最終話 覚醒したゴオ。
僕は泣いていた。
子供の時から、泣くと、周囲が慌ただしくなったっけ。
内在する力が爆発して、手がつけられなくなるらしい。
僕の頭上には直径30メートルを超える巨大なファイヤーボールが浮かんでいた。
これは……。
僕が出したのか?
邪神ホシガルは再生を終えていた。
『な、なんだ、この魔法は!?』
邪神は危機感を覚えて大きく距離をとった。
そして、口の中に力を集中させる。
『そんな魔法、撃たせるもんか! ハァーーーーーーッ!!』
奴は口から波動を出した。
それは黒い波動で、凄まじい力を宿す。
喰らえば、人の体など、たちまち塵と化して骨も残りはしないだろう。
まずは、この波動を防御する必要があるな。
このファイヤーボールを使うか。
『何ィイイイイイ!? 巨大なファイヤーボールで防御だとぉおお!?』
うむ。
上手くいった。
「凄いですゴオさん!! 邪神の攻撃を完璧に防いでいます!!」
「流石です師匠ぉ!!」
「いいわよゴオ! そのままテラファイヤーボールで邪神を倒しちゃいなさい!!」
よし。
そうしよう。
この巨大なファイヤーボールを……。
拳を使って……。
正中線状に……。
「撃つ」
僕の正拳はファイヤーボールを押し込んだ。
ドォオン! という轟音とともに衝撃波が発生。
それは巨大なファイヤーボールを消滅させた。
「テラファイヤーボールを更に強い打撃で消滅させたーー!!」
というリンザの突っ込みと同時に、その波動は邪神の体を破壊した。
『ぐはぁあああああああ!! な、なんだこのパワーはぁあああああああ!?』
邪神は叫び声と共に、
『わ、私が……。邪神ホシガルが……。そ、そんなバカな……』
骨の一片も残らずに消滅した。
広がるのは衝撃波が作った抉れた大地である。
「わはーー! ゴオさんが勝っちゃいました!!」
「強すぎです師匠ぉおおお!!」
「結局、打撃で倒すのね……凄すぎるわ」
勝ったが……。
結局、魔法は当たらなかったな。
うう。
まだまだ修行が足らない。
「ゴオ……」
リンザが僕を見つめる。
その傷は僕の回復魔法によって治り、完全に復活したようだ。
彼女はニコリと微笑むと、僕の体を抱きしめた。
「ありがとう」
これは彼女流の感謝の表現なのだろう。
しかし、
「リンザ……」
「何?」
「汚いから離れてくれ」
「汚くないわよ!!」
「いや、汚れが酷いぞ」
「失礼ね!! こんな美少女が抱きついてんだから、ちょっとは喜びなさい!!」
「抱きつくなら、せめて風呂に入ってからにしてくれ」
「情緒って言葉を知らないの!? 今が抱きつく時なのよ!!」
「情緒が不安定なのは君らしいな」
「不安定なんかじゃない!!」
アイリィは深く頭を下げる。
「ゴオさん、ありがとうございます。お姉ちゃんを助けてくれて!」
「……まぁ、全員無事なら良かった」
「あれ?」
「なんだ?」
「いつもの返答じゃないですね?」
「…………」
「いつもなら、『利害の一致だ』って言うのに。ふふふ」
自分でも驚いているんだ。
複雑な気持ちなんだよな。
なんて表現していいかわからん。
「でも、驚きました。まさかゴオさんが
「……使った覚えはないが?」
「え? でも、一瞬でお姉ちゃんを治してしまいましたよ?」
「おそらく
「パワーアップ?」
「昔から、涙を流すと力が上がるんだ」
暴走するともいうが……。
両親が亡くなった知らせを受けた日。
僕は迂闊にも泣いてしまった。
その時、力が暴走して、家を全壊させてしまったんだ。
よって、僕は冒険者になって宿屋に泊まっているんだよな。
まぁ、そんなことは彼女らにはとても言えないけどね。
「じゃあ、あのテラファイヤーボールは?」
「ああ、あの大きな火の玉な。勿論、ただのファイヤーボールさ」
