猫4匹 発見、第二、三異世界生き物も━━ +α

暫くヒョウカの尻尾の動きに癒されながら会話をして歩いていると「~~~~~」前方から悲鳴のような声が聞こえた気がした。


胸がざわついた。

「急いで行かなければならない」「早く行け」と本能か何かが訴えてくる。


橋の下で段ボールに入れられた産まれたばかりで二三日か放置されていた赤ちゃん猫が小さな、小さな声で途切れ途切れに「みゃー、みゃー」と鳴いていた時と同じような感じがした。

衰弱しきった赤ちゃん猫、あの日あの時見つけていなかったら手遅れだった。


俺が走り始めるとヒョウカも横について一緒に走る。

森の中を前世の身体では到底あり得ない速度で走っていた。


ぶつかりそうになる枝なんかもちゃんと視界に捉えていて避けて駆けていく。


「お姉ちゃん!わたしを置いて逃げて!」

「そんな事、できるわけ、ないでしょ!」

「ブヒブヒ。」「ブヒー。」「ブヒヒ。」


視覚より先に聴覚で捉えた。

二人の女の子の声、豚のような声が聞こえた。

急ぐ気持ちでさらに駆ける速度が上がった。


見えたっ!


開けた場所で二人の女の子と大男三人がいた。

尻餅を突いている小さな女の子の前にその子より年上の女の子が立ち大男達と対峙している。

年上の女の子の正面に豚顔の太った腰巻きだけをした大男三人が棍棒を持っていて、一人が下品に嗤いながら棍棒を振るっていて年上の女の子が避けている。


変態だ。


どう見ても犯罪に見えた。


「ヒョウカは落ち着くまで待ってて。」

「(わかった。)」


ヒョウカの返事を聞いてから、力を込めて女の子に棍棒を振っている大男に向かって駆ける。

また速度が上がった。

とんでもない速さで駆けるこの身体は凄いな!と驚きつつ狙いを定める。


「ブッヒ!?ブヒー!」


少し後ろにいた一人が俺に気付いて俺を指差した。


構わず女の子に棍棒を振っている一人に目掛け、全力疾走からの女の子達の後ろからジャンプ、彼女達の上を飛び越え、体勢をあの有名なライダーのキックに変えた。


女の子に棍棒を振っていたヤツは遅れて俺に気付き、棍棒で迎え撃とうと振るってくる。

棍棒が当たる前にスピードが乗った俺の飛び蹴りが相手の胸に入り、後ろにいた指差しをしていないもう一人を巻き込んで吹き飛ぶ。


飛び蹴りを食らわせたヤツは巻き込まれたヤツの少し前で、巻き込まれたヤツは木に当たって止まった。


吹っ飛びすぎじゃねっ!?

全力疾走からでも吹っ飛びすぎじゃねっ!?


後ろに倒れ込むくらいかと思っていたが、想像以上に吹き飛んで驚いてかたまる俺。


「「え?!」」「ブッヒ?!」


想像以上でゲームやアニメでしか見たこともない吹き飛び方に驚いたが「いや、でもあの速度ならこのくらいなるか。」と思い直していた俺は女の子達の声と豚声を聞いて、犯罪者がもう一人残っている事を思い出し、その一人に向かって走った。


そいつが慌てたように動き出し、近付いた俺に棍棒を振るってきた。

相手の棍棒の降り下ろしがゆっくりとした動きに見えた。

それを棍棒の軌道に入らぬよう一歩横に移動し避け後ろに回り相手の膝裏を蹴り、体勢を崩して下がった頭に再度素早く蹴りを繰り出した。


派手に地面へ倒れる犯罪者を数秒見て、吹き飛んだ二人の方も見て反応がない事を確認して一息吐いてから、女の子達の方へ振り返る。


女の子としか認識してなかったが、落ち着いてよく見たらイルドアニーマ様と同じ様な猫耳と尻尾があることに気が付く。


女の子達は目を見開き、猫耳と尻尾がピンっと立てていた。


おお!

今度はイルドアニーマ様と同じ?猫の人族に出会った!

こうも猫系統の種族に続けて出会えるなんて、なんて幸運なんだ!


良かった……

本当に、助けれて良かった……


しかし……

この娘達可愛いな!


にやけそうになる顔を制御して二人に声を掛ける。


「大丈夫?怪我はない?」

「「……」」


あれ?

返事がない。

もしかして表情を制御できなかったか?

ニヨニヨして不審者に見られたか?


