第11話 魔法の力が呪いを解く


『グフフ……。貴様の力。欲しい……。欲しいぞぉお』


 国王は破壊された触手を再生させると、それをタコのようにうねらせた。


 宿主を破壊しても埒があかん。

 やはり本体を叩かなくてはな。


『その力、食ってやるぅううううううッ!!』


 僕は身を躱す。


 触手の数が多すぎるな。

 とても本体には近づけない。


 なら、動きを止めるのが得策か。


 僕はアイスボールの詠唱を始めた。


 眼前には小さな氷の球体が出現する。


 よし。

 準備は整った。

 あとはこの氷の球体を、


 正中線上に、


 拳で、


 撃つ!



「アイスボール!!」



 僕の魔法は国王の体に命中。


『ぐえぇえええええッ!!』


 と、叫びながらぶっ飛んだ。その体は王の間の壁へと押しやられる。


「凄いわ! ゴオの正拳突きが国王を捉えた!!」


「魔法と言ってくれないか?」


「いいかげん認めなさいよね!」


「なんのことだ? 僕はアイスボールで敵の動きを止めようとしたんだからな」


「アイスボールなんてあんたの正拳突きで消滅してるわよ!」


「……ぐぬ。僕の力はまだまだだな。もっと強くならなければ……」


「もう十分強いって!!」


 アイリィが顔を覗かせる。


「国王の呪いは解けたんでしょうか?」


 粉塵が沈むと、国王の姿が現れた。


『グフフ。その力。ますます欲しくなったわ』


 やれやれ。

 ダメージはなさそうだな。

 傷は回復しているようだ。


「ええッ!? ゴオの打撃が効いてないわよ!?」


「うむ。を受けて動けているのは大問題だな」


「打撃よ!」


「力をもっと上げるしかないか……」


「え? 本気じゃなかったの?」


「無論だ。ナナトナの父親を殺すわけにはいかんからな」


「……ど、どこまで強いのよ」


 僕は精神を集中した。

 

 深呼吸。


「こぉ……」


 ファイヤーボールの詠唱開始。


『グフフ。今だ!』


「あ! ゴオの体が!」


 僕は触手に巻き付かれる。


「ちょっとゴオ! どうして触手を破壊しないのよ!?」


 力を引き出すには、もっと深い精神集中が必要なんだ。


「た、助けに行きたいけど、こ、こっちも……。触手が、邪魔なの、よッ!!」

「お、お姉ちゃん! ゴオさんが!?」

「ああ! 師匠の体が父上に食べられる!?」


 精神を研ぎ澄まして、力の集中点を探す感じ……。


「ゴオ! 食べられちゃうわよ!!」

「ゴオさん!」

「師匠ぉおおおッ!!」


 国王は胸が裂けて大きな口となった。

 中は唾液と牙だらけ。


『グハハ! 美味そうな体だぁあああああああ!!』


 見えた!






「ファイヤーボール!」



 


 僕の魔法は国王に衝突。

 その体がギュゥウウウンと空間の一点に引き込まれたかと思うと、ドゴン! という凄まじい轟音が城内に鳴り響いた。




『ぎゃぁあああああああッ!!』



 

 国王の触手は断裂。

 部屋の壁に衝突して埋まった。


「な、なんだったの今の? 国王の体が空間に引き込まれたわよ??」


「僕のファイヤーボールが重力に影響を与えたんだ」


「じゅ、重力って……。確か、りんごが地面に落ちる力のことよね? それと、あんたの打撃がどう関係するの?」


「ただ力を上げるだけだと城の外に吹っ飛ばしてしまう。だから、力を一点に集中させて、その場に体を止まらせたんだ。打撃が衝突した体内で僕のファイヤーボールが爆発する感じさ」


「もうファイヤーボールなんて微塵も関係ない技だけど凄いわ……」


「名付けるならば、グラビティファイヤーボール」


「あは! ゴオさん、凄いです!!」

「流石は師匠だ!!」


 さて、国王はどうなっただろうか?

 ハウルガオは僕の打撃で呪いが解けたが?


