越し。
苦労させないか?
仕事は見つかるだろうか?
私はお姉ちゃん、泣いてはダメ、私がしっかりしないと、私は━━、私が━━と不安や我慢をいっぱいしているんだろうな。
親も親戚がいなくて頼れる大人がいない…………
それにオークに襲われた恐怖もあっただろう。
俺にはオークを斃す力がある。
イルちゃんとアニーちゃんをなぜか赤の他人とも思えない。
よし!
決めたぞ!
今度は俺が!
私は泣いているイルちゃんを抱きしめる。
イルちゃんがびくっと身体を震わせるがぎゅっと抱きしめる。
アニーちゃんが手を伸ばしイルちゃんの頭を撫でる。
「!?」
「今から私がイルちゃんとアニーちゃんを守るよ。」
「お姉ちゃん、わたしも頑張るよ!」
「……」
抱きしめをやめて、イルちゃんの潤んでいる目を見て決意したことをイルちゃんとアニーちゃんに言う。
「そして……家族になろう!」
「はいっ?!」
アニーちゃんが泣き顔で驚いた顔をする。
「家族?」
「そうだ!これから私はイルちゃんとアニーちゃんのお姉ちゃんだ!」
「はぁ?!」
「ルドアお姉ちゃんが私達のお姉ちゃん?」
「そう!私が長女、イルが次女、アニーが三女の三姉妹。」
「(ヒョーカは?)」
「ヒョウカは……ヒョウカも妹?かな?」
「(家族、妹のイルとアニー守る。)」
俺は小さいから末っ子かなと思ったけど、ヒョウカは俺の妹でイル達の姉と思ったようだ。
「うん。一緒に守ろう。」
俺は泣き顔で驚いているイルの目を見て言う。
「お姉ちゃんなら甘えられるだろ?妹なら助けてもいいだろ?家族ならお小遣いを渡してもいいだろ?」
「……」
「ルドアお姉ちゃんが私達のお姉ちゃん……ルドアお姉ちゃん……ルドアお姉ちゃん!」
アニーちゃんが嬉しいのか腕に力が入る。
俺の首がぎゅっと締めつけられる。
「……ルドア、さんが……お姉ちゃん?」
アニーちゃんが顔を擦り付けながら「ルドアお姉ちゃん」と連呼している。
イルちゃんが涙目で俺をじっと見つめる。
「……なんで?」
「俺がそうしたいから。」
「……」
イルちゃんが涙目で俺をじっと見つめるのを俺は逸らさず見る。
「……ほ、本当に、家族に、お姉ちゃんに、なってくれるんですか?」
「ああ!」
「……捨て、ないですか?」
捨てるっ?!
なんでそんなこと言うのっ?!
「そんなことは絶対しない!」
「……ルドア、お姉ちゃん。」
「なに?」
「ルドアお姉ちゃん!うわああああああああああん。」
イルが抱きついてきて泣き叫ぶ。
アニーがイルの頭をよしよしと撫で、俺は背中をトントンと優しく叩く。
「……」
泣き止み落ち着いたと思ったらイルが寝息を立て、安心した表情で眠っていた。
「どうするか。」
「(休憩?)」
「いや、アニーの足に、オークが駄目になるかもしれないから、少しでも進みたいんだよね。」
「お姫様抱っこしたら?」
「それだとアニーを支えられなくなるからな。」
「じゃあ肩車してほしい!」
「うーん、それなら大丈夫か?」
「うん!」
ということでアニーを肩車、イルをお姫様抱っこする。
するとヒョウカがイルのお腹に飛び乗って丸くなる。
「ヒョウカ、自分で歩きなよ。」
「(みんなくっついてずるい。)」
ゴロロロゴロロロ。
「しょうがないな。」
「ヒョーカは何て言ったの?」
「みんなくっついてずるいって。」
「ヒョーカは甘えん坊さんだねー。」
「そうだねー。」
「(……イルを守ってる!)」
「……そうだな。ありがとう。」
猫と猫の獣人との会話に幸せを感じ、安心した寝顔のイルを見てこの子達を、家族を守ろうと決意し歩き始める。
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