第23話「道程」

「お兄ちゃん! やっぱり一緒に登校出来るっていいですね!」


「そうか? 下校して家に着いたら嫌でも会うことになるんだから嬉しくもないだろ」


 何しろ一緒に暮らしているのだからな。学校くらい個人の時間を大切にしようとは思わないのだろうか? あるいは俺が陰キャでなくなることを恐れているのか、なんにせよ負担ではある。幸い今日は早く家を出たのでそれほど人気のない時間に登校している。


「まるで世界に私とお兄ちゃんしかいないみたいですね!」


「こんな早くから投稿しようなんて真面目な奴がいないだけだろ。そもそも時刻表的に汽車がまだ駅についてないし、通学してる奴が少ないのは当然じゃん」


 ロマンチックなことを言いたいようだがただ単に非常識なレベルで朝早くから登校しようとしているだけだ。


「しかしこれではお兄ちゃんのこぶ付きアピールができませんね……もっと私と一緒にいる時間を増やしましょうね!」


「はいはい、そんなくだらないこと言ってないで昼飯を買うぞ」


 たまにはカロリーブロック以外もいいだろう。雲雀にカロリーブロックを強制するのは……いや、強制はしていないのだが……良くないことだろう。いくら栄養がとれていると言っても毎日は常人にはキツい。多少は雲雀の好みも反映しなければな。


 まあ雲雀は俺とおそろいを買うと宣言しているので結局俺と同じモノになるんだがな。


 通学路を少し離れてコンビニのカオソンに入る。パンの棚に直行してカツサンドを手に取る。幸い二個残っていたのは救いだろうか。一緒に入ってきた雲雀もカツサンドを手に取っていた。


「お兄ちゃんの食べ物の趣味はとことんジャンキーですね」


「理想的な弁当は肉と米のみで構成されていると思ってるからな、緑黄色野菜なんて不要なんだよ」


「頼むから早死にしないでくださいよ……?」


 弁当に肉と米以外の何が必要だというのだろうか? かろうじて許せるのは牛丼の玉ねぎくらいだ、誰かが作ったならともかく、自作するんだったら肉以外のおかずは不要となるはずだ。


「美味しいものを食べて死ぬはずがないだろうが」


「ベニテングタケって毒があるけど超おいしいらしいですよ?」


「それは食べ物とは言わない」


 雲雀は屁理屈に食べてはならない物を例に持ち出してきた。屁理屈もいいところなのではないだろうかと思うのだが、我が妹は自信満々に断言している。問題は、俺がベニテングタケを食ったら一緒に食べそうな気がするのが恐ろしいところだ、いや、俺は心のどこかで『そう言う妹だ』とはっきり思っている。


「お兄ちゃん飲み物は何にするんですか?」


「ん? 普通に烏龍茶だけど?」


「そうですか、私も同じのにします」


「いや、飲み物まで会わせなくても……」


「何を言いますか! 同じものを買っておけばお昼に『間違えて』お兄ちゃんの飲みかけを飲んじゃうってイベントが起こせるじゃないですか!」


 故意犯じゃねえか……間違えてって……そんなもの間違えようがないだろうに。仕方がないのでレモンティーも一本買っておいた。烏龍茶を飲まれたら、こっちを飲めばいいだろ。


「会計済ませるぞ?」


「はーい」


 俺はスマホをタッチして会計を済ませる。田舎でもテクノロジーの恩恵を受けられる僅かな機会だ。スマホに対応した決済をできる場所がコンビニくらいしか無いのが悲しいところだ。汽車? 切符ですが何か?


 交通用ICなんて決済手段の一つであり、決して交通機関に乗るための物ではない。それが田舎というものだ。タッチして改札が開く? 自家用車があるだろ?


 そんな僻地にも出店してくれているコンビニは非常にありがたい存在だ。あとの現代社会との接点と言えばネット上くらいしかない。ネットが発展しているので都市部との買い物格差は減っているにせよ、実店舗は欲しいからな。


「お兄ちゃん、いきますよ?」


「お、ああ、今行く」


 そう言ってコンビニを出た。暖かな日差しが照りつけてくる。


「在宅学習になんねーかな……ネットがこれだけ発展してるんだから出来るだろ」


「無理を言わない、そんなもの許したらただでさえいい加減な学校教育がもっといい加減になっちゃいますよ?」


「どーせこの田舎にまともな教育機関を期待している連中なんていないって……有望株は東京に出てくだろ」


「お兄ちゃん、気持ちは分かりますが気が滅入るようなことを言うのはやめませんか? 配られたカードが全てなんですよ」


「しょうがないな……さっさと行くか」


「あんたら登校中になんて話してるの……」


 呆れ声が後ろから聞こえてきた。もちろん声の主は真希だ。


「真希さん、私とお兄ちゃんの睦言に割り込むのはやめてもらえませんか?」


「どこからどう聞いても田舎の愚痴だったよねえ!?」


 真希の心からの言葉だが俺は田舎の愚痴を言っていたつもりは無いぞ。ただ単にこの辺に足りないものを挙げて言っていただけだ。決してここがド田舎だから密林が当日配送してくれないぞなどと愚痴を言っていたわけでは無い。


「どこがだよ? 健全な会話だっただろうが」


「年齢制限はかからない会話だけど動画サイトだと広告剥がされそうな会話だったわね」


「お兄ちゃんがそんな不穏な話をするはずないでしょう?」


「不健全の塊の判断は役に立たないわよ」


「だあれが不健全の塊ですかあああ!!!!」


 真希と雲雀が平和にじゃれ合っている。この様子なら健全な会話だったのだろうな。不健全だったらそもそも真希は関わろうとするようなやつではない、そこは信頼を置いている。


「そこまで言ってないわよ……思ってるけど……」


「お前も大概辛辣だな」


「思うくらいはいいでしょう! 思想信条の自由よ!」


「だったら私のお兄ちゃんに対する思いも思想信条の自由でしょうに」


「雲雀ちゃんのは一々不健全なのよ! 不純なのは認められません!」


「っち……見た目ギャルのくせに意外と身持ちが堅いタイプですか……」


「お前らなんの話してんの?」


 俺の問いは完全にスルーされた。二人でやいのやいの言いながら登校することになったのだが、俺はそれなりに満足していた。


「仲……良いよなぁ……」


 俺は雲雀についていける友人ができたことを感謝しながら登校したのだった。なお、雲雀と真希は言い争いに夢中になって予鈴ギリギリにダッシュして登校していたのだが、一人で勝手に登校したことを二人に大層恨まれたのだった。そこだけは意見が合うんだな……

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