第13話 邪神ホシガルの攻撃
レガルスは笑う。
「私は邪神に操られてなどいない! むしろ邪神を操っているのだ!!」
彼の言葉に城内は騒つく。
「そこにいるナナトナは女の癖に次期国王になる御身分だ。そんな馬鹿なことがあるか!? 無能な女が、ただ血筋だからといってこの国のトップに立つのだぞ? 私は、一生、騎士団長で終わる惨めな人生に飽き飽きしたのさ! この国を支配するのは強い者であるべきなのさ!!」
やれやれ。
とんでもない理由だな。
「だからって、他者を騙し、殺していい理由にはならんさ」
「うるさい! この国は私の物なんだぁあああ……」
レガルスの体は邪神ホシガルに溶け込んだ。
「フハハハ! 最高の気分だ! 強い! 最強の体だぁあああッ!!」
邪神ホシガルから発せられる声はレガルスそのもの。
悪魔に魂を売ったか。
「死ねぇ!!」
ホシガルは大きな拳を僕たちに向けた。
この一撃を喰らえば僕たちの人生は終わる。
しかし、リンザたちにこの攻撃を避けるほどの力はない。
拳は地面に命中。
ドゴン! と爆ぜる。
「フハハ! 弱い、弱すぎる! 残念だったなゴオ! ナナトナとともに、あの世で後悔するんだなぁあ。ギャハハハハーー!」
「後悔するのは貴様の方かもな」
「何ィイイッ!?」
僕たちは城から離れた高台に移動していた。
僕が、彼女ら3人を抱きかかえて、一瞬で邪神の攻撃から身を躱したのである。
「むぅ……。あの一瞬であんな場所まで移動したのか……。む?」
邪神は城兵たちから一斉攻撃を受けた。
無数の矢が邪神の体に突き刺さる。
「くぅ! この虫ケラどもがぁああ!!」
よし、城兵が攻撃している間に作戦会議だな。
「あ、あれ? なんで
「俺……。死んだと思ってました」
「ゴオさんが私たちを助けてくれたんだ!!」
ふむ。
キチンと念を押しておかなければならん。
「勘違いするなよ。君たちを助けたのは──」
「利害の一致でしょ! ああ、もうわかってるって!」
「ほぉ。よくわかったな」
「あんたの考えはお見通しよ!」
「じゃあ、次の行動がわかるか?」
「勿論、みんなで逃げるのよ!」
「逃げる?」
「当たり前でしょ! 戦略的撤退! あんなのと戦ってたら命がいくつあっても足りないわよ!」
「ふむ」
「邪神は城兵たちに任せて、
リンザの言葉にアイリィは眉を寄せる。
「で、でもナナちゃんがぁ……。あの城にはナナちゃんのお父さんがいるんだよ?」
「……か、構いません。逃げましょう。父もきっと避難しているはずです。このまま戦ったのでは、俺たちの命も危ない」
「決まりね! ゴオ、あんたも文句ないでしょ?」
やれやれ。
「ナンセンスだ」
「は? どういう意味よ!?」
「逃げる選択肢はない、と言ったんだ」
「はぁああああ!? ふざけんじゃないわよぉお!! いくらあんたが強いからって、あんな化け物に勝てっこないでしょおがぁ! 撤退が一番いい計画なのよぉおお!!」
「だから、それがナンセンスだと言ったんだ」
「ふざけんじゃないわよ!! みんなの命を最優先に考える。これのどこがナンセンスなのよぉおッ!!」
「考えてもみろ。あんな邪神を城兵達の力だけでなんとかできると思うか?」
「そ、それは……。か、数でなんとかするしかないわよ」
しかし、
城の方から聞こえてくるのは兵士たちの悲鳴だった。
「「「 ぎゃぁああああああッ!! 」」」
邪神に攻撃した兵士たちが、ことごとく返り討ちにあったのだ。
「あの状態でも、数でなんとかできると思うか?」
「だ、だからってねぇ! あんだけの兵隊で倒せない敵が
「自信の問題ではない」
「自信の問題よ!」
「僕が倒せるとか、倒せないとか、そういったことではない」
「な、何言ってんの??」
「あの邪神を放っておけば、人々の欲求を吸い取って、益々、力を増すだろう。このまま逃げたとしても、きっと僕たちの生活を脅かす存在になる」
「そ、そうかもしれないけどさぁ……」
「問題の先送りをして、生活の安定が図れるか?」
「うう……」
「毎日、いい気分で酒に酔うことはできなくなるぞ?」
「うう……」
「ベロンベロンに酔っ払って人に介抱してもらうほど、いい酒は飲めなくなるぞ?」
「な、なんか
「とにかく、あの邪神は僕たちの生活にとって邪魔だ」
