第4話 ダンジョン攻略は慎重です


「それじゃあ白狼のダンジョンに行くわよ!」


「待て」


「何よ? あたしの酔いは覚めてるわよ?」


「ダンジョンに行くならそれなりの準備が必要だ」


「準備?」


 僕たちは王都で買い物をした。


「そんな大量の食料を買い込んでどうすんのよ? 魚の干物に干し肉……。日持ちのする食量ばっかりじゃない」


「遭難した時の非常食だ」


「白狼のダンジョンは地下10階よ? 遭難なんてしないでしょ?」


「そう思っている人間が遭難するんだ。ダンジョンの地図はないんだろう?」


「白狼のダンジョンは突発性よ。先日、急に出現したみたい。だから、そんなダンジョンに地図なんてないわよ」


「それなのになぜ階層がわかっているんだ?」


「挑戦した冒険者がいたからでしょ? 情報提供してくれてんのよ」


「では、なぜダンジョンが消滅していないんだ?」


「ダンジョンボスを倒してないからじゃない。あんたバカね。そんなこともわかんないの?」


「つまり、失敗しているんだ」


「え?」


「挑戦者が失敗し、時には死ぬ。それが冒険だ」


「……」


「リーダーが楽観的では仲間の死亡率が上がってしまう。アイリィに痛い目を見せたいのか?」


「うう。痛いところを突いて来るわね」


 アイリィは山積みにされた食料を見つめた。


「でも、こんなにも持っていくのは大変そうですよ?」


「問題ない」


 僕は収納魔法でそれを収納した。


「ちょ、ゴオ! あんた収納魔法が使えたの!?」


「当たり前だろ。賢者なんだから」


「あは! ゴオさん、凄いです!!」


「……あんたがまともな魔法を使えんの初めて見た気がするわ」


 食料は揃ったな。


 リンザは意気揚々である。


「じゃあ、これで準備は整ったわね! 行くわよ!」


「まだだ」


「え?」


「次は松明」


「た、確かにいるわね」


「その次はロープ。薬草、毒消。包帯……」


「ちょちょ! 薬草なんて普段常備があるわよぉ!」


「ダンジョン用に日持ちのする物が必要だ」


「それ全部買わないといけないわけぇえ?」


「当然だ」


「ひぃーーーー」


「加えて、良質の物を選んで買う。粗悪品では意味がないからな」


「じ、時間がぁ……」


 アイテムを揃い終えた頃には日が暮れていた。


「んもう! 日が暮れちゃったじゃない!」


「それが準備だ」


「今日は休んで、明日の早朝出発よ! いい?」


「……仕方ない。そうするか」


 次の日。


「よぉし! 出発よ!」


「待て」


「はぁ? まだなんかあるのぉ?」


「計画を立てていない」


「計画ぅう?」


「バトル時のフォーメーション。ダンジョン探索の心得。怪我をした時の対処方法。遭難した時の行動理念」


「それ必要?」


「無論だ」


「んじゃあ、早めに済ませてよ」


「うむ。では、バトル時のフォーメーションであるが……」


 3時間後。


「──続いて、遭難した時の行動理念を説明する。教科書の12ページを開いてくれ」


「ちょっと! いい加減にしなさいよね! 終わらないじゃない!」


「しかし、必要なことだからな」

「そうよ。お姉ちゃん、12ページを開かないと」


「計画ってか、授業になってるわよ!」


「いや、しかしだな。知識は死亡率を下げるんだ」


「もう、こっちは冒険したくてウズウズしてんのよ! 教わるより体を動かした方が早いって!!」


「仕方ないな。巻きで説明するか」


 1時間後。


「はぁ……。やっと終わった」


「まだ、脱出できなかった時の、ダンジョンで暮らすスローライフについて語っていなかったが?」


「もう十分よ! 見なさい! お天道様があんなに真上に上がってるわ!! この調子じゃ、今日も行けなくなっちゃうじゃない! もう出発するわよ!!」


「うむ。では昼食だな」


あたしは冒険がしたいのよ!!」


「君は腹が減らないのか?」

「そうよ。お姉ちゃん。腹が減っては戦はできないわよ?」


「怒りで腹が減りまくってるわよ!!」


ーーギルドの酒場ーー


 リンザは大盛りのパスタをがっついていた。


「ハグハグハグ! いい!? もうこれ食べたら行くからね!! 絶対に冒険するんだから!! ハグハグ、モグモグ!!」


「そんなに食ったら太るぞ?」


「うるさい!」


「体が重くなると敵の攻撃を回避できなくなるんだが……」


「これが食べずにいられますか! お代わり!!」


 昼食後。

