第5話 攻略、ダンジョンボス
アイリィの背後の壁が、大きな狼の顔へと変化する。
その牙が彼女を襲う。
噛みつかれれば即死である。
「きゃああっ!!」
僕は即座に彼女をおぶって回避した。
「ゴオさん! ありがとうございます!」
「君は僧侶だ。いざという時の為の回復役にすぎん。だから、助けたんだ」
ダンジョンボスの白狼は瓦礫の下敷きになって死んでいる。
それなのに、ダンジョンは消滅しない。
そればかりか、新たな狼の敵が出現したのはどういうことだろうか?
『ほぉ。素早いな。我の攻撃を避けるとは』
「お前は何者だ? ダンジョンボスは倒したはずだが?」
『ガハハ! 我は、変化狼ハウルガオ。新たなダンジョンボスだ』
新たなダンジョンボスだと?
「白狼は死んだのか?」
『我と戦っている時に瓦礫の下敷きになった。グッドなタイミングだ。我がダンジョンボスを引き継いだ』
なるほど。
さしずめ、ボスの下剋上か。
「つまり、お前を倒せばこのダンジョンは消滅するわけだ」
『フハハ! そうはいくか。貴様らを我の餌にしてくれる!!』
リンザの地面が盛り上がり。それは大きな狼の顔となって、彼女を噛みつこうとした。
「こんのぉお!
彼女の剣が狼の眉間を捉える。
しかし、その皮膚は硬い。
「ダメだわ! 堅い!!」
ふむ。
防御力は相当だな。
それに、変化狼とはよく言ったもんだ。
あらゆる壁から顔を出現させることができるのか。
虚を突かれて噛みつかれれば終わるな。
「だったら目よ! 目は柔らかいでしょ!!」
と、リンザの突きが眼球を攻めた。
『おっと! そうはいかん』
ハウルガオは地面に引っ込んで消えた。
やはり、この部屋全体がこいつの体になっている。
「ゴオ。速くて硬いわ! どうしよう?」
「うむ……」
こうなれば、
「魔法の出番だな」
「……いや、あんたの打撃の方がいいんじゃない?」
「打撃も当たらなければ意味がないからな」
「なるほど!」
僕は氷魔法の詠唱へと入った。
眼前には小さな氷の玉が出現する。
「アイスボールね! 敵を凍らせれば動きを封じれるわ! ……で、でも小さすぎない?」
精神集中だ。
「こぉ……」
「ねぇ、ちょっとゴオったらぁ! そんなアイスボールじゃ、あの狼には効かないってぇ!!」
ハウルガオは天井から顔を出した。
凄まじい速度で僕を襲う。
「ゴオ! 危ない!!」
突き上げるように……。
アイスボールを、
「撃つ!」
僕の拳は天を向く。
同時に、ドゴンという轟音を立ててハウルガオに命中した。
『ギャァアアアッ!!』
気がつけば地上である。
「あれ? ダンジョンが消滅してますよ?」
「やったじゃない! ゴオがダンジョンボスをやっつけたのよ」
「あは! ゴオさん凄いです♡」
ふぅ……。
なんとかなったな。
「魔法の勝利だ」
「……いや、結局、アイスボールはあんたの打撃で消滅してたわよ」
「……」
やや強引にいきすぎたか。
「もっと強くならなくては……」
「もう、十分強いわよ!」
僕たちの眼前には、象ほどもある大きな狼が犬のように座っていた。
「ゲっ! あ、あれってさっきの狼じゃない?」
「な、なんかこっちを見つめてますよ?」
ふむ。
敵対心はないようだな。
『我は呪われていた』
「ほお。それで人間を襲っていたのか」
『貴方のおかげで呪いは解かれた』
「そうか。それは良かった」
『我の
「なぜだ?」
『我は狼。リーダーに追従するのが性なのだ』
「あは! 凄いですよゴオさん! 狼さんの
「ま、あんたの実力なら認めざるを得ないわね。狼だって平伏すわよ。あんたの打撃にはね」
ふぅむ……。
「断る!」
「なんでよ! 強そうなモンスターが仲間になるならいいじゃない!」
「どこまで僕の命令に従うか確信が持てない。寝首をかかれては元も子もないからな」
「慎重すぎよ!!」
ハウルガオは頭を下げた。
『我の額に魔獣契約の印を押してくれ。そうすれば我は
「しかし、変な病気とか持ってないだろうな?」
『うむ。我は人体に無害だ』
「それならいいが、食費はどうなるんだ? 相当食いそうだぞ?」
『自分で調達できる力は持っている。
「そうか、では、次の確認だがな……」
「いいかげんにしなさいよね!! あんたに付き合ってたら日が暮れちゃうわよ!!」
「しかし、気軽に契約をして、後で不都合があっては困るだろう? 確認事項は100以上あるんだ」
「多すぎよ! いいから契約しなさい! 凄い戦力になるんだから!!」
「やれやれ」
俺はリンザに強要されて、強引に契約を結んだ。
ハウルガオの額に刻印が浮かび上がる。
これで僕の命令は絶対になった。
「まだ3時よ。こんなに早くダンジョン攻略できるなんて思わなかったわね。さっそく王都に帰りましょうよ」
『うむ。ならば……』
と、ハウルガオは体を変形させる。
荷台と馬のような狼になった。
『我が
「うわ! 凄いじゃない! これは便利よ!」
「あは! 狼の馬車ですね!! あ、引くのは馬じゃないから
2人ははしゃぎながらさっそく乗り込んでいた。
「どうしたのゴオ、乗らないの?」
「……これ、安全なのか?」
「はぁ??」
「図面はないか? まずは安全確認を十分にしてから……」
「いいかげんにしろ!!」
僕は安全確認をしたかったが、リンザに無理やり乗せられた。
かなり不安ではあったが、乗ってみれば快適である。
安全性も申し分なさそうだ。
僕たちは狼車に乗って王都へと戻った。
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