第10話 安寧という利害の一致

 僕たちの前に3人の神官が現れる。

 騎士団長のレガルスは深々と頭を下げた。


「本日は遠い所をはるばるありがとうございます」


 何をするのだろう?

 と、見ていると、


「ゴオとか言ったな。お前たちは邪魔だ! シッシッ! あっちへ行ってろ」


 やれやれ。

 取り付く島はなさそうだな。

 しかし、このまま帰る訳にもいかん。

 この問題を放っておけば、周辺国で戦争が発展してしまうからな。


 仕方ない、離れた場所で状況を確認しようか。


「それでは先生方、よろしくお願いします」


「「「 うむ 」」」


 3人の神官はそれぞれが配置につく。

 王の間の扉の前で詠唱を始めた。


 あの詠唱文は解呪の魔法だ。

 こんな所で解呪の儀式をするのか?


「肉を扉前に置きますから、その時に」


「「「 うむ 」」」


 兵士たちが肉を運ぶ。

 扉前に置くと、あの恐ろしい声が響いた。


『グフフ。うまそうな匂いだぁああああ』


 王の間の扉が少しだけ開く。


『うん? なんだぁ、この空気はぁあ? 嫌な空気だぁあ……』


 と、扉の隙間から触手を出す。


 レガルスは汗を垂らした。


「今です! 先生方!!」


「「「 うむ!! 」」」


 3人の神官は触手に向かって解呪魔法を放った。

 しかし、そんな魔法が発動するより早く。


「「「 ぎゃぁああああッ!! 」」」


 城内に響いたのは神官たちの叫び声。

 触手は彼らの体を包み込み、凄まじい勢いで王の間へと引き込んだ。


 そして、


バリバリ。ムシャムシャ。


『グフフ……。人間の肉は最高だぁあ……』


 やれやれ。

 とんでもないバケモノになっているな。


「あああ……。父上ぇええ……」


 どうやら、ナナトナが旅をしている最中に随分と呪いが進行しているようだな。

 これは早急に手を打たなければならない。


「ああ、今回もダメだったか……」


 と、レガルスは項垂れる。


 おそらく、何度もこういったことをしているのだろう。

 今回は肉を取る瞬間に解呪の魔法を当てる、そんな作戦だったに違いない。

 

 彼は嘆息を吐き切ると、キッと眉を寄せた。


「よし。大臣を集めろ! 再び対策会議だ!」


 ふむ。

 何度も会議をこなして、解呪の方法を模索しているようだ。


「ね、ねぇゴオ……。今回は遠慮しない? 城内では対策会議をしてるんだからさ。そのうち良い案が見つかるわよ。これってどう考えとも危ないわよね?」


 確かに。

 あの状態の国王を相手にするのは僕たちにとってかなり危険だ。

 しかしな。


「師匠……。もう父は以前の父ではありません。お、俺はもうどうしていいか……。うう……」


 彼女の父親を救うことは、戦争の阻止に繋がる。

 それは僕の生活の安寧へと繋がるんだ。


 つまり、利害の一致。


 ならば、


「お、おい! 貴様! どこへ行く!?」


 僕はツカツカと歩いて王の間の扉へと向かった。


「ゴオとか言ったな! そこに近づくな!!」


「近づかなければ当てれないんです」


「な、何をだ!?」


「僕の魔法です」


「は?」


 僕は扉を開けた。


「わぁ!! バカ! 貴様、死ぬ気かぁあ!?」


 既に詠唱は済ませている。

 僕の眼前には小さな炎の球体が浮かんでいた。


『グハハ! また人間が来たのかぁああああ!!』

 

 僕に向かって触手が伸びる。

 

 正拳を、


 正中線上に、


 この火球を、


 撃つ!






「ファイヤーボール」





 

 僕の正拳突きが、いや、ファイヤーボールが凄まじい風圧を生む。

 それは扉を巻き込んで、触手を破壊した。






『ぎゃぁあああああああッ!!』





 国王の悲鳴が城内に響く。


 よし。手応えあり。


「何ぃい!? 触手を破壊するだとぉおおお!?」


 粉砕された扉は粉塵を巻き上げた。

 部屋の中は煙で見えない。


「す、凄い! 流石は師匠だ!!」

「あは! 凄いですゴオさん!! 触手をやっつけちゃいました!!」

「そこの騎士団長さん! これがゴオの実力なのよ!!」


 喜ぶのはまだ早い。

 倒したのは触手だけだからな。


 煙が収まると、全身が緑の国王が現れた。

 体中から触手を出し、まるで、蜘蛛かタコのような悍ましさである。


『グフフ。凄まじい力を持っているなぁああ! 欲しぃいい! 欲しいぞ、その力ぁああああ!!』


 さて、本番だな。


『くれぇええ!!』


 と、新たな触手を伸ばす。


「おことわりだ」


 僕はすかさず体を躱した。


「きゃあああッ!!」


 おっと、触手はアイリィに行ったか。


「ファイヤーボール」


 僕の正拳突き……。いやファイヤーボールが触手を再び破壊する。


「ゴオさん。ありがとうございます!」

「君は僧侶だ。いざという時の利害関係にすぎん。つまりは利害の一致」


「うわぁあああ!!」


 やれやれ。

 今度はナナトナか。


「ファイヤーボール」


 僕の魔法で彼女に絡む触手を破壊。


「ありがとうございます師匠」

「君はパーセナルの王子だからな。怪我をさせると上司である僕の責任になりかねん」


「ちょ! や、やめなさいよねぇええ!!」


 リンザにも触手が伸びる。


「は、放しなさいぃいい!!」


「…………」


「ちょ、ちょっとぉ!! やめろぉお!!」


「…………」


「ひぃいい!! 触手がぁあ!!」


「…………」


「このままじゃ食べられちゃうわぁああ!!」


「…………」


「なんであたしは助けないのよッ!?」


「君は自分でなんとかしろよ」


「おりゃぁあああああッ!!」


 ふむ。

 良い太刀筋だ。

 彼女の剣なら触手を斬れる。


「この薄情者!!」


「パーティーのリーダーなら当然だ」


「あ、あたしだって女の子なんだからぁあ!」


「何を言ってるんだ?」


「バカぁああ!」


 とにかく、彼女の剣なら後衛は任せそうだ。


「リンザ。彼女たちを触手から守れ」


「ゴオはどうするの?」


 わかりきったことを、


「本体を叩く」


「む、無茶よ」


 全ては生活を安定させるため。


「魔法の出番さ」

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