 僕たちは白狼のダンジョンの入り口へと来た。


「よぉし、じゃあ行くわよ!」


 ダンジョンに入るや否や、早速、モンスターが現れる。

 それは角の生えた大きな兎だった。


「イッカクラビットよ。待ってましたぁあああ!! ぬりゃぁああああああ!!」


 リンザの斬撃が炸裂する。


「うぉりやぁあああああああ!! これが冒険よぉおおおおお!!」


 うむ。シンプルに楽だ。

 僕の出番はなさそうだな。


 瞬く間にモンスターを殲滅。


「なはははは! 戦闘万歳!!」


 いつもより戦闘力が向上している。

 なんだか、目覚めさせてしまったな……。


 リンザは人差し指をペロリと舐めてから立てる。


「空気が流れてるわ。風上が出口だから、逆に進めば2階層に続く階段があるわね」

「あは! ダンジョンの心得! お姉ちゃん成長してるね!」

「おかげさまでね」


 しかし、1階は広かった。


 2時間後。


 何度も戦闘を繰り返し、リンザは汗だくである。


「うーーん。広いわねここ」

「お姉ちゃん、ちょっと休んだら?」

「そうね。ダンジョンは暑いから、水分と塩分を摂らないといけないのよね」

「そうそう。熱中症になるんだから」

「うう……。悔しいけど、ゴオの教えが役に立っているわ」

「ふふふ。やっぱりゴオさんは凄いよね」

「ふん。別に認めてないけどね」

「あれ? お姉ちゃん、結構余裕あるね?」

「まぁね。食料は確保してるし、ダンジョンの心得や、いざという時の避難行動は頭に入っているからね。そりゃ余裕もできるわよ」

「ふふふ。ゴオさんのおかげね」

「ふん……。ま、冒険は焦らなくてもいいわよ。ここのダンジョンだって1週間以内にクリアできれば早い方だと思うしね」


 ふむ。

 彼女たちが休んでいるうちに、僕は探索方法を考えようか。

 地図のないダンジョンは無用な行動を強いられる。

 体力が奪われては死亡率が上がってしまうからな。


「ちょっとゴオ。何してんのよ? 休む時はゆっくり休む。これはダンジョンの鉄則よ」


「うむ……」


「何? 床なんか触っちゃって。罠でも仕掛けてあるの?」


「ああ、ちょっと探索魔法でな。調べているんだ」


「そんなの使えたの? だったらそれで地下に向かう階段がわかるじゃない。早く使いなさいよね」


「いや。トラップを調べるのが基本使用だからな。壁の薄さくらいしかわからん」


「そんな所に罠なんてあるの?」


「ここ……。この床が薄い」


「そんなのがわかったところでどうだっていうのよ?」


 僕は拳を振り上げた。


「へ? ちょ、ゴオ?」


 床に打ち付ける。


「はっ!」


 床はドゴンと音を出して破壊された。


「え? ちょっと! 何やったの?」


「床を破壊した方が下の階層に行くのは楽だからな」


「そんなの教わってない!!」


 僕たちは崩れた床と共に下の階層へと移動した。


「こ、ここって2階層!?」


「1階の下だからな。そうなるだろう」


「ちょ、反則よ!」


「ふむ。探索魔法が役に立ったな」


「打撃の力じゃない!」


「はっ!」



ドゴン!



「さ、3階層!?」


「そうだな」


「あは! ゴウさん凄いです!!」


 ふむ。

 これを繰り返せばいいのか。


ドゴンドゴンドゴン!


「これで最後だ。はっ!」


ドゴン!


 最下層の10階層だ。


「よし」


「よし、じゃなぁあああああああああああいっ!!」


 さて、ダンジョンボスの白狼は最下層にいるはずだよな。


「ゴオさん。見てください! 大きな狼が瓦礫の下敷きになって死んでいます」


 白い狼……。


「多分、それがダンジョンボスだな」


「ゴオさん! 白狼は魔晶石になりましたよ! これがクリア証明になります」


 よし。


「無事終わったな」


「待ちなさーーーーい!」


「なんだリンザ。不満か?」


「不満しかないわよ! 私が思い描いていたダンジョン探索じゃないわ!」


 しかし、おかしいな。

 ダンジョンボスを倒したのならダンジョンは消えるはずなのに……。


『ククク。我に挑戦する、愚かな冒険者よ』


 急な違和感。


 部屋全体に嫌な気配。


 瞬間。


 アイリィの背後にある壁がスライムのように動く。


 この感じ!?

 

「アイリィ、危ない!」


「きゃああああッ!」


 ダンジョンボスは倒したはずなのに、まだ、敵はいるのか!

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