「ええええ! す、凄いパワーアップですね!?」
泣くと力が暴走するなんて、本当に未熟者だ。
まだまだ修行が足らない証拠だな。
「じゃあ、名付けるならば
やれやれ。
そんなモノに名前をつけないで欲しいよ。
リンザはニヤニヤと笑う。
「ニヘヘ。ねぇゴオ。
「なんのことだ?」
「だって……。フフフ」
「なんだよ?」
「
「目にゴミが入っただけだ」
「フフフ。嘘が下手なんだかぁ♡」
「離れてくれ。汚いから」
「汚くない!!」
そんなことを話していると、城にいた連中が僕の前に現れた。
城兵は数千人はいるだろう。
その前には官僚たちが並ぶ。
大臣と思われる男が跪く。
「邪神との戦い。見させていただきました。この国は貴方様に救っていただきました」
やれやれ。
僕は国を救う為に戦ったのではない。
あくまでも、生活の安寧を確保する為なのだ。
「レガルスの謀反から国を救っていただきありがとうございます」
大臣をはじめ、城兵一同が僕たちに頭を下げる。
感謝の念も大切だが、城は半壊し、その周囲は焼け野原。
僕の発生させた打撃の衝撃波で城の前の大地は抉れている。
「修復が大変だな」
「国があっての修復でございます。本当に、ありがとうございます」
男は再び深々と頭を下げた。
と、そこへ、
「ゴオが邪神を倒したんだけどさ! 一緒に戦ったのは、このリンザのパーティーなのよねぇ!」
「おお、そうでしたか。合わせてお礼、申し上げます」
「ウフフ。まぁ、言葉もなんだけどぉ……」
「……ええ。勿論。それ相応の謝礼を渡させていただきます」
「あは! そうこなくちゃ♡」
やれやれ。
ちゃっかりしてる。
まぁ、僕と共に邪神と戦ったのは彼女だからな。
言う権利はあるか。
☆
ナナトナは国に残ることになった。
城が大変な時に王位継承者が外に出ることはできないのだ。
「師匠ぉ……」
と、瞳を潤ませる。
「俺……。師匠ともっと冒険がしたいです」
「君には国があるからな。仕方ないよ」
「うう……。じゃ、じゃあ、この件が落ち着いたら、また一緒に冒険してもいいですか?」
「ああ」
「あは♡ ありがとうございます!」
彼女は僕に抱きついた。
こうして、ナナトナとも別れ、僕たちは変化狼のハウルガオが変化した狼車に乗って、王都ロントモアーズへと帰ることになった。
その車の上では、金貨の入った大きな袋を持って、ニヤつくリンザがいた。
「ニヘヘェ。たんまりよ♡」
報酬の交渉については彼女の得意分野と言ってもいいだろう。
その部分は僕よりも長けているよな。
「さぁ、たんまりと飲むぞぉおお!! ゴオ、あんたも付き合いなさいよね!」
「断る」
「なんでよぉおお! 勝利の祝杯って言葉を知らないのぉ!?」
「あんな勝ち方では満足できない。もっと余裕は必要だ」
「んもう! あんたは十分強いってぇ!」
「いや。まだだ。まだまだ力が足りん」
「どんだけ強くなるつもりよ!?」
「あはは。ゴオさんの強さへの渇望は止まりませんね」
もっと強くならなくては、生活の安寧は確保できないのだ。
で、結局。
王都に帰るや否や、僕はリンザの推しに負けて、酒に付き合うことになる。
「みんな聞きなさい! うちのゴオがね! 伝説を作ったんだからぁあああ!!」
はぁ、やれやれだ。
おしまい。
────
ご愛読、ありがとうございました。
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強すぎ! 物理打撃系賢者〜「もっと魔法の威力を鍛えなくてはな」「いや、正拳突きで殲滅してるってば!」〜 神伊 咲児 @hukudahappy
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