不安になりながらも表情をより一層意識して声を掛ける。


「大丈夫?」

「「女神様。」」

「え?女神様?いやいや、あんな綺麗な女神様に失礼でしょ。」

「お姉さんも綺麗です。」「お姉ちゃんも綺麗だよ。」

「え?そんなに綺麗なのか?」

「はい。」「うん。」


やっぱりお姉さん、か。

しかも綺麗なのか………

元男としてはなんと言えばいいのか……

まぁ、顔が女性ってことがわかったな。


「にゃあ?(もういい?)」

「いいよ。」


落ち着いたのがわかったのかヒョウカが声をかけてきて、返事を聞くと森の境目から出てきた。


「あれは!」「猫ちゃん!」


年上の女の子が緊迫した声を、尻餅をついていた女の子が歓喜の声をあげた。


「なんでハンターキャットがっ!?お姉さん!お願いします!妹をつれて逃げてください!」


ヒョウカは気にせずゆっくりと近づいてくる。


「お願い、します。お姉さん、妹を、つれて、逃げて、ください。」


年上の女の子が身体を震わせながら俺達とヒョウカの間に立つ。


似ていたから姉妹だと思っていたけど、やっぱり姉妹か。


姉少女が震えながら立っている。

そんな姉少女の肩を優しくぽんぽんと叩きながらヒョウカの雰囲気からして問題ないと確信して言う。


「大丈夫だよ。」

「え?」

「にゃにゃお。(この子達も良い匂い。)」


ヒョウカは姉少女に身体を擦り付けた後妹少女にも同じことをする。

姉少女は擦り付けられた時びくっと身体を震わせた。

妹少女はヒョウカを撫で撫でしている。


「ほらね。」

「ハンターキャットが猫人族に……お姉さんの従魔ですか?」

「ヒョウカはハンターキャットっていう品種なんだね。猫人族って俺のことだよね?従魔ってあの従魔?テイマーとか魔物使いとかの?」

「中級の上位に入る魔物ですよ!動物じゃないです!しかも自分の種族も知らなかったですか?!どういう事ですか?!それに従魔って聞くということは従魔じゃないってこと?!」


「ヒョーカっていうんだねー。私はアニーだよ。よろしくね。」

「にゃっ。(よろしく。)」


妹少女がヒョウカの名前を聞いて自分の名前を名乗って、ヒョウカへ手を伸ばす。

ヒョウカは「にゃっ」と鳴いてから、その手に顔を擦り付けた。


「でも従魔じゃないハンターキャットがこんなに人に懐くなんて……というかハンターキャットを猫人族が従魔にできるなんて聞いたことがない……まさか、獣魔王?!」


姉少女が目を見開き俺を見て叫ぶように言った後、ヒョウカとアニーと名乗った妹少女を凝視しぶつぶつと呟いている。

アニーちゃんとヒョウカはほのぼのしている。

姉と妹の温度差が違いすぎて笑いそうになる。


獣人の身体になったからか神様に作り変えてもらったからか耳が良くなって姉が何を言っているか聞き取れた。


最初っからヒョウカは人懐っこかったけどな。

俺と同じ?猫人族のアニーちゃんにも普通に懐いているっぽいけど、でも姉少女の口振りからしたら懐くことは珍しいのかな?


やっぱりイルドアニーマ様に作り変えてもらった身体のおかげなのかな。

感謝するしかないな。

イルドアニーマ様ありがとうございます!


それから姉少女の独り言に気になる言葉があった。


魔王がいるのか。

凶悪じゃなければいいけど……

じゅう魔王か……獣魔王かな?

獣を配下にしている魔王かな?


「猫が一番好きだけど他の動物も好きだから、できれば獣魔王さんと仲良くなりたいな。」と思った。


犯罪者をもう一度確認し、静かになった姉少女に声をかける。


「アニーちゃんのお姉ちゃん?もう落ち着いたかな?」

「あっ、は、はい。あの、助けていただいたのにすぐに感謝もしないですみません。助けていただきありがとうございます。」

「お姉ちゃんを助けてくれてありがとう!」


姉少女が深々と頭を下げた。

アニーちゃんも座ったままで頭を下げた。


「犯罪者に目をつけられるなんて最悪だったね。」

「犯罪者?」「はんざいしゃ?」「(犯罪者?)」


姉少女、アニーちゃん、ヒョウカが同じく首を傾げた。


えっ?犯罪者じゃなかったのか?

でも助けてくれてって言ってたから良かったんだよな?


彼女達が首を傾げたことに少し混乱していると姉少女が口を開く。


「お姉さんが来なかったら私達はオークに酷い目に遭わされていました。」


おーく?


「私、イルと言います。この子は妹のアニーです。私達姉妹を助けていただきありがとうございます。オークの解体、運搬には私を使ってください。」


おーくって言ってるよね……

ファンタジー定番のオークのこと?