「あ、あれ……ここはどこだ?」


 瓦礫の山から顔を出したのは中年の男だった。


「父上!」


「お? ナナトナ……。私はどうしていたのだ?」


 うむ。

 呪いは解けたようだな。


 騎士団長のレガルスは震える。


「ま、まさか……。だ、打撃で呪いが解けるとは……」


 王の間はめちゃくちゃなので、僕たちは会議室へと移動した。


「なんと? 私は呪われていたのか?」


 どうやらそれまでの記憶を無くしているようだな。

 レガルスから事情を聞いて、更に驚いていた。


「レガルス。ナナトナ。本当に迷惑をかけた……。すまなかったな」


「父上……。元に戻って何よりです」


「そして、ゴオさん、私を助けてくれてありがとうございます」


「コホン……。あたしのパーティーがあなたを助けたんですけど?」


「おお! そうだった。リンザのパーティーの活躍だったな! レガルス。彼女らに褒美を与えよ」


「は!」


 とレガルスは部下に命令を出して報奨金を用意させた。


「ではこれで……」


 と、盆の上に乗っているのは金貨の袋。


「あはぁ! 1千万コズンはあるわよ!!」


「ふむ。そうなると4人で分けたら1人250万コズンになるな」


「あ、俺の分は師匠が貰ってください」


「……しかし、大金だぞ?」


「構いません。俺は父上を救ってくれたことで十分ですから」


「では、貰っておくよ」


 よし。一気に500万コズンの収入だ。

 1年は楽に暮らせる金額だぞ。

 フフフ。僕の生活がドンドン安定に近づくな。


 アイリィが眉を上げる。


「そういえば、ナナちゃんの目的は呪われたお父さんを助けることだったよね?」

「うん」

「じゃあ、もう旅はお終い?」

「…………」


 順当にいけばそうなるよな。


「ナナトナ。無理はしなくていい。君はもう元の生活に戻れるんだよ」


「あ、いや……。そういうんじゃないんです」


「?」


「お、俺……」


 と言って顔を赤らめる。


「もっと師匠に色々、教わりたいです!」


「しかし、君はこの国の王子だろ?」


「でも、王子には強さが必須です!」


 確かにな。


「付いていくのは迷惑ですか?」


「しかしな。国の事情もあるだろう?」


「父には説明して納得してもらいます! ゴオ師匠は父の恩人なのですから!」


 彼女は国王を説得。旅の了承を得た。


「これからもビシバシ鍛えてくださいね師匠♡」


 やれやれ。

 仕方ないな。


「ねぇ、ナナちゃん……。もしかしてゴオさんのこと……」

「な、なんだよ。俺は師匠は師匠としてしか見てないよ」

「う、嘘!」

「嘘じゃない! 師匠は師匠だ! その……男性としては素敵だけど……」

「そ、そういうのダメだからね!」

「なんでアイリィにダメって言われないといけないんだよ!」

「あーー! やっぱり好きなんだぁああ!」

「そういうんじゃない! あ、憧れているだけだぁああ!!」

「それって好きってことじゃない!! ダメだからね!!」

「なんで、アイリィの許可が必要なんだよぉ!」

「ダメなもんはダメぇええ!」


 やれやれ。

 すっかりアイリィと仲良くなっているな。

 話の内容はよくわからんが、友情が生まれているのは確かか。


 リンザはレガルスの顔を覗き込んでいた。


あたしたちが国を救っちゃったわねぇ……」


「……そ、それがどうかしたのか?」


「あなたから直々にお礼の言葉を貰ってないのよねぇ〜〜」


「しゃ、謝礼は渡したはずだ」


「……でもさ、あんたってあたしたちのことを邪険に扱っていたわよね?」


「そ、そ、そんな扱いはした覚えがない」


 そう言って目を逸らす。


 そういえば、彼は国王が助かって以来、僕たちと目を合わそうとしなかったな。


「酷い言葉を言ってたわよぉ? 『その女がパーティーのリーダーなのか? プフ! 碌でもない奴らだな。流石は王子のお仲間だ』とか『お前たちは邪魔だ! シッシッ! あっちへ行ってろ』って言ってたわよぉ?」


「し、し、知らん知らん」


「確実に言ってたわよぉ?」


「ぬ……ぐ……」


「碌でもない奴らのあたしたちが国を救っちゃったわねぇえ?」


「はうぅうう……」


「恩人にその言葉はないんじゃなぁい?」


「ぬぅ……」


「謝罪はぁ?」


「ぐぅ…………」


「フフフ。謝罪♡」


「ぬぐぅうううううううううううううう……」


 ふむ。

 放っておこう。



────


 面白ければ☆の評価をお願いします。


 次回はレガルスに変化があるようです。

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