第9話 隣国パーセナルへ入国

 次の日。

 僕たちは朝食を食べるため、リンザたちの泊まる部屋へと集まった。


「パーセナルに行ってみよう」


 僕の言葉にみんなはお茶を飲む手を止めた。


「国王が呪われていて、隣国に戦争をしかけるというのなら、その呪いを解くのは急務だろう?」


「確かにそうね。いいわ。あたしは賛成よ」


「い、いいんですか師匠?」


「ああ、リーダーのリンザが許可してくれたのなら君が心配することはないよ」


「あ、ありがとうございます!」


「あは! 良かったね。ナナちゃん」


 さて、その呪いのことが気になるな。

 ……そういえば、変化狼のハウルガオもそんなことを言っていたか。


「おい。ガオ。いるか?」


『はい。ここに控えております。 主人マスター


 と、部屋の床からニョキっと顔を出す。


「うわぁあああ! モ、モンスター!!」


「安心しろナナトナ。こいつは仲間だ」


「な、仲間ぁ? モンスターが仲間なんですかぁ?」

「あはは。ナナちゃん安心して。狼さんはゴオさんと契約しているから、私たちに危害は加えないのよ」

「モ、モンスターを使役しているのですか……。さ、流石は師匠だ……」


 ガオなら、なにか知っているかもしれない。


「初めて戦った時、君は呪われていたよな? あの呪いはなんだったんだ?」


『はい。不思議な呪いでした。他者の物が欲しくてたまらなくなるです』


「ほお、だからダンジョンボスを倒して、白狼のダンジョンを自分の所有物にしたのか?」


『そうです。丁度、そこに 主人マスターがやって来られたのです』


 他人の物が欲しくなる……。

 パーセナルの国王。ナナトナの父親もそんな性質の呪いだ。


「どうやって呪われたんだ?」


『黒いモヤに襲われたのですが、その正体はわかりません』


 黒いモヤか……。


「なんにせよ。国王が呪われたものと酷似している。何か関係がありそうだな」


 リンザが腕を組む。


「そのモヤって広がっているんじゃない? 国王だけじゃなくてモンスターにも影響があるなんて怖いわよ」


「うむ」


「他者の物を欲するなんて争いに発展するわよ?」


「急いだ方がいいかもしれん」


「フフフ。この案件を片付ければ、あたしたちは英雄ね! このリンザのパーティーが世の中に平和をもたらすのよ!」


 やれやれ。


「僕はそんなことに興味はないけどね」


 生活が安定すればそれでいいんだ。


「ねぇ、ちょっとナナトナ」

「はい。なんでしょうかリンザさん?」

「呪いを解いたらさ。報酬って出るのかしら?」

「勿論です。国王の呪いは王室で大問題ですからね。解決していただければ、それ相応の報酬はさしあげますよ!」

「フフフ。そうこなくちゃ。俄然、やる気が出てきたわね」


 リンザは立ち上がる。


「ガオ! パーセナルに向かうわよ!」


『黙れ小娘。我は 主人マスターの言うことしか聞かん』


「うっさいわね! ゴオの上司はあたしなのよ!!」


 やれやれ。

 こうして、僕たちは隣国パーセナルへと向かうことになった。


「す、凄い。狼が馬車になるなんて……」

「フフフ。狼さんが引いてるから狼車ね」

「あ、そうか……」

「狼さんはゴオさんの命令でなんでも変化しちゃうの」

「へぇ……。師匠は凄いなぁ」


 道中は商人たちが使う公道を利用した。

 たまにモンスターに襲われたが、


「ふん! ファイヤーボール!!」


 僕の魔法で一掃した。


「凄い! 凄いです師匠の正拳突きはぁああ!!」


「……魔法攻撃なんだが?」





 4日後。

 僕たちは無事に目的地へと到着した。


 パーセナル城。


「ナナトナ王子が帰られたぞ!」


 と、城内は兵士たちが慌ただしい。


「父上は?」


「はっ。今日も王の間にて閉じ込めております」


 閉じ込める?

 どう言う意味だろう?


