第7話 弟子入り志願 【前編】
「ゴオさん。あの子……」
と、アイリィは後ろを見た。
そこには、さっき酒場で助けた少年がいる。
ふむ。
「何か用か?」
「……さ、さっきは助けてくれてありがとうございます」
「降り掛かった火の粉を払ったまでだ」
「…………」
悔しそうな表情だな。
きっと、自分がドンバを倒したかったのだろう。
随分とプライドが高そうだからな。
傷つけずにいてやろうか。
「相手の技量を判断するのも、強さだぞ」
そう言って歩き始めると、彼は僕たちの前へと移動した。
深々と頭を下げる。
「俺を、弟子にしてください!!」
はぁ?
「なぜだ?」
「あなたは強い! 俺、強くなりたいんです!」
リンザは自慢げに眉を上げた。
「ふふふ。確かにね。ゴオは強いわ。彼に弟子入りするってことは
「はい。入らせてください!」
「弟子ってことは雑用当番になるのよ? それでもいいの?」
「はい! 俺、強くなるためならなんでもします!!」
やれやれ。
なんだかえらいやる気だな。
リンザは僕に耳打ちした。
「フフフ。いい子じゃない。弟子に雑用をさせれば、
うむ。
「断る」
「なんでよ!?」
「信用ならん」
「出た! 慎重派!」
「自分の正体を隠す人間を信用できるわけがないだろう」
「どう言う意味よ?」
僕は彼女をマジマジと見つめた。
「君。女だろ?」
「「「 え!? 」」」
「ちょっとゴオ! 説明しなさいよね!」
「ゴオさん。どういうことですか!?」
「服装で隠しているが、体のラインと筋肉のつき方が男とは微妙に違うんだ」
「そうなんですか?」
「……さ、流石です。俺の性別を見抜くなんて……。やはり、俺が見込んだ人だ」
と、彼女はフードを外した。
現れたのは輝く金色の長い髪。後ろで束ねて男のように見せているが、その美しさは十分だろう。
瞳は大きく、アクアマリンのよう。
日焼けを知らない真っ白な肌は高い身分を想起させた。
「うわぁ! 可愛い子ですねぇ! 女の子だなんて、全然、気が付かなかったです! 流石はゴオさんですね!」
「いつもながら凄まじい観察眼ね。……で、あんた、一体、何者なのよ?」
「俺はナナトナ・ヴァン・フォーゼンシュタインと言います」
フォーゼンシュタインだと?
確か、隣国パーセナルを治める王族の名前だ……。
つまり、彼女はお姫様?
そんな存在が、男装して男言葉を使いながらギルドにいたのか……。
ますます訳がわからんな。
「外で話せる内容じゃなさそうだな」
僕たちは宿屋で話すことにした。
アイリィがナナトナの前にお茶を置く。
「俺は末っ子の第7王女なんです。上には姉様が6人います」
「ほお……。それで、なぜ男装をしているんだ?」
「周辺国と良好な同盟を結ぶ為です。王都はたくさんの国と同盟を結んでいます。6人の姉様は周辺国の王女になりました。国王の子供に男はいませんから、王都は、俺を王子として後継にしようとしているのです」
王族の考えは複雑だな。
しかし、彼女だけが男装をして暮らすなんて、なんだか不憫だ。
アイリィは小首を傾げる。
「それって、ナナトナさんがお嫁さんを貰うってことですか?」
「そうです。俺が王子ですから」
「え? 女の子同士の結婚じゃないですか?」
「相手方も納得してくれています。将来は子供を養子にもらう予定です」
「男の人と結婚できないなんて、なんだか辛いですねぇ……」
「構いません。俺は男として生きることに決めましたから。それで、武者修行をしていました。身分を隠して隣国の王都ロントモアーズまで旅をしていたのです」
ふむ。
「大方、話はわかった。で、君の要求は?」
「俺を弟子にしてください! 強くなりたいんです!!」
「なぜ強くなりたい? 性別を隠すことと強くなることは繋がらないぞ?」
リンザは眉を上げた。
「そんなの、次期国王になるからに決まってるじゃない。国王は強くなくちゃね」
しかしな。
「護衛も付けずに次期国王を武者修行に出すのは不自然だ。不用心にもほどがある」
「う……。流石はゴオ。鋭いわね……」
ナナトナはまだ、
「君は、何かを隠しているだろ?」
「……さ、流石は俺が見込んだ人だ。なんでも気づかれてしまうんですね」
「君の秘密が、僕たちの安全を脅かさないとも言い切れないからな」
「じ、実は……」
と、ナナトナは体を震わせた。
「国王は……。父は呪われているのです」
やれやれ。
なんだかヤバイ話になってきたな。
「平和主義者だった父は人が変わりました。他人の物に異常に執着するようになったのです。ある時は、俺の食べている食事でさえも横取りしました」
娘の食事を奪るなんて余程だな。
「父の異常行動は酷くなるばかり。果てはペットの餌まで食べてしまう始末」
「そ、それは酷いですね……」
「父の欲望は止まりません。今は周辺国に戦争をしかけようとしています。他国の資源が欲しいのです」
ふむ。
呪いなら……。
「神官や聖女はいないのか?」
「解呪の魔法を試そうとしましたが、父の力が強くて近づけないのです」
「厄介だな」
「暴走した父を止めるには強くなるしかありません。このことは王族や一部の官僚しか知らないこと。みんなは強い力を求めて旅立ちました。俺もこっそり国を抜け出して、強さを求めて旅をしているのです」
なるほど。
これが全容か。
「ゴオ。これは力になってあげるしかないんじゃない?」
「そうですよゴオさん。彼女の力になってあげましょうよぉ!」
ふむ……。
ナナトナは床に手をついた。
「どうか、俺を弟子にしてください!! お願いします!!」
みんなは僕を見つめる。その答えに期待を込めて、
うん。
「断る」
「「 ええええええええ!! 」」
「ちょっとゴオ! いいかげんにしなさいよね!!」
「ゴオさん! 彼女は困ってるんですよ!!」
「やれやれだ。彼女の事情はわかった。しかし、僕には関係ないことさ」
「あのねゴオ! 彼女は弟子にして欲しいだけよ! あんたが強くしてあげれば、後は彼女がなんとかするだけじゃない! 薄情にも程があるわよ!!」
「はぁ……。君は感情的になりすぎる。そう割り切った話ではないよ」
「どういう意味よ!?」
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