「た、確かにね。倒すなら今かもしれない……。じゃ、じゃあ、ゴオなら倒せるの?」
「やるしかないのさ。僕の魔ほ──」
「打撃、でね」
「いや、魔法だ」
「そこは拘るのねぇ」
さぁ、詠唱を始めよう。
僕の眼前には小さな炎の球が現れる。
詠唱完了。
精神集中。
「こぉ……」
深く力を貯めて、一撃で決めるんだ……。
そう思っていると、ナナトナの叫びが耳に入る。
「ああ! 父上がぁあああ!!」
国王は逃げ遅れていた。
邪神レガルスの拳が、国王の体に命中しようとしていた。
もっと力を貯めたかったが、もう撃つしかないな。
この火玉を、
正中線状に……。
打つ、
「ファイヤーボール!」
僕の拳は小さな火玉を押し込んだ。
それは衝撃波となって邪神ホシガルの体に命中する。
「決まったぞ。僕の魔法」
しかし、邪神はほんの少し体を揺らしただけ。
城兵の攻撃をやめてこちらに注目する。
「フハハ! そんなちっぽけな打撃が効くか! ちょろちょろとめざわりだ。殺してやるぞ、ゴオ!」
やれやれ。
この程度の魔法攻撃ではダメージすら与えられないのか。
とはいえ、国王の命が助かったから良しとするか。
「ありがとうございます師匠! おかげで父上が助かりました!」
喜ぶにはまだ早い。
敵はダメージすらないのだからな。
「ゴ、ゴオの打撃が効かないなんて強すぎだわ!」
「ど、どうしましょうか、ゴオさん?」
もっと深い精神集中が必要だ。
つまり、
「時間がいる」
「どういうことよ?」
「100パーセントのファイヤーボールを撃つためには、もっと精神を集中する時間が必要なのさ」
「……い、今まで本気じゃなかったの?」
「僕が本気を出すと、周囲の建物を破壊してしまうからな」
「あ、あんたならあり得るわね……」
邪神は僕の眼前に立っていた。
みんなは距離を取る。
「ちょっとゴオ、逃げないの!?」
「師匠、距離を取りましょう!?」
「ゴオさん、危ないですよ!?」
逃げることに力を使っていたのでは精神集中ができない。
「フハハ! 死ねぇえええ!!」
邪神は、その拳を僕に打ちつけた。
「ゴオーー!」
「師匠!!」
「ゴオさぁあんッ!!」
みんなの悲鳴が空に響く。
と、同時。
邪神の拳が僕の体を押しつぶす。
しかし、
ガシィイイイッ!!
僕の片腕は邪神の拳を受け止めていた。
「ええええええ!? そんなことできんのぉおお!?」
「し、師匠凄すぎです!」
「凄いです!!」
邪神が苦悶の表情を浮かべる。
「くぅうう、こ、このぉおおお!! たかが賢者の分際でぇえええ!!」
両拳の連打。
「死ね! 死ね! 死ねぇええええええ!!」
ガガガガガガガガガガガガガッ!!
僕はその全ての攻撃をガード。
「ちょっとぉ! あんたの身体能力はどうなってんのよぉ!?」
「魔法防御と言ってくれ」
ガガガガガガガガガガガガガッ!!
「どこが魔法防御よ!」
「えーーと、打撃低減の防御魔法ディフェンスによってだな。敵の攻撃を防御できているのだ」
ガガガガガガガガガガガガガッ!!
「いやいや。全部、普通に受けてるだけだって!!」
「失礼な。魔法防御が活躍しているのだ」
ガガガガガガガガガガガガガッ!!
「あんた強すぎよぉお! もうゴオ1人で倒せるでしょう!?」
「無理だ。防御に徹していたのではコイツを粉砕するほどの魔法攻撃ができない」
ガガガガガガガガガガガガガッ!!
「ぐぬぅうう! 邪神の攻撃が効かないだと!? この、この、このぉおおお!!」
ガガガガガガガガガガガガガッ!!
さて、この状況……。
どうするか?
その時、小石が邪神にぶつかった。
「おバカ邪神のレガルス!! あんたの敵はここにもいるのよ!!」
それは離れた場所にいるリンザだった。
「悔しかったら
「ぐぬぅうう! 小娘がぁ!!」
邪神の照準はリンザへと移る。
ほぉ、彼女が囮になって注意を逸らす作戦か。
「今のうちよゴオ!」
「うむ。いい作戦だ」
「ふふ。このバトルが終わったら夜通し飲むわよ。付き合いなさいよね」
「断る!」
「なんで断んのよ! 馬鹿ぁあ!」
さて、彼女が邪神を引きつけてくれている隙に……。
「こぉ……」
精神集中だ。
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