うん、倒れている犯罪者をよく見なくてもわかる。


豚顔だった。

鳴き声?言葉?会話っぽいのもブヒブヒだった。

小説、アニメやゲームの悪、敵役のオークに似ていた。


やっぱり女の敵なんだろうか?


「オークは……殺した方がいいの?」

「え?は、はい。可能であれば討伐した方がいいです。」

「……そっか。その理由って?」

「え?えーっと、人族の男女を繁殖のために拐って犯されるって。何度も孕ませられ、使えなくなったら食料にされるとお爺ちゃんが言ってました。」


男女?!

男もか……

オークってすげぇな。


だからか……

腰に巻いている布は何の為に巻いているかわからないくらいアレが隠せていない。

もうヤル気満々だったというわけか。


「あと獣人の女は体が丈夫で多産だから、しつこく襲ってくるから見つけたらすぐに逃げなさいとお爺ちゃんが言ってました。」


イルちゃんがこの世界では当たり前の事を聞いたからか困惑しながらも教えてくれた。


ここで躊躇すれば、二人に最悪な事が起こる可能性があるか……

ふぅ……

殺るしかないな。


「ちょっと待っててね。」


オークが持っていた棍棒を拾ってオークの側に立つ。

胸が上下に動いている。

目を閉じ深呼吸する。


すぅぅぅぅぅぅぅ、はぁぁぁぁぁぁぁ、よしっ!


目を開け、両手で棍棒を持ち上げオークの頭に降り下ろした。

ぐちゃっと潰れて陥没したオークの頭、びくっと一度体が跳ねた後動かなくなった。


つんつんして動かない事を確認して、飛び蹴りをして吹き飛んだオーク達のところに行く。

蹴りを入れたオークは胸が陥没していて死んでいた。


巻き込まれたオークは瀕死の状態だった。

棍棒をフルスイングして頭が半回転し動かなくなったのを確認し、首の皮を掴み引き摺って最初の一体の横に置く。


自分より縦も横も幅も大きく、体重が結構ありそう(100キロは絶対超えている)なのに軽々と片手に一体ずつ持てて少し驚いた。


でも……

うーん……

害獣?人敵?のオークって言っても生き物を、初めての殺しなのに、しかも豚顔だけど人ような姿を、すぐに殺す覚悟ができ、殺した嫌悪感とか沸かないのっておかしいよな……


思考にのまれそうになった時、視界にイルちゃんに掴まりながら片足をけんけんして近づいてくるアニーちゃんとイルちゃんを見て、現実に戻る。


「逃げる時に足を捻ったのかい?動かないで座ってていいよ。」

「降りろって言われて、足踏まれたの!」

「は?なに?どういうこと?」

「お姉ちゃん、怖い……」


誰かに怪我をさせられたことに怒りが沸いてしまった。

深呼吸して落ち着かせる。


「あぁ、ごめん。ごめんな。イルちゃんどういうこと?」

「私達、乗合馬車に乗ってタロザリンドに向かっていたんですけど……」

「馬車に乗っていたの?こう、馬車で移動する時って護衛とかいたんじゃないの?」

「はい。この道には角ウサギやゴブリンしか出ないみたいで、護衛は自由組合員に依頼されているみたいですが……」

「オークが出てきたら手を引っ張られ足を踏まれたの!」

「……」


あぁ、察したよ……

角兎にゴブリン、自由組合員……

オークに敵わないからって子供を囮にってことか……


怪我させた奴は一発殴りたい。

謝るまで殴りたい。

いや謝っても気が済むまで殴り続けたい。


その自由組合員に対して怒りが沸いて沸き漏れそうになるがまた深呼吸して落ち着かせる。


「……イルちゃん、アニーちゃんは逃げる為に囮にされたってことか?」

「は、はい。そうです。」

「イルちゃんは凄いな。その自由組合員が逃げる相手に立ち向かったんだから。」

「い、いえそんなことありません。」


凄いなと感心し謙虚なイルちゃんの頭を撫でる。


子供を囮、だと……

子供は宝だろう!

大人が守るべき者だろう!


それから親は何やってるんだよ!


怒りが再熱しそうになる。

一度目を閉じ気持ちを抑える。


「……お父さん、お母さんは守ってくれなかったのか?」

「……いません。」


イルちゃんが悲しそうな表情で言った。


こんな悲しい表情、亡くなっているのか……

二人だけでいることで察しろよ俺……


「ごめんな。」


いたら自分の娘だから全力で守るよな……

親戚のところ行こうとしたのか?


今すぐ聞くのは気まずかったから座らせたアニーちゃんの踏まれた足を確認することにした。

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