 王の間の廊下へ行くと、男が兵士たちに指示を出していた。

 

「やれやれ。ナナトナ王子……。どこをほっ付き歩いているのかと思ったが、帰ってきたのか」


 随分と態度がよろしくないな。


 男は鋭い目をしていた。

 軽装ながら甲冑を身につけており、その装飾品の豪華さから身分の高さが窺える。


「誰だその者らは?」


「俺の師匠ゴオさんとその仲間たちだ」


「ちょ、誰がその仲間たちよ! リンザのパーティーなんだからぁ!」


「ふん……。師匠だと?」


「俺は強くなるために、師匠の弟子になったんだ」


「くだらん。国が大変な時にあなたは何をしているのだ? あなたのその細い腕で何ができるというのだ?」


「くっ……。お、俺の強さは役に立たないかもしれない……。で、でも、師匠が助けに来てくれたんだ!」


「何者だ?」


 と、男は僕を睨みつける。


「僕はゴオ・マリクゥス。賢者をしている」


「賢者だと? ふん! くだらん!」


「師匠をバカにするな!」


「王子……。今は国が大変なのだ。必要なのは呪いを解く力だ。連れてくるなら解呪魔法を使える神官か聖女にしてくれ」


「師匠は強い!!」


「ふん! 強さが無駄ということは理解できないのか? 王子はまだまだ子供だな」


 男は鼻で嘆息をつきながら、


「私はレガルス・バレインスタイン。この城で騎士団長をしている。君たちには悪いが帰ってくれ」


「ちょ! それはないんじゃない!? あたしたちは隣国ロントモアーズから来たのよ!」


「はぁ……。やれやれ。王子のお戯れに振り回されましたなぁ。どうせ金が目当てだろう。だったら金はくれてやる。満足したらさっさと帰れ」


 と、金貨を何枚か床にばら撒いた。

 リンザはそれを拾いながら、


「金の問題じゃあないわよ! 仲間が困ってるんだから助けに来たのよ!!」


「やれやれだ。お前たちのお仲間ごっこに付き合っているほど、こっちは暇じゃないんだ」


「お仲間ごっこですってぇえ!? あたしたちは仲間のために来たのよ!!」


 と金貨を懐に入れた。

 やれやれ、ちゃっかりしている。


「リンザ。喧嘩をしに来たんじゃないんだぞ」

「だってゴオ! こいつ、ぶん殴ってよ! 許可するからぁ!」

「落ち着け」


「その女がパーティーのリーダーなのか? プフ! 碌でもない奴らだな。流石は王子のお仲間だ」


「キィイイイイイ!!」


「レガルス……。ゴオ師匠は強いんだ。必ず、なんとかしてくれる」


「くだらん、野蛮な連中の仲間になりおって……。あなたは王位を継承する人間なのだぞ」


「そ、そんなことわかってる! だから、師匠を──」


 と言った言葉を遮るように、レガルスの叫び声が城内に響いた。



「王子! あなたの遊びに付き合ってる暇はないんだぁああ!!」



 その怒号に、ナナトナは黙り込んだ。


 彼女と城内の温度差があまりにもあるな。

 しかし、折角来たんだ。このまま帰るってのもな。


「レガルスさん。僕たちを国王に会わせてもらえませんか?」


「ダメだ」


「なぜです?」


「……どこまで王子に事情を聞いているか知らんが、隣国の人間に何かあれば風評被害が甚だしい。貴様の命などどうでもいいが、王国の評判を下げるのはごめんだ」


 何があるというんだ?


 丁度、大きな肉の塊が台車に乗せられて僕たちの前を通り過ぎる。


 生肉だな……。

 料理してないぞ?


 それは王の間の扉前へと運ばれた。


『グフフフ……。いい匂いがするぞぉおお! 肉だぁあ! 肉の匂いだぁああああ!!』


 その声は王の間から聞こえた。

 聞くだけで体の温度が下がってしまうくらい悍ましい声である。


 すると扉がゆっくりと動いて、少しだけ開いた。

 その隙間から緑色の触手が現れる。

 それは人外の、明らかにモンスター。


 しかし、その先は人間の手を模していた。

 手は肉を掴むと、凄まじい勢いで王の間へと引き込んだ。


ガツガツ! ムシャムシャ! 


『グフフ! 美味い! 美味ィイイイイ!!』


 レガルスの顔が歪む。


「国王は変わってしまわれた……」


「お、俺がいた時の父上じゃない……。あ、あれじゃあ、まるで怪物だ……」


 王の間から笑い声が響く。


『ギャハハハ! 腹が減ったぁああ! 腹が減ったぞぉおおおおお!!』


 王の間の扉は、声の振動でビリビリと震えていた。


 やれやれ。

 厄介なことはごめんなのだがな。

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